週刊READING LIFE vol.188

“良いもの”の辞め方がわからなかった《週刊READING LIFE Vol.188 「継続」のススメ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/10/03/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
“良いもの”の罠にハマって久しい。
 
罠、と書くと感じが悪いかもしれないけれど、勝手にハマっているのは私であって、誰も何も悪くはない。相手は私に間違いなく良いものを提供してくれている。
 
でも、良いものだからこそ、私にとってはタチが悪いのだ。
 
私が良いもの探しを始めたのは、結婚して子供を生まれてから。生まれたばかりの無防備な姿を見ていると、彼の命が自分の選択にかかっているような気がして身が引き締まる思いがした。何としても無事に、健康に育てなければ。ただ、そのために具体的にどうしたらいいのか全く勉強もしていなかった。
 
生まれてから数か月間、乳児湿疹が常に出ていて気になっていた。アトピーと言うほどひどくはないけど、頻繁におでこに赤いブツブツが出る。かゆいところに手が届かないからなのか、寝具や私の服などにおでこをあてて、こすりつけるようなしぐさをするのがいたたまれなかった。
 
誰に相談していいか困っていた時に、母乳外来専門の助産院があることを知り、わらを掴む思いで門を叩いた。
 
ふくよかで、何でも受け止めてくれそうな肝っ玉母ちゃん、といった雰囲気の助産師さんとの出会いで、私のライフスタイルは一気に変わっていく。
 
「人はね、食べたものでできているの」
 
施術の度に胸に残っている古い母乳を出してくれる。そうすると常に新鮮なおっぱいを赤ちゃんに提供できるらしい。古い母乳を見ると、お母さんの食生活が全部わかるのよ。助産師さんの言葉にドキッとする。食生活を気にしたことがなかったし、母乳を通して子供に全部行ってしまうなんて思いもしなかった。
 
その助産師さんはとても厳しい人で、食生活が乱れて乳質の悪いお母さんは、容赦なく叱られた。
 
助産師さんに怒られるのが怖くて、教えられた通りの食生活に変えた。基本は、和食中心で脂物少な目、味付け薄めの食事だけど、料理がとても苦手だった私は、和食の作り方がさっぱりわからなくて、近所の美味しい和食ランチの店で料理を習うことにした。
 
料理を習い始めてから、その店が玄米菜食の店だったことを知った。玄米菜食は、その名の通り、玄米のご飯と、おかずは動物性の食材を使わない。和食ではあるものの、結局お肉と魚を使う料理を習うことができなかった。
 
習った料理しか作れないという理由だけで、ベジタリアンの世界に入った私だったけど、そのお店で教えてもらったことを忠実に守った。添加物や加工度が高い食材を使わない、とか、調味料は昔ながらの製法にこだわったものを使う、野菜はなるべく有機野菜や無農薬の物を使う。子供がいない頃には、スーパーの有機野菜の棚を見て「こんなに高い野菜誰が買うんだろう」と思っていたのに。子供を守るために自分の価値観が全く変わってしまった。
 
食生活を変えると、子供の乳児湿疹は嘘のようにキレイに消えた。その変化は、人は食べたものでできているということを証明してくれた。そして、驚くことに長年困っていた自分の肌トラブルもきれいさっぱりなくなってしまった。
 
全ては子どものために、と思ってやったことだけれど、結果、自分のトラブルまでなくなって、無力だから守らなければと思っていた息子に逆に救ってもらえた。自分のトラブルがなくなるともっといろいろ変わるんじゃないかと欲が出てくる。
 
玄米菜食の料理教室だけでなく、マクロビオティックの存在を知って学びが始まった。今まで知らなかった学びが多く、自分が送ってきた食生活が罪深いものだ、と思ってしまった。食生活をマクロビオティックに切り替えたら、花粉症や冷え性、生理痛なども楽になると教えてもらった。息子の授乳の時にちょっと和食にかえただけで肌トラブルがなくなったくらいだから、きっと大変化が起こるに違いない、そう期待してのめり込んでいった。
 
けれど、思ったほど大きな変化はなかった。
 
私のやり方がまずいのかな?
ひどい食生活が長かったからな……身体が完全に入れ替わるまでには7年かかるという話もあるし、長い目で見ないといけないのかな……。継続しないと変われないんだろうから頑張って続けよう。
 
そんなことを思いながら、動物性の食事をあまり摂らない食生活を何年も続けてきた。けれど、まだオーガニックやマクロビオティックと言う言葉が知られていない時代で、一般的には変わり者と言う目で見られた。特に父からは、「宗教にハマったのか」と強く非難されて、ますます意固地になった。子供も、いちいち食べ物を制限されることに納得がいかないようだった。友達の家に遊びに行くと、その家で出された市販のお菓子を延々と食べ続けて肩身の狭い思いもした。
 
子供達が大きくなってきて、いよいよ、肉や魚のおかずが出ないことに不満が増えてきた。玄米ご飯も好きじゃないと言われる……。良いことをしているハズなのに、楽しくない。そんな期間を経て、マクロビオティックとは距離を置くことにした。
 
それから数年間、新しい自分のよりどころを探すために新しい学びを始めた。東洋医学を学んだり、ストレスを減らすために脳の断捨離のワークにも関わった。素材や調味料の質をこだわり続けながら、発酵食も取り入れた。
 
ここ2年ほどは、鉄分を取り入れる食生活を学び、今の食生活のベースになっている。それでも、少し不調が続いたりすると、私、何が足りてないんだろう……? と不安になってサプリが必要なのかな? などと調べてしまう。
 
周りも身体の勉強をしている人が多いから、色々な角度から、あれがいい、これがいいと学びをシェアしてくれる。どれを聞いても“良いもの”に思えて取り入れたくなってくる。
 
気が付けば、食事の面だけでなく、整体なども含めて、ものすごく沢山のメソッドに手を出している自分がいた。
 
食事に気を付けて、発酵を取り入れて、サプリも使ってみて……整体も自分でやるものから、施術をしてもらうもの、全身やってもらったり、頭をやってもらったり、骨格を調整してもらったり、毎日何かしらの勉強をし、どこかの施術に出かけて、一日が終わる。
 
全部良いもの。良いものを取り入れているから元気なハズ。
 
元気なハズ……なのに。
 
健康のために、週のかなりの時間を「健康のための何か」に割いていて、本当にやりたいことや、子供達のこと、家事がどんどん後回しになる。
 
元気になるハズなのに、余裕がない。
 
でも、みんな良いものだから、やめてしまうのは怖い……。だから継続してしまう。
 
気が付けば、“良いこと”の鎧にがっちりと身を固めてしまって、身動きが取れない。取れないのに、どこかをはがせば、そこからダメになってしまいそうでそれも怖い。
 
良いことに潰されそうになっていた。今までの、悪いことをやめるのは簡単だったけれど、良いことをやめるというのはとても勇気がいる。
 
そんな時に、友人がカウンセリングのモニターを募集していた。私はそれに飛びついた。
 
友人にいくつかの悩みを整理してもらって、“良いものを辞められない”も含めた全ての根っこに流れていたのは、「私の自尊感情の低さ」だ、ということに気づいた。
 
いわゆる、自分で自分を認める、というやつだ。それを修正するために、私は色んなメソッドを学んだはずだった。でも、自分に自信がないから、どれもやめることができないんだ。自分が自分に必要なものをちゃんと選べている、ということを認められないから、私の目の前に散らばっている“良いもの”達を溺れるほど沢山拾い集めて鎧のように守ってもらっているんだ……
 
何から自分を守ろうとしているのか、一体何がしたかったのか……苦笑いしかでなかった。
 
カウンセリングが終わった後、もう一度結果を思い返してみた。今まで、自尊感情の低さをどうにか転換して前向きにしたいと思っていた。色んな方法を試して、克服したと思っていた。でも、結局、根底に自尊感情の低さが蒸し返されて出てくるのだとしたら、自尊感情が低いという気質があると認めた上で、長くお付き合いしていくものなのかもしれない……そう思う方が、肩が軽くなる気がした。
 
自分は自信がない部分はあるけど、それと、良いものだからといって自分に必要のないものを辞めるかどうかの判断は全く別物なんだ。それに、何のための健康だろう? と考えたら、自分が健康になることにこだわりすぎて、健康でありたいと思うことがストレスになっているということにも気づいた。自分の頭の中で、うまくつながっていなかったドミノが急に倒れ始めたような感覚になった。
 
継続することが大変なこともある。一方で、継続している方が楽で辞められない時もある。そのどちらもきっと間違いではない。でも、もしも迷った時には、自分が何のためにそれをしているのかということを冷静に整理して、今、続けた方がいいこと、続けずに辞めることを選んでいこう。
 
罠の脱出方法がようやく見えてきた。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部公認ライター)

2022年は“背中を押す人”やっています。人とモノと場所をつなぐストーリーテラーとして、愛が循環する経済の在り方を追究している。2020年8月より天狼院で文章修行を開始。腹の底から湧き上がる黒い想いと泣き方と美味しいご飯の描写にこだわっている。人生のガーターにハマった時にふっと緩むようなエッセイと小説を目指しています。月1で『マンションの1室で簡単にできる! 1時間で仕込む保存食作り』を連載中。天狼院メディアグランプリ47th season総合優勝。

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2022-09-28 | Posted in 週刊READING LIFE vol.188

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