週刊READING LIFE vol.192

勉強が楽しい! と思える日が来るなんて《週刊READING LIFE Vol.192 大人って、楽しい!》


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/07/公開
記事:大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ここ最近になってやっとわかってきたこと。それは「勉強って楽しい!」ってことだ。まだ学校に通っている時は「なんでこんなに勉強しなきゃいけないんだろう? 数学なんてなんの役に立つんだろうか?」と思い、勉強がそれほど好きではなかった。
大人になって学校を卒業したらもう勉強なんてしなくてもいい、早く大人になりたい! と思っていた。
 
でも実際は、大人になってから格段に勉強の量が増えた。僕は理学療法士という国家資格を持っていて、いるいわゆるリハビリの先生というやつだ。国家資格なのでそれを取得するために養成校に在学中は3年間みっちりと勉強する。この国家試験に合格しないと理学療法士になれないので、とにかく勉強する。合格したらそこで終わりかと思うのだが、ここからが本番だ。
国家試験は筆記試験なので実技が圧倒的に不足しているのだ。例えるなら自動車免許の筆記試験だけ合格して、運転の練習を一切しないで路上に出ているみたいなものだ。
 
そうなると就職してから実技の勉強が必要になる。大きな病院であれば自前の教育システムがあるので、まだいいが、そうでない場合は自分でお金を払って外部に勉強をしに行く必要がある。もちろん貴重な休日を使ってだ。
 
子供の頃に「大人になって卒業したら勉強しなくていい!」と思っていた目論見は見事に外れ、仕事をしながら休日は仕事のための勉強もしなければならない。正直大変な職業を選んでしまったな、と後悔していた。でもこれは理学療法士に限ったことなのだろうか?
 
僕はアマチュア無線の免許とホームヘルパー2級の資格を持っている。これは学生の頃に父親に「一緒に行くか?」と言われて一緒に取得した資格だ。僕の父親は一般企業に勤める普通のサラリーマンだ。アマチュア無線もホームヘルパーも直接仕事には関係ない仕事だが、父は仕事の休日を利用して勉強しに行っていた。特にホームヘルパーの資格は間違いなく普段やらないような知識だったり技術だったりするので大変だったと思うが、講習会の日にあると「行くぞ!」と楽しそうに出かけていたのを覚えている。父にとって学ぶことが楽しかったんだろう。
 
そういえば父は他にもいろんな資格を持っていた。父の仕事はすごく簡単にいうと割り箸やお弁当の容器などの卸売だ。基本的には仕入れた品物を各店舗に届ける仕事である。仕事上飲食店によく出入りしているので、厨房の設備を設計できるようになったら仕事になるんじゃないかと一級厨房設備士の資格を取ったらしい。厨房の設備を設計するなら電気関係もいじれるといいだろうと考え、休日に知り合いの電気屋さんの仕事を手伝いながら電気配線のイロハを覚え、電気工事士の資格も取ったらしい。
 
実際にその2つの資格は仕事にも生きていて、僕が中学生の頃に実際の父の仕事を見てみたいと言って、デパ地下の某有名ローストビーフのお店の厨房設備の設置の仕事についていったことがある。その時の父はいつも家でのんびりしている父とは違い、現場の人たちに指示を出し、設計と合わない部分はその都度修正をし、中学生の僕でも手伝えそうな部分は一緒にやらせてもらいながらみるみる厨房を作り上げていった。初めて見る父の姿は純粋に「すごいな」と感じたのを覚えている。
 
それからも父はいろんなことを勉強していた気がする。それこそ20年以上前からパソコンのホームページビルダーを使ってホームページを作ったり、イラストレーターを使ってポスターやチラシを作ったりして、車で出かけた時に「あの店のポスターお父さんが作ったんだぞ」と言っている父を楽しそうだなと思っていた。
 
なぜ父は大人になってからこんなにも楽しく学び続けられるのだろうか? おそらく学ぶことでこれまで学んできたことがいろんな形でパズルのピースのように繋がってくるからなんじゃないかと思う。そしてそのはまったピースを見て「このやり方があったか!」と知らなかった道を見つけるのが楽しいんじゃないだろうか?
 
この感覚は最近僕にもやっとわかってきた。理学療法士の養成校では体のことや病気のことなど様々なことを学ぶが、どれも別々の先生で、別々の教科として習う。頭のいい生徒なら別々に習っても教科の枠を超えて関係性がわかり、すぐに臨床に生かせるようになるんだと思うが、僕はそうじゃなかった。例えば歩いていると膝が痛くなる変形性関節症という病気を学んだ時も整形外科の授業では「骨が変形する」「軟骨がすり減る」「このくらい変形してたら手術が必要」「治療は注射か運動」みたいなざっくりしたことしか教えてもらえず、「じゃあどうすりゃいいのよ?」と悩み、運動がいいんだろうと膝の周りの筋トレばかりをしていた。本当は体の構造を教えてくれる解剖学や体の動き方を教えてくれる運動学、体がどうやって生命を維持しているかを教えてくれる生理学の土台の上に変形性膝関節症を学ぶことで、「この運動ではこの筋肉を使う、この筋肉はここからここに付いてる筋肉だからこの動きで鍛えられる。筋肉が強くなるにはこのくらいの期間が必要だから痛みが取れるまでこのくらいかかる」と予測と計画を立ててリハビリを実施できるようになる。ただの膝の筋トレとは雲泥の差だ。
 
これに気づくまで僕は仕事を始めてから数年必要だった。そして最近やっと大きな土台に気づいた。そもそもリハビリで対象をしているのは人である。ということはまず人がどうやって動いて、生活して、生きているかを知らなければそこに戻すリハビリは提供できない。そして生活する場所はどこかというと地球だ。そうなるとまず必要なのが地球の上で人がどう生活しているか? を学ぶのが一番の土台になる。地球上での物体の運動といえば物理学だ。
 
あんなに高校の頃に苦手だった物理学を今更学ぶと思わなかったが、今は学ぶのが楽しい。なぜならどうやって使っていいかがわかるからだ。この新しく学んだパズルのピースがうまくはまっていくのは本当に楽しい。この新しいピースをはめると今までと全く違った絵柄になってくる。そしてこの絵柄が変わるのを体験するとまた別の絵柄をみつけたくなる。
 
体を動かすのが地球上での物体の運動で物理なら、体の中で起きてる筋肉を動かす作用とか、食べたものを消化吸収する作用、呼吸で酸素を取り入れてエネルギーを作り出して二酸化炭素を排出する作用は化学だ。体を作る材料は食事から摂取する。どんな栄養素が含まれているかは家庭科だし、人は耳から入ってくる音で大まかな自分の位置と対象物の位置を認識している。それは音の強弱だったり振動数でも変わってくる。そうなってくると必要なのは音楽だ。
 
高校生をもう一度やり直したいくらいだ。学生の時にも成績が良かったり頭の良い人はこうやって勉強の楽しさを時間していたんだろうが、僕は大人になって実生活で使えるのに気づいてからやっと楽しくなってきた。大人になると勉強って楽しい。
 
そして面白いことに直接関係ないことでも学びたいという意欲が出てきた。実際にこの記事を書くためのライティングの技術だったり、デザインの技術だったり、いろんなことを学んでいる。直接これに使える! と思って学んでいなくても後から今学んでいるピースをはめる場所が出てくる時もある。これはおそらく学んだピースをはめるための余白、自分の器が少し大きくなった瞬間なんだと思う。
 
今は学ぶのが本当に楽しい。こうなったのはおそらくいつも学ぶ背中を見せてくれた父の影響だと思う。その父は今年75歳だ。今でも現役で自分の会社を興して仕事をしている。ちなみに母は73歳でやはり毎日仕事をしている。2人とも楽しいかどうかは正直わからないが、少なくとも仕事は嫌ではないのだろう。そうでなければとっくに仕事を辞めて家でのんびりしているはずだ。
 
今年40歳になる自分の30年後の大人になった楽しみはなんなんだろうか? 今の両親をみると仕事が楽しみになっているのかもしれない。正直今の僕は勉強自体は楽しいが、仕事自体はできればやりたくないと思っている。学生の時の自分が勉強が楽しいのに気づけなかったように、今は仕事の本当の楽しさに気づけていないのかもしれない。今の両親のように仕事の楽しさに気づけるように今は沢山のことを勉強しながら仕事を続けていこう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

神奈川県藤沢市出身。理学療法士。2002年に理学療法士免許を取得後、一般病院に3年、整形外科クリニックに7年勤務す。その傍ら、介護保険施設、デイサービス、訪問看護ステーションなどのリハビリに従事。下は3歳から上は107歳まで、のべ40,000人のリハビリを担当する。その後2015年に起業し、整体、パーソナルトレーニング、ワークショップ、ウォーキングレッスンを提供。1日平均10,000歩以上歩くことを継続し、リハビリで得た知識と、実際に自分が歩いて得た実践を融合して、「100歳まで歩けるカラダ習慣」をコンセプトに「歩くことで人生が変わるクリエイティブウォーキング」を提供している。

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2022-11-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.192

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