きみには虫の鳴き声が聴こえるか《週刊READING LIFE Vol.197 この「音」が好き!》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2022/12/12/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
日本人は、虫の鳴き声を聴いて、秋を感じたり、情緒を感じたりする。
いにしえからの自然観といってもいい。
虫の音に耳を傾ける文化。
わたしは知らなかったのだが、外国の人は虫の鳴き声を「声」としてとらえないらしい。
なぜかというと、外国の人と日本人とでは、脳の使い方に違いがあるからだ。
どうやら、日本人の特徴というより日本語ならではの特徴らしい。
脳は右と左に半分ずつ分かれていて、それぞれ働きが異なるといわれている。
左脳は分析や計算、言語、右半身の運動機能を、右脳は感性や感情、左半身の運動機能を司る。
日本人は、機械音、バイオリンやチェロなどの西洋楽器、雑音を右脳で処理し、動物の鳴き声や琵琶などの邦楽器、母音などを左脳で処理をする。
一報、外国の人はどうかというと、言語と計算は左脳で処理し、それ以外は右脳で処理をしている。
脳の使い方がまったく異なるというわけだ。
だから、それがどうしたって?
つまり、日本語、「なんでもことばにしがち」ということだ。
日本語では自然の音までも文字であらわす。
なんでもことばにしてしまうのだ。
玄関のドアを「ガラガラ」とあける
こう書くと、ああ、引き戸なんだなぁとイメージができる。
動物の鳴き声もことばにしてしまう。
牛が「モーモー」鳴く。
犬が「ワンワン」鳴く。
猫が「ニャーニャー」鳴く。
実際はそんな鳴き方はしていない。
自然のものもことばにしてしまう。
小川が「さらさら」流れる。
風が「ビュービュー」吹く。
このような擬音語、擬態語は外国語にはない。
確かに、外国の人が犬の鳴き声を発音すると、途端に本格的になる。
アメリカだと「bow-wow(バウワウ)」
フランスだと「ouah-ouah(ウワウワ)」
中国だと「wu-wu(ウーウー)」
リアルだ。本物の犬に近い。
日本人の「wan-wan(ワンワン)」だけ、確かに似ていない。
うーん、なんだか日本人の擬音語や擬態語が誇張し過ぎる物まねのように思えてしまう。
東京医科歯科大学の名誉教授である角田忠信教授の『日本人の脳』という本に大変興味深いことが書かれていた。
角田教授が、深夜に窓をあけて机に向かうと、なんとなく虫の声が耳について集中のさまたげになったという。
そこで虫の声を分類するとどうやら母音に近いことがわかった。
日本人は母音を左脳で処理をしている。
欧米の人で検査をしてみると、言語的要素はなかった。
教授いわく、この母音の反応が、日本人特有の反応ということだ。
日本人だと、動物の鳴き声は左脳へいき、楽器は右脳へいく。
これが外国の人だと、楽器の音については日本人と同じように右脳へいくが、鳥や動物の鳴き声は右脳で処理をする。
要するに、外国の人が右脳で処理する音も、日本人は左脳で処理をしてしまうのだ。
そう、左脳は言語を司る。
だから、鳴き声もすべてことばに変換してしまうのか!
たとえば、誰かの話をきいている後ろで暖房や冷房の音が鳴っていても、それはことばとしてとらえないので、話している声のほうが優先される。
暖房や冷房の音と同じように、虫の声をとらえていれば、机に向かっていても気になることはないが、ことばとしてとらえてしまうと、邪魔になるということだ。
そりゃ、「ながら勉強」は脳的に頭に入らないというわけだ。
チンチロチンチロチンチロリン
あぁ、マツムシが鳴きだしましたね。
季節が深まってきましたね。
なんて言っても、外国の人には通じないことが多いということか。
わたしは虫自体が嫌いなので、残念ながら虫の声もさほど美しいとは思わない。
ただ、やはりうるさい蝉の声から秋の虫の声にかわると、季節の移ろいを感じたりする。
左耳から入った情報は右耳へいき、右耳から入った情報は左脳へといく。
左右同時に異なるメロディーを流してみて、その後、どちらの耳からの情報が聴き取れたかを調べてみると、左耳から聴いた情報のほうがよく聴きとれるということが判明している。
母音、泣き声、笑い声、鳴き声、波の音、風の音、雨の音、小川のせせらぎなどは、日本人は左脳で処理するのに対し、外国の人は右脳で処理をする。
ただ、この差は人種の差から生まれるものではない。
母国語の違いで、何を最初におぼえたかで決まるのだ。
9歳ぐらいまでの生活環境で決まる。
父親と母親が日本人ではなかったとしても、日本語で9歳まで生活していれば、それは日本語脳になってしまうということだ。
逆もまたありきだ。
ということは、もし、日本語を母国語としない人が不眠症で悩んでいたとして、
「いいヒーリング音楽があるからよかったら聴いてみて」
などと言って、小川のせせらぎやスズムシの鳴き声を聴かせると、美しいと感じる人もいるかもしれないが、大部分は頭に「?」が浮かぶことになるのではないだろうか。
癒しの効能は何を母国語にしているかで差がでてしまうということだ。
こういうことを知ってから、『むしシャララン~秋の虫の鳴き声くらべ』という曲を聴くと感慨深いものがある。
なんですか? その曲は?
「レ・ロマネスク」というフランスで結成した、あやしい金髪に全身ピンクのど派手ないでたちの男性と女性のボーカルユニットがいる。
見た目はなかなかのインパクトだ。
フランス人?
いやいや、がっつり日本人です。
もしかしたら、日本よりフランスのほうが知名度はあるかもしれない。
2010年にパリシネマ国際映画祭の公式マスコット(なんだそれ)に選ばれ、ジェーン・フォンダとともに広報大使を務めたりもしている。
メインボーカルのTOBIという男性と、アシスタントの女性MIYAの二人の完全なる日本人のユニットだ。
見た目のインパクトは強いが、一応NHKの『おかあさんといっしょ』に楽曲提供したり、フジロックにも出演したりと、活躍の場は幅広い。
コミカルな歌が多い。
わたしが最初に「レ・ロマネスク」を知ったのは、音楽ではなかった。
『ほぼ日刊イトイ新聞』の「ひどい目」という連載で、TOBIさんがフランスで実際に体験した、信じられない出来事の数々を読んだのが「レ・ロマネスク」を知るきっかけだった。
絡みあい、もつれあう運命の糸……武装した銀行強盗の一味と密室に閉じ込められ拳銃を突きつけられた件。
この「ひどい目」はわたしの大好物だ。
まだ『はじめてのフランス語会話表現』を音読している状態の、パリへ来て7日目に起こった出来事が書かれている。
事実は小説より奇なりということを教えてくれる連載だった。
この連載で初めて「レ・ロマネスク」の存在を知ったというわけだ。
この「レ・ロマネスク」の曲のなかで、
『むしシャララン~秋の虫の鳴き声くらべ』という曲がある。
本当に鳴き声くらべをしている。
マツムシ、ツヅレサセコオロギの声、クツワムシの声が聴けるので、聴いてみると面白い。
わたしの脳が日本語脳だからか、マツムシは「チンチロチンチロチンチロリン」に聴こえる。
そうか、この音は日本語を母国語にしないと聴こえないのか……。
いま、「へぇぇぇ」と思いながらこの曲を聴いている。
好きな「音」といわれて「虫の声」と答えることはできないが、「虫の声」を「声」と感じる感性は好きだ。
脳の違いによる聴こえ方に違いがあるのは非常に興味深い。
そして、しばらく行っていないが、もうそろそろライブに行って音楽を感じたいとも思う。
それが「レ・ロマネスク」になるかどうかはわからないが、きっと「レ・ロマネスク」のライブに行ったら楽しいこと間違いなしだ。
□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。
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