『海賊とよばれた男』百田尚樹著《READING LIFE》
一ヶ月半ほど前のことだったでしょうか。
別件でお邪魔していた講談社さんにおいて、この動画を見せて頂きました。
見た瞬間に、鳥肌が立ちました。とてつもなく、読みたくなりました。
まずは、この動画をぜひ、ご覧下さい。
著者はあの『永遠のゼロ』の百田尚樹さんです。
物語は終戦直後から始まりますので、時代的にも『永遠のゼロ』の系譜を継いだ作品といえます。
序章を読んだだけで、奮い立つものを覚えました。
終戦直後、玉音放送を聞いた後に、本小説の主人公、国岡鐵造は悲嘆にくれる全社員を集めて、「今から皆の者に申し渡す」と言います。
「愚痴をやめよ」
社員達ははっとしたように鐵造の顔を見た。甲賀も驚いて鐵造を見た。
「愚痴は泣きごとである。亡国の声である。婦女子の言であり、断じて男子のとらざるところである」
社員たちの体がかすかに揺れた。
「日本には三千年の歴史がある。戦争に負けたからといって、大国民の誇りを失ってはならない。すべてを失おうとも、日本人がいるかぎり、この国は必ずや再び起ち上がる日が来る」
甲賀は自分の体が武者震いのようにふるえてくるのを感じた。
鐵造は力強く言った。
「ただちに建設にかかれ」
社員たちの背筋が伸びるのを甲賀は見た。ホールの空気がぴんと張りつめたような気がした。
しんとしずまり返った中に、鐵造の声が朗々と響いた。
「昨日まで日本人は戦う国民であったが、今日からは平和を愛する国民になる。しかし、これが日本の真の姿である。これこそ大国民の襟度である。日本は必ずや再び立ち上がる。世界は再び驚倒するであろう」
店主の気迫に満ちた言葉に、甲賀は体の奥が熱くなるのを感じた。
鐵造は壇上から社員たちを睨みながら、「しかし―」と静かに言った。
「その道は、死に勝る苦しみと覚悟せよ」
これを読み、そのホールにあって、鐵造の声が響くように感じ、鳥肌が立つ思いをしたのは、僕だけではないだろうと思います。
物語全編に渡って、国岡鐵造の生き様、その人に惹かれて命がけで働く社員達の姿がじつにまばゆく光を放ちます。
ああ、こういう人たちがいたから、奇跡と呼ばれる日本の復興があったんだ、と得心します。
ちなみに、国岡鐵造のモデルは実在します。あの出光興産の創業者です。
数々の試練や難局にぶちあたりながらも、正々堂々とアイデアをフルに使ってうちやぶっていく姿は痛快の極みです。鐵造が置かれた状況に比べれば、今、自分たちが置かれている状況が、いかに大したことがないか、痛感することになるでしょう。
もし、悩んでいる人がいたら、悩んでいるのがバカバカしくなります。
もし、働くことに意義を見失っている人がいたら、自分を恥ずかしく思うことになるでしょう。
そう、この本は、読む人の「ガソリン」となって、体に染み渡ります。これを読めば、働きたくて仕方がなくなります。既得権益や抵抗勢力と戦いたくなります。日本人のあるべき姿が明確に脳裏に刻まれます。
司馬遼太郎先生は、膨大なる文献を集めながらも、ついに「昭和」という時代を書けなかったと言います。それは、昭和に書くべき人がいなかったからだと言われています。ところが、司馬先生がもし、この人のことを見つけ出していれば、どうだったでしょうか。書いていたのではないかと思います。
司馬先生の代わりに、百田さんがしっかり書いてくれました。僕はその事実を、うれしく思い、どこか安堵しています。また、百田さんに感謝しています。
また、浅田次郎さんが描いた、張作霖を主人公にした大傑作『中原の虹』の空気に似たものも本作から感じました。
世の中には、読むべき本というものがあります。
四の五の言わずに、黙って読みなさい、と言いたくなるような名作があります。
本作がまさにそうです。
今、現在を生きる我々、ひとりひとりが、噛みしめながら読むべき作品だと思います。
上下で長いことなど、この際、問題ではない。これだけ長くても、僕は最後の最後まで、国岡鐵造と離れたくなかった。
この本を買わない理由が見当たりません。
*ぜひ、お近くの書店でお買い求めください。
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