さいち紀行 『売れ続ける理由』佐藤啓二著《READING LIFE》
宮城県仙台市秋保。
仙台、と行っても、市街地からは車で40分ほどかかる山間部に、その町はある。合併前は4700人ほどの小さな町で、温泉街として有名である。
そこに、主婦の店「さいち」がある。
この店が全国的に著名なのは、1日平均5000個は売れるという「おはぎ」があるからだ。土日に10000個以上、お彼岸には実に20000個ほどが売れるという。繰り返すが、人口5000人足らずの町にあるスーパーでだ。
実をいえば、ちょうど前日にテレビ東京のカンブリア宮殿でAmazonとその総帥であるジェフ・ベゾスのことをやっていて、これに対抗するためには、これからの書店は『1坪の奇跡』の吉祥寺小ざさか、または東北の山間から全国に名を轟かせている、このさいちから学ばなければならないのではないかと思い、切迫した思いで何かヒントを得ようと訪れたのだった。
さいちを訪問したメンバーは、実に、豪華である。
岩松先生、太田先生、星野さんという著者の先生方3氏、書店人中村氏、数々のベストセラーの装丁を手掛ける石間さん、そして、『1坪の奇跡』『売れ続ける理由』の編集者であるダイヤモンド社の寺田庸二さんと一緒に、マイクロバスで小ざさに向かった。
これが、遠足のようで、実に楽しいものだった。
僕は宮城県人ではあるが、さいちを訪れるのは初めてで、どういう店なのか、想像もつかなかった。テレビにも取り上げられ、本にもなっているくらいだから、かなり大きなスーパーなのだろうと思った。
ところが、寺田さんが、
「ここですよ」
と、指した店を見て、僕は正直、衝撃を受けた。
写真を見ていただければわかると思うが、ちょっと大きなコンビニくらいの大きさしかないのである。
「でも、ここで1日5000個以上のおはぎを売ってしまうんですよね」
ええ、と寺田さんは頷く。
「土日だと10000個以上です」
すさまじい。山間部で道もせまく、来るのも容易ではない。しかも、店はとても大きいとはいえない。それにも関わらず、それだけのおはぎを売るというのだから、本当にすさまじい。
ビジネスは、立地でも規模でもない、ということを、さいちは証明しているのだ。
店の中はふつうである。一見、田舎にあるふつうのスーパーである。僕の故郷の町にも小さな頃にはこのようなスーパーはあり、けれども、イオンやイトーヨーカドーなどの大きなショッピングモール形式の店が相次いで出店してなくなっていた。しかし、さいちはしっかりと営業を続けている。
なんだか、子供の頃にタイムスリップしたようなここちになった。
母と一緒に買い物に行き、
「ねえ、何か買っていい?」
「いいよ、100円までね」
とやりとりしていた頃のことが、たちどころに蘇った。
さいちが他の田舎のスーパーと大きく違うのは、総菜が多いところだった。なにも、さいちは「おはぎ」だけが有名なのではない。お総菜も有名なのだ。
年商6億の、実に50%を総菜部門が占めている。ちなみに、一般のスーパーでは10%程度だということだったので、これが常識外れの数値だということがわかる。
そして、お目当てのおはぎのショーケースがこれである。
下の方ががらがらになっているのは、陳列したそばからどんどん売れているからだ。
僕らが行ったときにも、このエリアは人で溢れていた。
お客様が次々におはぎを買い物かごに放り込む。
そして、店員さんが負けじと陳列する。
なんだか、わんこそばを見ているようだった。
それほどに盛況だったのだ。おそらく、これが毎日なんだと思う。店員さんも慣れているようで、相当に忙しいというのに、驚くほどに対応が良かった。みな笑顔だった。
もちろん、人口5000人に満たないこの町に、1日5000個、10000個の需要があるはずがない。毎日主食として食べなければ、この数には到達しない。外に警備員を配置して、いくつもの駐車場に誘導する必要があるのは、秋保以外の周辺の町のみならず、僕らのように、まさに全国から客が押し寄せるからだ。
寺田さんの紹介で、『売れ続ける理由』の著者でもある、さいちの佐藤社長に話を聞くことができた。
「じつは僕、来年、書店を作ろうと思っているんです」
そういうと、佐藤社長は興味を持ってくれたようだ。話を聞くどころか、本当に長い時間にわたって、ビジネスの秘けつを伝授して頂いた。
「うちでは、絶対に試食を出さないんですよ」
と、佐藤社長は言う。
「なぜですか?」
「試食を食べたお客様は、ただで食べさせてもらった、という意識がどうしてもあるんで、本当は口に合わなかったとしても、なかなか文句は言えないんです。おいしいですね、と言うしかない。それでは、こちらは勉強にならないんですね。でも、自分のお金で買ったものになら、味が薄いんじゃないか、とか、量が多いんじゃないかとか、率直に意見を言ってくださるんです。そのお客様の声が重要なんですよ」
なるほど、と、僕は鳥肌が立つ思いをした。
それは、僕がちょうどCORE1000で重視している「売場最前線からのフィードバック」と全く同じ考え方だったからだ。間違いじゃないんだ、と認めてもらえたような気がした。
また、僕は書店をオープンすることに対して、こう佐藤社長に言った。
「実は小さな書店を開くにも資金が相当にかかるらしいんです。それを稼ぐのに今年は必死になろうと思っています」
すると、佐藤社長はこう言った。
「ない、ということは幸せですよ。いいことです」
「どうしてですか?」
「なければ、必死になって考えるじゃないですか。私も、何もなかったから、必死になって考えて何とかやってこれたんですよ」
この言葉にも、僕は密かに衝撃を受けた。なぜなら、『1坪の奇跡』の吉祥寺小ざさの稲垣社長が言っていたことと全く一緒だったからだ。
なければ頭を使えばいい。
「やっぱり、そうなんですね。オープンまで、必死になって考えていい店を目指したいと思います」
そういうと、佐藤社長は首を横に振った。
「でも、考えすぎてもいけませんよ。小さくとも、とりあえず、やってみないとわかりませんからね。やってみて、それでその場その場で考える。考えるだけでは何もなりませんしね」
「走りながら、考える、ということですね」
そうです、と佐藤社長は笑顔で頷いた。
この言葉で、僕の中で吹っ切れたことがあった。最初は書店をオープンするために、少なくとも1000万円くらいの在庫が必要なんじゃないかと思っていた。けれども、小さく始めればいいのだ。100冊くらいからでも、まずはオープンさせることに意義がある。そして、お客様の声を聞きつつ、必死で考えながら、徐々に大きくして行けばいい。
佐藤社長は、店の外まで見送りに出てくれて、そこでみんなと一緒に写真を撮らせてもらった。
左から寺田さん、中村さん、僕、佐藤社長、奥、星野さん、手前、太田さん、石間さん。撮影岩松さん。
それで、みんなで近くの運動公園でさいちで買ってきたもので昼食会をした。
いや、本当に美味しかった。おはぎはもちろんのこと、お総菜も最高だった。
本当に実りの多い、衝撃続きのさいち紀行だった。
佐藤社長には、ここに書いた他にも、本当に多くのことを教えて頂いた。それはぜひ、『売れ続ける理由』を読んで、確認していただきたい。
まさに、なぜさいちが多くのお客様に愛され続け、売れ続けているかの理由がわかるはずだ。
買わない理由が見当たらない本である。
最後に、このツアーを企画・手配してくださった、ぶっちゃけ先生こと、岩松さんに感謝です!
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