仙台にやがて咲き乱れん息吹あり《書店をゆく》
先日、仕事で仙台の書店に飛び込みました。
まったくの初対面で、しかも、株式会社東京プライズエージェンシーという聞いたこともない会社の名刺を差し出したというのに、何か、お互いに引っかかるものがございました。
相手は、筋肉隆々の書店の店長で、話しているとなぜか話しがやまなかったのでございます。話すうちに、その店長の奥さんと僕の出身の町が一緒だったということが判明し、そのせいで意気投合したのか、と理由づけしてみるも、それだけではないようにも思えました。
それで、飛び込んだその日に、こう誘われたのでございます。
「だったらさ、明日、仙台の書店人が集まって飲むからさ、来ればいいっちゃ」
それが、ブックス・ミヤギ取締役の柴さんとの出会いでした。
「あ、行きます!」と僕も当然のように答えました。
あとで知ったことですが、柴さんはその人柄で、多くの書店人や出版人を引き寄せているのでした。柴さんが号令をかけて行われる新年会は、毎年、100人以上の業界人が集まるということです。
仙台の名だたる書店人と出版社、新聞社に取次。すべてが柴さんの一世のもとに集まります。
どんな仕組みでそんなことになっているのか不思議に思っていると、柴さんはこう言うのでした。
「みんな、おれの舎弟だっかさ」
そして、人懐っこい笑顔を浮かべるのです。
その舎弟の決め方が、また、シンプル。
決めるのは、アームレスリング。
なぜ、書店人と出版人の序列を決めるのに、アームレスリングなのか、と聞くのは野暮というもの。アームレスリングは、シンプルでわかりやすくて、しかも、後腐れがない。
これが柴さん。
この会で、本当に素晴らしい出会いをしました。
それも、柴さんの会の醍醐味なのだとあとで別の舎弟の方に教えていただきました。
先日、仙台三越店をオープンさせたばかりの、ヤマト屋書店の若き幹部、遠山さんと浅野さんでした。ヤマト屋さんは、かの津波で何店舗か流されたりと、苦難を経験されました。
けれども、仙台三越に立派な新しい店をオープンさせました。店長も、まだ30歳と若い米谷さん。
僕はこの若く、しかも、苦難を乗り越えてきた、ヤマト屋さんの幹部たちが、仙台書店界の、いや東北の書店界のキーとなるのではないかと見ています。
夢想します。
広く東北の書店人たちが、より素晴らしい本を、東北人の手元に届け続ければ、やがて息吹となって、東北の地より、復興が実現するのではないかと。
たとえば、盛岡のさわや書店さんや、山形仙台の八文字書店さんや、仙台のヤマト屋さん、それにジュンク堂さんや紀伊國屋さん、丸善さん、TSUTAYAさんなどの大きなチェーンも一丸となって、東北の文化に新しい風を巻き起こせるのではないでしょうか。
さわやの田口さんも栗澤さんも、松本さんも、ヤマト屋の阿部さんも、遠山さんも浅野さんも、米谷さんも、そして、八文字屋書店の高橋さんも、ジュンク堂の三塚さんも、みんな若い。
そういった、若い息吹たちを、柴さんたち大らかな先輩たちが、社を超えてサポートしていけるのならば、ここに全く新しく強力な「本の磁場」が誕生するのではないでしょうか。
無理でしょうか?
僕は、これっぽっちも無理だとは思っていません。
やがて、東北が文化の発信地になり、ベストセラーは東北から生まれる、と言われる時代がくるやも知れません。
宮城は僕の故郷でもあります。
天狼院書店がその一助になれればと夢想は尽きない、仙台の夜でございます。