天狼院通信

それでもなお本を読む〔天狼院通信〕

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正直、本屋をやめようかと思った。原因は、生成AIの進化だ。これから生成AIとの対話は、本屋や学校が必要な理由の、思った以上に多くの部分をカバーしてしまうのではないかと思ったからだ。例えば、写真の撮り方をAIに問えば、実に詳しく、しかもオーダーメイドで疑問に答えてくれる。これでは、写真技法の本を売る意味がないと思った。レシピ本も、AIが程なく網羅してしまうだろうし、旅行ガイドもオーダーメイドでAIが作ってくれる。これは間もなくだ。なんなら、ほとんど今でもできる。

こうなると、情報による問題解決に、本屋の棚の多くの部分がいらなくなる。

コミックは電子に吸収され、小説は残るかもしれないが、小説だけでは本屋は業として成り立たない。 もう開き直って、ChatGPTだけ画面に出して、これが次世代の本屋です、とデモンストレーションしてしまおうかと思ったが、それは躊躇した。

なぜなら、依然として僕は本を山積みで買っていて、本を読んでいたからだ。

そして、昨日、課題本読書会のために、あの分厚い『イーロン・マスク』の本を読んでいたのだが、あれを読んで迷いが晴れた。まさに、霧が晴れるように。

僕は福岡行きの新幹線の中で、電子書籍で読んでいた。

何で読もうが関係ない。

気づいたのは、僕の人生には“本を読む時間”が必要不可欠だということだ。

本ではなく、“本を読む時間”である。

“本を読む時間”は、読書時間という枠で守られた思考の時間だ。

僕にとっては、神聖にして侵すべからざる時間ーーそれが“本を読む時間”だ。

これを損なわれれば、僕にとって人生を損なわれるのと同義であると気づいた。

まさに、僕のPERFECT DAYSには、その時間が空気のように必要なのだ。

当然、“本を読む時間”には、必要条件として本が必要になる。

そう考えると、やはり、本屋をやめるわけにはいかない。

僕らがやるべきなのは、本を売ることではなく、“本を読む時間”をより豊かなものにすることだ。

そこまで考えたときに、ふと、思い当たるフレーズがあった。

READING LIFEの提供、本とその先にある体験までも提供する書店。

それは、10年以上前に、天狼院書店を創ろうと思った際に掲げた大方針だった。

巡りに巡って、幸せの青い鳥のように、自分の裏庭に戻ってきた気持ちになった。

僕らがやってきた方針は、正しかったことになる。 大AI時代が始まったもなお色褪せないストーリーがここにある。

意図的か、無意識的なのか、僕は去年のある時点から、10年間続いた天狼院書店の解体作業を静かに始めていた。AI時代には、本屋は必要なくなると思い、富士フィルムがフィルム中心から別分野にシフトしたように、我々は大きくシフトせねばならないとマーケティング視点から考えていた。

それゆえに、天狼院読書クラブという名称も、人知れず、天狼院ラーニング・ラボと名前を変更したりしていた。

けれども、AIと対話を交わすようになっても、人類には“本を読む時間”が必要なのだ。

ほとんど1年かけての池袋から渋谷への拠点変更が、今、終盤に差し掛かっている。
元々、渋谷店は写真学校の本拠地としての側面が強かったのだが、ここに天狼院書店の関東の本店概念である“東京天狼院”を移行させたので、春に向けて、書店の機能の強化を図ろうと諸々準備を進めてきた。

ただ、準備を進めながら、僕の気持ちが定まっていなかったのだ。
僕の中での、大迷走があった。
が、昨日の読書で、すっと腹が据わった。不思議になるほどに気持ちよく。

僕らは、お客様の“本を読む時間”を豊かにする書店になる。

あらゆる手段で、それを実現しようと思っている。

READING LIFEの提供の次の10年に向けた第2幕がスタートするということだ。

これに合わせて、まずは渋谷店からソフト面での大幅な改装を施し、メディアを再構築する。

オープン目標は、4月1日。

物としての本と、デジタルの本。
真っさらな新刊と、書き込まれた読み潰し本。
協読とAIによる読書の拡張。

あらゆる手段を講じて、それを実現する。

すべては、お客様の“本を読む時間”を豊かにするためにーー

我々、天狼院書店は、大幅な進化を遂げることを決意した。

まずは、天狼院読書クラブの名称を戻し、読書系のイベントの再強化に取り掛かります。

迷走して、本当にごめんなさい。

2024年2月12日
天狼院書店店主 三浦 崇典


2024-02-12 | Posted in 天狼院通信

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