チーム天狼院

運ちゃんがくれた合法大麻


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:脇田七海(ライティング・ゼミ日曜コース)

「お嬢さんに、プレゼントをあげましょう」

 

このタクシーの運ちゃんとの出会いが、私のそれからの毎日を変えるとは思いもしなかった。

 

まだ日が昇りきらず、外は薄暗い。玄関のドアを開けると、ひんやりと気持ち良い空気が頬にあたり、脳がやっと目を覚ます。

 

また寝坊した。眠たそうにのそのそと歩くサラリーマンの間を、縫うように追い越す。

 

今日は博多でバイトだ。朝が早く、家からもし遠いので、早起きしなければならないのだが、これがなかなか難しい。

 

だめだ、遅刻する。

 

近道から大通りに出て、タクシーを探す。

こういう時に限って、なかなか捕まらない。

 

バイトにタクシーで行くなんてバカらしい話だ。

通勤路にある自転車屋の前を通る度に、そろそろ買わなきゃと思うのだが、また次の日には忘れている。

 

ガラス張りの窓に並べられた自転車を眺めながら、信号を待っていると、やっと一台のタクシーがこちらに走ってきた。

手を挙げるとウインカーを点け、乗りやすいところで停めてくれた。

 

「お願いしまーす。博多駅まで」

 

乗るや否や、メイクポーチを取り出し、まだ未完成のメイクを仕上げる。

揺れる車内でリップを塗るのは至難の業だが、もう慣れてしまうほど、バイトに行くのにタクシーを使っていた。

 

赤信号で車が止まるのと同時に、リップを塗り終わった。

手鏡でニコッと今日一番の可愛い顔をして、メイクポーチにしまう。

 

「お嬢さん、鹿児島の人ですかね?」

 

リップを塗り終えるのを待っていたかのように、運転手さんが尋ねた。

 

「え、そうですけど……」

 

顔が濃いとはよく言われるが、的確に、しかも一発で出身地を当てられたのは初めてだ。

 

「やっぱりそうですか。イントネーションでそうかなと」

 

ニッコリと優しく目を細めたその運転手さんは、私の「お願いしまーす」のイントネーションだけで、私の出身地を言い当てたのだ。

 

他のタクシーのおじちゃんとは違う、上品な雰囲気をまとったその運転手さんは、私の興味をくすぐった。

 

聞くところによると、とんでもない経歴をお持ちの方だった。

 

生きている間にできるだけの沢山を笑顔にしたいと、「人に会える職業」であるタクシーの運転手に、45歳でなると決めていたそうだ。

それまでに会社を3つも立て、またある時は、芸能人を手がけるほどの気功師としても活躍していたことがあったという。

 

タクシーの運転手を始めてからは毎日100人近くを乗せ、地元の人だけではなく、出張に来たサラリーマンから外国人観光客までをもてなしていると、「天職ですよ」と嬉しそうに話してくれた。

 

「すごい……」

 

この一言に尽きた。キョトンとしてしまった私に、その運転手さんは「これも何かのご縁かもしれませんので」とこう続けた。

 

「赤いリップがお似合いのお嬢さんに、プレゼントをあげましょう。明日から毎朝、私がこれから言うことをやってみてください。朝起きたら一番に、鏡をみてニッコリ笑ってください。さっきの、リップを塗り終わった時のニッコリを、朝起きてすぐにするのです。それだけで、どんなに退屈だと思っていた一日も、楽しく向かえられますから」

 

目的地まであっという間についてしまった。

 

「今日も、いい日になりますように。いってらっしゃい」

 

運転手さんは、最後まで仏様のような「ニッコリ」と優しい笑顔で、送り出してくれた。

 

たった10分ほどのタクシーでの出来事は、魔法にでも包まれていたかのように、不思議な感覚として今でも記憶に残っている。

 

その日から毎朝、私はプレゼントを使い続けた。

 

仕事がうまくいかなくて憂鬱な日も

二日酔いで気分が最悪な日も

彼氏と喧嘩して目がパンパンに腫れている日も

 

毎日毎日、朝起きてすぐに「ニッコリ」と鏡に向かって笑うのだ。

 

ただそれだけ。本当にそれだけなのに、どんなに気分が落ち込んでいる朝も、パッと明るくなれるような気がした。

 

笑顔って、クスリと似たようなものかもしれない。

 

だいぶ前に、「口角を上げると脳が『幸せ』と錯覚して、ハッピーになれる」という記事を読んだことがある。

本当は楽しくないし、つまらない一日なのだけど、笑顔を使って脳を錯覚させているだけなのだ。

 

でもそれで、少しだけ心がスッと軽くなる。今日も頑張ろうと思える。

 

だったらそれで良いじゃないか。

 

本当に辛いときは、泣けばいい。

声がガラガラに枯れるまで、頭が痛くなるまで泣けばいい。

 

でも、次の日の朝には、少しだけニコッと笑顔を作ってみる。

それだけで、辛さから解放されるのだ。

 

毎朝続けていると、脳が「幸せの錯覚」楽しみにしているかのように、早起きが苦じゃなくなってくる。

 

少し早めに起きて、鏡にニコッと笑って、心が軽くなる。

お散歩をしてみたり、ちょっと凝った朝食を作ってみたり、気持ちに余裕ができていい一日のスタートがきれる。

 

「いってきます」

 

今日も自転車の風が、心地良い。




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2020-09-08 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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