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チーム天狼院

内定が決まらない就活生に「どうすればいいかわからない」と相談されたので、就活なんかやめればいいじゃんと背中を押してきた。《川代ノート》


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「私、どうすればいいんでしょうか?」
 
泣きそう……なのだろうか。
目の前に座る彼女は、なんとも言えない、不安そうな顔をして、すがるように私を見ていた。
リクルートスーツを着て、真っ黒の髪を後ろで束ねている。
 
「どうやって決めたらいいのか、わからなくなってきてしまって」
 
ああ、「わからない」と言ってはいるが、きっと。
 
きっと自分がどうすればいいかなんて、もう十分すぎるくらいにわかりきっているんだろうな、この子は、と私は数年前の自分を思い出しながら、考えていた。
 
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私の記事がきっかけで、天狼院に来てくれた子がいた。
私より少し年下の大学の後輩だと言う。そして、私の書いたことに共感してくれたと言う。仲間に会えたようで、なんだか嬉しくなった。
まるで友達のように打ち解けた彼女から、後日、川代さんに相談したいっていう子がいるんですけど、と連絡が来た。
 
就活生だけれど、どうもうまくいっておらず、かなり苦戦している。将来について、悩んでいるらしい。川代さんの記事をその子も読んでいて、いろいろ共感した部分があるみたいだから、ちょっとでいいので、会って話してあげてもらえないか。
 
どうしようか、と少し悩む。
私が役に立てるだろうか。
 
私は就活のプロではない。大手企業から内定を取りまくった超優秀な就活生だったわけでもないし、企業のインターンシップの社内コンペで優勝した経験もなかった。同世代の他の子に比べると、かなり苦労した方だと思う。内定だって本当に粘って粘ってやっとゲットしたのだ。面接でどうすればいいかも、人事担当者が何を求めているかも私にはわからない。きっと私は彼女が就活で成功する上で役にたつ情報を与えることはできないだろうと思った。
おそらく私が、就活について語れることは何もない。
 
それは、私の記事にも散々書いてきたはずだった。
いかに私が「普通」な人間か、いかに私がいつもいつも悩んできたのか。
私は主に、自分の悩みを記事のネタにしている。だから私の記事をよく読んでいるのならそれくらいはわかっているはずだ。
でもそれを読んだ上で私に相談したい、と言っているのであれば、もしかしたら────。
 
ある一つの仮説がぽっと浮かんだ。
それが正しいのなら、私も少しは彼女の役に立てるかもしれない。
 
そう思って、大丈夫、という旨を返信した。

 

 

 

「あの……すみません、本当に、突然、こんなお願いを」
 
真っ黒なスーツに身を包んだ彼女は、私の顔を見ると突然「すみません」、と謝り出した。
直感的に思う。きっとすごく悩んで、本当に切羽詰まってここまで来たんだな、と。
 
根拠なんかないが、その子の不安そうな顔を見て、そう感じた。
 
「いえいえ、わざわざありがとうございます。就活、うまくいってないとか、聞きましたけど」
「はい……そうなんです」
「内定、出てないの?」
「はい、まだ。いろいろ受けてはいるんですけど」
 
ぽつりぽつりと、そう自分のことを話し出す。
 
自分の就活がうまくいっていないこと。
いろいろな会社を受けてはいて、「いいな」と思える会社はあるけれど、自分がいいと思えるところほどダメだったということ。
同級生の中でもだんだん内定をゲットしている子が増えてきたということ。
会社でやりたいことは決まっていたはずなのに、周りからの目を気にしてしまうこと。
自分が選びたい道が何なのかわからなくなってきたこと。
何がいけないのかも、どうすればいいのかも、わからないこと。
とにかく、就活が辛いこと。
もう就活はやめたいこと。
でも、社会や親の目があるし、逃げたみたいだからやめられないこと。
 
はじめは口数が少なかった彼女も、話し出すと、押さえが取り払われたように一気に話し出した。
 
「もう、どうすればいいかわからないんです」
 
彼女はアイスティーのミルクの入れ物を手元でいじりながら、言う。
 
「答えが見つからなくて……それを友達に相談したら、川代さんに聞いてみたらって言われて」
 
そうして、また、こんなこといきなり話してすいません、と彼女は言って、不安そうにこちらの様子を伺う。
 
ああ、なんだかもう。
なんだかもう、本当に、就活生の頃の私を見てるみたい。
 
本気でそう思った。
三年前、就活していた頃の、不安で不安でたまらなかった頃の自分が、タイムスリップしてここまでやってきたのかと思うくらいに、あの頃の私が思っていたことと、酷似していた。
 
就活しなきゃいけない。
がんばらなきゃいけない。
 
でも、本音を言えば、就活したくない。
就活しないで自由に、好きなことだけやってたい。
同級生同士のマウンティングの波にも飲まれたくないし、会社名で人の価値を判断するような大人たちにもヘドが出る。
 
でも、就活しないと、一人前の大人とみなされない。
就活を乗り越えないと、就活から逃げたゆとりのダメな大学生みたいになる。
「就活もまともにできなかったメンタル弱い奴」だなんて、思われたくない。
みんなと同じ時期にちゃんと将来の行く先を決めて、それから卒業旅行とか行きたい。
みんなに置いていかれたくない。
 
でも、自分が何をしたいのかもわからない。
何をすれば正解なのかもわからない。
どの道を選べば、自分が満足できるのかもわからない。
 
何にもわからない。
 
ひたすら、「でも」と「わからない」の、繰り返し。
 
ぐるぐると、「でもなあ」「やっぱり」「だけど」「どうしよう」とつぶやき続けて、結局は答えが出ない。
 
そうしているうちに、周りはどんどん内定が決まっていく。自分だけが置いていかれているような気持ちになる。焦る。でも頑張りたくない。頑張れない。何がダメなのかを研究する余力もない。
 
どんどん、自信がなくなっていく。
 
漠然とした「不安」という感情の中に、ざぶんとつっこまれたような、そんな感覚。
 
ああ、この子も、同じだ。
私と同じだ。不安なんだ。
 
ならば、大丈夫だと言ってあげるのがいいのかもしれない。
落ち着いて就活すればいつかは決まるよと言えば、それでいいのかもしれない。
 
でも……。
 
この子に会う前に想定していた仮説が、頭をよぎる。
顔を見てわかった。たぶん、私の仮説は正しい。
 
「就活やりたくないならさ、やらなくていいんじゃない?」
 
思い切って、ぶっきらぼうにそう聞いてみる。
 
「え?」
 
彼女は、意表を突かれたように目を丸くしてこちらを見る。
 
「就活で失敗したからって死ぬわけじゃないよ。やりたくないならやらなくていいじゃん。違う方法見つければいいじゃん」
 
「で、でも……それは」
 
彼女は、就活をやめられない理由をあれこれと語った。友達が、親が、将来が。よくもまあそれくらい思いつくなというくらい、いろいろな理由が出てくる。
 
ああ、本当に私にそっくりだな、と思いながら、私はその仮説が正しいかを確かめるべく、さらに質問をぶつけた。
 
「じゃあさ、就活とか全部抜きにして、なんでも好きなことやっていいよ、って言われたら、何やりたいの?」
 
「……え?」
 
「本当にやりたいことは何?」
 
「……」
 
彼女は、またミルクの入れ物を手でいじくりながら、しばらく考えた。
きっと何を言うか迷っているのだろう。
 
でも、おそらく私の考えが正しいのであれば────。
 
「……あの、私、あんまり周りには言ってないんですけど」
 
「うん」
 
じっくりと考えて、そして、私の目をまっすぐ見て言う。
 
「本が、書きたいんです」
 
────ほら、やっぱり。
 
思った通りだ。
 
「本か。何が書きたいの?」
 
「……」
 
「小説?」
 
「……はい」
 
これまた認めづらそうに、彼女が頷く。
 
「子供の頃、小説を書いていて。作家になりたいなって……ずっと思ってたんです」
 
本当に、私みたい。
三年前の大学生の頃の私が、タイムスリップしてやってきて、私に相談しているみたいだと思った。
 
そらくらい、彼女が私に似ているから、だから、私が立てた仮説も当たったのだろう。
 
「この子、もしかしたら、自分が本当にやりたいことは、もう決まっているんじゃないだろうか?」
 
これが、私が連絡をもらったときに浮かんだ、仮説だった。
 
本気で就活を成功させたいと思っている子は、おそらくわざわざ私に相談したりなんかしない。
商社から内定を取りまくった人でも、大学の就活相談センターの人でも、実際に社会で活躍している大人でも、いくらでも相談できる相手はいるだろう。
 
でも、テキパキしているわけでもなくて、大手の会社に内定をもらいまくったわけでもない、悩みやコンプレックスをネタにしたブログを書いているだけの、ただの書店員である私に相談するということは、きっと、安心したいんだろうと思った。
「自分のやりたいことをやっていいよ」と、言って欲しいんだろうと思った。
 
彼女は自信がなくて、きっと私と同じように承認欲求もすごく強くて、人の目を気にして自分の本当に進むべき道が見えていなくて。
自分の行きたい道を選びたい気持ちと、周りから「いいね」と言ってもらえる道を選ばないといけないんじゃないかという不安の間でグラグラして、頭の中がパンクしそうになっているのだ。
 
でも、おそらく彼女には、やるべきことは全部、心のどこかではわかっているのだろうと思った。
なぜなら、あの頃の私がそうだったからだ。
 
本気で就活で成功したいなら、入りたい会社がどんな人材を求めているかを調べて、全力で自己アピールすればいい。
何がやりたいのか決まらないなら、とにかく色々な職種を受けてみて、一番自分に合うものが何か研究すればいい。
本気で文章を書きたいなら、たくさん書きまくって、賞に応募するなり、ネットで発表するなりすればいい。もし兼業作家を目指すなら、ホワイトで、残業がなくて、仕事が楽な会社を探せばいい。もしくは、書いたらネタになりそうな職業をあえて選んでみるとか。
 
いくらでも、やるべきことは見つかるはずだった。
きっと頭がいいから、彼女もそこまで自分で考えているのだろうと思った。
 
たぶん、やるべきことはわかっている。
目標さえ決まれば、その目標を本気で叶えようと努力すれば、一番最適な道がどれかなんてすぐに見えてくる。
 
でも。
 
「でも、もし、書く道を選んで、ダメだったとするじゃないですか」
 
彼女はついに、不安を吐露する。
 
泣きそうなのだろうか。
眉毛をはの字にして、すがるように私を見る。
 
「ダメだったとして、そのときにやっぱり就職しなきゃってなったとき、いい道が何も残ってなかったらって、考えちゃって」
 
そうだ。
わかっている。
彼女はどうすればいいかなんて全部わかっているのだ。どれが最適な道かなんて全部、考え尽くしている。
でも、それでも私に相談してきているのは、自分が何に本気になればいいかが、決められないからだ。
 
「いい歳して小説なんて書いてるの? 超狭き門なのに」
「いい加減現実見ればいいのに」
「そんな夢ばっか見てないで、ちゃんとした大手企業に入って結婚したほうが幸せなのに」
 
顔の見えない誰かの声が、いつも頭のどこかでこだまする。
こうしたほうが幸せだよ、こうしたほうがみんなと一緒だよ、こうしたほうが、こうしたほうが、こうしたほうが、こうしたほうが……。
 
こっちのほうが、夢なんか追いかけるより、ずっといい人生だよ。
 
そうして、「現実を見ろ」と言う声はいくらでも聞こえてくるのに、「好きなことやっていいんだよ」「夢を追いかけていいんだよ」と言ってくれる声は、どこにもない。誰もいない。
自信を持って、背中を押してくれる人が、周りに、誰もいない。
 
だから、思う。
なんどもなんども考える。
 
自分がやりたいことは、間違ってるんじゃないかと。
 
自分が「書きたい」と思うことや、「小説家になりたい」と思うことは全部、間違ったことなんじゃないかと、不安になる。
 
その不安は日が経てば経つほどどんどん大きくなって、その不安から逃げたくなって、結局はみんなから一番「いいね!」と言ってもらえそうな道を選択することになる。
 
そうだ。
不安だ。
やりたいことをやるっていうのは、不安で不安で仕方のないことなんだ。
 
彼女はさらに、続ける。
 
「就活できるのは、今しかないから……だから、作家を目指してだめだったときのことを考えると、今はとりあえず就職しておいたほうがいいんじゃないかって思うんです」
 
本音だ、と私は思った。
これが彼女の本音。
 
面接がどうとか、内定がどうとか色々言ってはいたけれど、一番の本音は、これだったのだ。
 
だとすれば私は、何を言えばいいんだろう。
 
大変だけど、がんばれ、なんとかなるかもよって、素直にポンと背中を押すべきか。
とりあえず入れそうなところに就職しちゃえば、と無難に言っておくべきか。
 
それとも。
 
「でもさ、それってさ、言い訳じゃない?」
 
私は、人に直接はっきりと指摘するのが得意ではない。
嫌われたくないし、正しく伝えられる自信もあまりないから、あまり後輩に注意したりもしない。
 
でも、言わなきゃ、と思った。
たぶんこの子は、真実をはっきりと言ってもらいたくて会いに来たんだ。
 
「本当は、書いて挑戦しても、書いたものがダメで、才能がないってわかったら困るから、他の道を選ぼうとしてるだけじゃないの?」
 
「……」
 
彼女は黙る。
 
「就活があるからできない、仕事があるからできない、って言い訳があったほうが、もしかして、都合がいいんじゃない?」
 
なんだか、こちらまでドキドキしてくる。
 
「それは……たしかに、ありますね」
 
「それ一生、続けるの? ずっとそうやって仕事があるからできない、結婚して子育てがあるからできない、って言い続けてさ、それで結局一生書かないまま気づいたら死ぬ間際になってて、そこで『本当は私は書く才能があったんだよ』なんて言って死ぬ人生って、超ダサくない?」
 
「……」
 
たぶん、この子は、安心したくて来た。
安心して、自分の道を選んでいいんだって思えるようになりたくて、ここまで来た。
わざわざ、私みたいな見知らぬ人間に頼ってきてくれた。
 
それなら、私は、中途半端じゃなく、ちゃんと全力でこの子の背中を押そう。
 
「書けばいいのに」
 
まっすぐに、伝わるように祈って、彼女に言う。
三年前の、毎日不安で不安で仕方のない思いをしながら歩いていた自分が、彼女の姿と重なる。
 
書いていい。
好きなことをやっていい。
 
誰かにそう言ってもらえないと、不安だよな。

「書けばいいじゃん」

もっと色々伝えたいことはあったけれど、その言葉が伝わりますようにと信じて、彼女の背中を押した。

 

 

 

つい、先日のことだ。
 
彼女は、私が言ったことをどう受け止めただろう。
 
もしかしたら、まだ悩んでいるかもしれない。就活するべきか、別の道を選ぶべきか、迷っているかもしれない。そんな簡単に悩みは解決なんかしない。
 
けれど、もしまた不安になった彼女が天狼院のブログを探して、そしてこの記事にたどり着いたのなら、そして、過去の私がこれを読むとするなら。
それでいい、と私は伝えたいと思う。
 
悩んでいい。
死ぬほど悩んでいい。
苦しんでいい。
自分はダメだと落ち込んでいい。
自信をなくしていい。
周りと比べてもいい。
他の同級生がうまくいっているのを妬んでもいい。
強烈に嫉妬してもいい。
あいつなんかうまくいかなければいいのにと思ってもいい。
だらけてもいい。
がんばれなくてもいい。
いろいろ言い訳をつけてもいい。
迷ってもいい。
悩んでる暇があったら行動しろって説教してくる大人に反発していい。
就活が嫌だと思っていい。
内定なんかもらえなくてもいい。
でもやっぱり内定ほしいと思ってもいい。
自分に正直になっていい。
好きなことをやっていい。
自分の夢を追いかけていい。
 
書いてもいい。
書いても、いいんだよ。
 
小説家になりたいと、大きな声で言ってもいい。
有名になりたいと言ってもいい。
 
それでいい。
 
何も恥ずかしいことじゃない。
 
何を選んでも、「間違い」なんてないんだから。

 

 

 

彼女に会った時、私はちゃんと伝えたいことを、伝えられていただろうか。
彼女の胸に、届いているだろうか。

就活生の頃、自分のそんな気持ちを認めてあげられなくて、ひどく苦しくて、辛かった。ちゃんとネガティブな気持ちを認めてあげればよかったと思った。
あの頃の私に、私自身がしてあげられなくて、ひどく後悔したことを。

今度はちゃんと、できていただろうか。

伝わっただろうか。

わからない。
わからないから、書く。

私は書く。

そしてここまで書いて思う。

どうか、あの子にちゃんと、伝わりますように。

 

 

***


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2016-08-15 | Posted in チーム天狼院, 川代ノート, 記事

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