チーム天狼院

スタッフの夢を応援してあげるのが「良い上司」のつとめだとしたら《川代ノート》


スタッフの夢を応援してあげるのが「良い上司」のつとめだとしたら、あるいは、私は評価されるべき「良い上司」ではないのだろうと思います。

私の目の前にいる、二つ下の女の子は、迷っていました。自分の将来について。自分の夢について。これから私はどうしたらいいんでしょうか。私、夢に対して真剣になれているんでしょうか、と彼女は言いました。
彼女の目には不安が宿っていて、もやもやしているような感じが見て取れました。なるほどねえ、と話を聞きながら、私は考えていました。どう答えるのが正解なんだろう、と。どんなアドバイスをするのが的確なのだろうと。
純粋に、「良い上司」でありたいなあ、と思いました。せっかく「店長」という役割を与えてもらい、スタッフを束ねる立場でいられているわけです。そんなチャンスを与えられているのだから、きちんとスタッフにも「ここで働いていてよかった」と思って欲しいし、「この人についていきたい」と思われる上司でありたい。そんな下心が、半分。そしてもう半分は、はっきりと私個人としての本音を言ってしまいたい、という欲求。

彼女とは二年近く前に知り合いましたが、その頃から、夢を追っている子でした。目がとてもキラキラしていて、ピュアで、周りのみんなを巻き込む力がある。不思議な吸引力を持っていて、誰しもが彼女のことを好きにならずにはいられない。素直で、透き通っている。そんなイメージ。

私を含め、おそらく彼女を知っている多くの人は、彼女に対してこんな願望を抱くのだろうと思います。

「この子には、夢を追っていてほしい」と。

純粋に、まっすぐに、自分のやりたいことを見つめ、そして、その夢を叶えるために邁進する姿はとても美しくて、もはや、「夢を追う」という彼女の存在そのものがコンテンツになっていました。
個人的に、「夢を追う若い女の子」という彼女を、コンテンツとして楽しんでいたい。
そして、「夢があるなら、応援するよ」とちゃんと言ってあげられる、「良い上司」でありたい。
そんな二つの、純粋な彼女とは違って少し、いや、だいぶ濁り気味な欲求で自分は動いているのだなあと、ちょっと情けなくなりました。

「サキさんは、どう思いますか?」

その夜、店主の三浦を含め、天狼院スタッフ4人で、天神の「弐ノ弍」に夕飯を食べに行きました。餃子やら酢豚やらニンニクの芽炒めやら麻婆豆腐やらを食べつつ今後の話をしていると、彼女が不安そうに自分の未来について話し始めました。

「サキさんは、真剣ですか?」

聞けば、彼女は自分が今、自分のやりたいことに対して、真剣でいられているのかどうか、わからないというのです。
本当にやりたいことをやっているという気持ちはある。けれども、真剣なのかどうか、わからない。
真剣かどうかって、どうやって見分けるんですか。
そんなことをたずねられました。
彼女の目はやはり、キラキラしていました。一点のくもりもない。本気で迷っているんだな、と私は思いました。

「私はいつも真剣だよ」

そんな彼女に対して、一切迷うことなく、即答していました。
私は、真剣。すごく真剣。
間髪入れずに口にしていた私に一番驚いていたのは、彼女やスタッフでも、店主の三浦でも、誰でもなく、私自身でした。
あ、私今、一瞬も迷わなかった、と思いました。
おそらく、一年前の私であれば、かなり迷っていただろうと思います。真剣? どうだろう……うーん、わかんないなあ。そんな風に答えていたのではないかと思います。真剣かどうかなんて、測り方がわからない。そもそも、どこで見分けたらいいのか、全然思いつかないし。
そう、まさしく目の前にいる彼女のように、同じ観点で悩んでいただろうと思うのです。
けれども今の私は、悩みませんでした。一切悩むことなく、「私は真剣だ」と答えていました。
どうして、そんな風に答えられるようになったんだろう?

「サキさんは今、やりたいことをやれているって思いますか?」

彼女は立てつづけに、そうたずねました。
やりたいことを、やれているのか、どうか。
どうだろう、と思いました。これは少し悩みました。

やりたいことをやれているか、どうか。

なぜなら、本来の私の「やりたいこと」をやっている状態ではなかったからです。
私は大学生の頃から、小説を書きたいと言い続けていました。
書くことの面白さに目覚めて、書くこと「だけ」で食べていけるようになりたいと思うようになり、以来、ずっとその道でプロになることを目指してブログを更新したり、地道に小説を書いたりしてきました。書くことが何よりも一番好きなので、この好きなことだけをして生きていけたら幸せだろうなあ、と思ったのです。
だからこそ、小説家になるのに最短ルートと思われる、天狼院に社員として就職することにしました。

天狼院には、チャンスがたくさんある。出版業界の人も多く来る。私が一番、やりたいことをできる環境がある。

そう思ったのです。

けれども、現実はそれほど甘くありませんでした。

好きなことや得意なことだけをやっているのでは、会社は回らないのだということを、私は理解していませんでした。
私は「天狼院書店」の運営会社に所属する社員として合流したのであって、その役目を果たすためには、「書くこと以外やりたくありません」などと文句を言うわけにはいきません。
もちろん会社ですから、こまごました作業や、緻密に考えたうえでの仕事などもしなければなりません。

私はもともと論理的に物事を考えるのも、交渉して自分の意見を通すのも、気を利かせて空いたグラスにすぐさまビールを注ぐのも苦手です。組織で働くということに、そもそも向いていないのです。
私には社会性がないと自覚していたからこそ、「書くこと」を仕事にして、マイペースに生きていきたいと思ったのに、こんな風に苦手なことばかりやらなきゃいけない環境にい続けるなんて、本末転倒だ。
もしかしたら、天狼院を辞めて、もっと自分がやりたいことに集中出来る環境をつくったほうがいいのかもしれない。
そう思ったこともありました。

だから、「やりたいことができていると思いますか?」と尋ねた彼女の気持ちは本当によくわかりました。

組織で働くということは、やりたくないことをやらなければならないときもたくさんある。
やりたくないことに時間を割くのは無駄だから、だったら、やりたいことに集中したほうがいいのではないか?

そう思いつつもおそらく、心のどこかで、本当にこのままでいいんだろうか。
そうやって振り切るほど、「やりたいこと」に集中できているのだろうか。
もしかしたら、本当は今やりたいと思っていることとは別に、やるべきことがるんじゃないだろうか?

でも、だからって。
だからって、何が自分のやるべきことなのかも、わからない。

八方塞がり。
まさにそんな言葉がぴったりの、追い詰められた状況になっているのかもしれません。

はたして、そんな状況の彼女に、私はなんと言ってあげたらいいんだろう。
「良い上司」を目指すのならばやはり、「君の夢を応援するよ」と言ってあげるべきなのだろうか。

一瞬の間に、自分の頭の中に、ぐるぐるとそんな迷いが蠢いて、どう言うべきか、と考えたとき、ふと、私自身の上司である三浦が目に入りました。
私が迷っているとき、この人に一番、どうしてもらうのが嬉しかっただろう。
今思い返して、なんて言ってもらえた時が。どんな風に接してもらえた時が、一番、私のためになったと言えるだろうか……。

「今やってることが、やりたいことなのかどうかは、わからないけど」

気がついたら、そう答えていました。

「今やってることが、知らないうちにやりたいことになってた、って感じかなあ」

本音を言って欲しい。
私は、ごまかさず、変なお為ごかしなんかじゃなく、本当に思っていることを言ってくれるからこそ、この人についていきたいと思うようになったのだ。
思い出しました。
私が迷ったときのことを。今でもたびたび迷うとき、三浦に相談したいと思うのは、彼が嘘をつかずに「本当のこと」を言ってくれるからだと、思い出しました。

自分のためでもなく、相手のためでもなく、ただ、そんな欲求に邪魔されず、純粋に「本音」を言ってくれる。
本当のことを教えてくれる。
そんな存在が上にいてくれることが、いかにありがたいか、ここ数年で身にしみて感じていました。

だから。

「あなたの夢を応援するよ」なんて、言うのはやめよう。

迷うことも、後悔することも、なんどもありました。
けれども今、「私は真剣だ」と即答できるようになれているのは、私が成長できている証でしょうか。そうだと言ってもいいのでしょうか。
わからないけれど今私は、この道を選んでよかったとはっきりと言えるのです。

自分の夢だと思っていた、「書く」ことへの最短ルートではないかもしれない。
今、店長の仕事は、こう言っちゃなんですが、結構忙しいです。お腹が痛くなりそうなほど店のことを考えたり、お客さんがこなかったらどうしようと不安になったり、明日起きるのが怖いと思ったり。おそらく「書くこと」にもっと集中するのであれば、別の仕事を選んで、たとえば絶対に定時で上がれる仕事を見つけて、ほかの空いた時間を全部書くことに捧げるとか、そういう風なやり方だってあるはずなのです。
けれども今、私がやりたいことは、今私がやっていることだと、自信を持って言えるのです。
これは直感でしかありませんが、おそらく物事にはタイミングというものがあって、人が成し遂げる目標や夢は、それが最適なタイミングで叶うように、あらかじめプログラムされているんじゃないかと思うのです。
私には「一流の作家になる」という夢があるけれど、それが叶うタイミングは、明日かもしれないし、一年後かもしれないし、五年後かもしれない。あるいは、二十年後かも。五十年後かも。いつになるのかはわかりません。けれども、「作家になる」という夢が開花するタイミングは、いつか必ずどこかで私を待っていると、私は信じています。

夢は、一つでなければならないと、いったいどこの誰が決めたというのでしょうか?

やりたいことがたくさんあって、それは一つでなければならなくて、もしも複数夢を持つのであれば、それは一つ目を叶えたあとでないといけないなんてルール、どこかに存在するのでしょうか?

いや、しないのだということに気がつくまでに、私は、二十五年かかりました。

やりたいことは、いくらあってもいい。
そして、私が叶えるべき「夢」というのは必ず、私が行くのを待っている。ずっとずっと待っている。
だから、怖がることなく、そのタイミングに身を任せて、そのときやるべきことをやるだけなのです。

「このままでいいのかな」と迷ってしまうのは、自分が「夢」を逃げる対象にして、本当にやるべきことから、せっかく自分を迎えに来た明るい未来から逃げているという罪悪感があるからであって、薄々どこかで、動物本能的に、今自分がやるべきことは、わかっているのだと思います。

あるいは、この考え方は、明日には変わっているかもしれない。
「もうやりたくない」とか、「天狼院をやめてしまいたい」とか、ころりと気持ちが変わっていることもあるかもしれません。
けれども今の私は、そう思います。そう信じています。

やりたいことなんて、いくらあってもいいのです。
そして、そのやりたいことが叶うタイミングも、いつだっていいのです。

なんでもありだと思います。だって、自分の人生なんだから。

そう、こんな風に、スタッフに対して暑苦しく、偉そうに語ってしまう夜があってもいい。
「良い上司」でなくても良い。

私は私であって、「良い上司」ではありません。
川代紗生は、何者でもなく、川代紗生になればいいのです。

私だったら、私みたいな上司、嫌かな。うん、嫌かも。うわー絶対嫌だわ、こんなやつ。

そう思いつつも、なんだかすっきりとした気持ちで眠れそうなのは、これまでの自分の呪縛から、解放された気がするからかもしれません。

 

 

 

*この記事は、天狼院スタッフの川代が書いたものです。
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❏ライタープロフィール
川代紗生(Kawashiro Saki)
東京都生まれ。早稲田大学卒。
天狼院書店 池袋駅前店店長。ライター。雑誌『READING LIFE』副編集長。WEB記事「国際教養学部という階級社会で生きるということ」をはじめ、大学時代からWEB天狼院書店で連載中のブログ「川代ノート」が人気を得る。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、ブックライター・WEBライターとしても活動中。
メディア出演:雑誌『Hanako』/雑誌『日経おとなのOFF』/2017年1月、福岡天狼院店長時代にNHK Eテレ『人生デザインU-29』に、「書店店長・ライター」の主人公として出演。
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2018-06-11 | Posted in チーム天狼院, 川代ノート, 記事

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