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チーム天狼院

焼き鳥屋から垣間見えた大人の世界


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【9月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:村山真子(チーム天狼院)
 
「いらっしゃいませ~!」
 
「何名様で?」
 
「1人です」
 
店員さんに立てて示した右手の人差し指の震えが止まらない。
 
「カウンターのお席でよろしいですかぁ」
 
カウンターの一番端っこの、目の前に焼き台のある席に座った。
 
 
 
 
 
 
「わたしはね、やりたいことは、もう全部やったの」
 
今年のお正月のテレビ番組で、長生きで破天荒な、小説家でもある有名な尼さんが、そんなようなことを言っているのを見て、鳥肌が立つほど、かっこいいと感動した。
 
21年間生きてきて、そう言い切る人を初めて見た。
 
私もそんな風に言い切れる、かっこいい人生にしたい、と思った。
 
その瞬間から、私の中で、「やりたいことは片っ端からやるプロジェクト」が始まっていた。
 
そのプロジェクトの一環で、今日は焼き鳥屋に1人で来たのだ。
 
 
普段、飲食店に1人で入るのにあんまり抵抗はない。ラーメン屋、牛丼屋、回転寿司、ほかにもいろいろ、1人で行ったことがある。
 
 
ただ、夜の焼き鳥屋には、1人で入ったことがなかった。
 
前から、興味は、あった。
でも、勇気が、なかった。
 
なぜ、勇気がなかったかというと、お酒が得意ではないからである。ものすごく弱いのだ。
 
飲食店でアルバイトしたことがあって、お酒代がお店の売上にすごく貢献するイメージが強かったから、”お酒を飲まない客”としてお酒を飲むのが当たり前な店に行くのは申し訳ない気がしてならなかった。
 
でも、今年の私には、そんなの言い訳にしか思えなかった。
 
 
人のこと考えてますよ、ってフリして、自分の臆病さを隠して、自分が傷つかないように一歩目を踏み出さない選択をしているだけだ、と思った。
 
 
傷ついてもいいじゃないか、失敗したっていいじゃないか、場違いだった、と分かればいいじゃないか。
 
よしよし、行ってみよう。
 
そういうわけで、のれんの前を5往復くらいしてしまうほど緊張して、やっとの思いでカウンターの端っこの席をゲットしたのである。
 
本当は水だけでいいんだけど、なにか頼まないとお店に悪いから、カルピスにしよう。
 
何がおいしいかわからないから、とりあえず盛り合わせにしよう。
 
焼いている音と換気扇の音にかき消されないように、大きな声で注文した。
 
すんごいやることがない。
 
ひたすら焼き台の上で転がされる焼き鳥を眺めた。
 
カウンターにいた他のお客さんと店長の会話に、聞き耳を立てた。
 
1人で外国に来たような孤独感だった。
 
 
 
 
 
出てきた焼き鳥は、緊張でカチコチになった私をほぐしてくれるおいしさだった。
 
もう飲み物を頼まなくていいように、カルピスはちまちま飲んだ。飲み物にお金を出すなら、焼き鳥を1本でも多く食べたいからである。
 
1人で、無言で食べていたから、あっという間になくなってしまった。
 
しまった、と思った。
 
真の目的は、焼き鳥屋に来ること、ではなかったからだ。
 
 
 
 
 
実は、「行きつけの店」たるものが欲しかったのである。「行きつけの店」って響きがかっこいい。
 
どこかのお店の、常連さん、に、なりたかったのである。
 
21歳は、まだまだ子供なのである。
背伸びをしたいお年頃なのである。
早く、大人の世界の仲間入りをしたいのである。
 
今回はその野望を叶えるべく、この焼き鳥屋を狙って来た。行きつけの店が焼き鳥屋とか最高にかっこいいなって思って。焼き鳥好きだし。
 
 
予算がないので、ゆーっくり食べながら、機会を伺って自分をアピールする作戦だったのに、おいしくて食べてしまった。
 
 
追加で注文することにした。
今度は、盛り合わせみたいにしないで、数本ずつ頼んで長居することにした。
 
しかし、ただの平日だというのに、小さなお店はとてつもなく混んでいて、注文するタイミングを掴めずにいた。
 
 
「ちょっと店長、注文だってよ」
 
ひとつ空いて左隣に座っていた、スーツを着た男の人が、きょどっていた私のために、店長を呼んでくれた。
 
やさしさに、とてつもなく感動した。
 
私が注文を終えるとその会社員は、私にあれこれとたくさん質問した。
 
「お酒は飲まないの?」
 
「どこから来たの?」
 
「何を勉強してるの?」
 
「自炊はするの?」
 
女子大生が、お酒も飲まずに、焼き鳥屋のカウンターで、1人で焼き鳥を食べているのが謎すぎて、とても興味を持っていたようだった。
 
私は話しかけてもらえたことがうれしくて、ひとつひとつの質問に丁寧に答えた。
 
 
そのうち、店長も会話にまざって、とても楽しい時を過ごした。
 
結局、あっという間にラストオーダーの時間になったので、会計をして、その日は帰った。
 
お酒無しだから、全然金額が高くなくて、申し訳なかった。でも、1回だけ高額払うのと、少ない額でも何度も来るのは、トータルで一緒だと思って、胸を張って帰った。
 
 
常連になるために必要な爪痕を残せたか、と言われると、微妙だと思った。私は名乗らなかったし、特別面白い話をしたわけでもなかったから。
 
でも、なんとなく、この焼き鳥屋が私のサードプレイスになったらいいな、と思えるいいお店だった。
 
 
 
 
 
 
 
それからちょっとして、人とご飯に行く機会があった。おすすめの店ないの~、と言われたときに、その焼き鳥屋が浮かんだ。
 
この前はじめて行っただけなんだけど、おいしかったから、と、連れていくことにした。
 
この前1人で来た店に、人を連れて2人で来るのはなんだか恥ずかしくて、また緊張しながら、震える手で入り口の扉を開けた。
 
「はーい、いらっしゃい」
 
 
 
 
 
 
 
店長は、そう言ったあと、私を見て、ニコッと笑った。
 
 
 
 
 
それは完全に、また来てくれたんだね、待ってたよ、という笑顔だった。
 
手ではなく、心が震えた。
 
あのお酒飲まない子がまた来たよとガッカリされたら嫌だなとか、そもそも覚えてもらえてるなんて自分の思い上がりだよなとか、ものすごくいろいろ考えたけど、そんなの取り越し苦労だった。
 
一歩踏み出して良かった、と心の底から思った。
 
 
 
 
食べながら本当にうれしくて、店長へどうやったら感謝の気持ちがちゃんと伝わるかと考えた。お礼を言うだけでは足りない気がした。お金をたくさん払うことでもないように思えた。
 
 
あっ、
 
このお店に食べにき続けることこそ、最高の感謝の示し方かな、と思った。
 
 
その時、気づいた。
 
「行きつけの店」はそうやってますます「行きつけの店」になっていくのかもしれない、と。
 
なんだか、ちょっとだけ、大人の世界がわかった気がした。
大人って、かっこいいなって思った。
 
***

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