高校3年生、受験天王山の夏、先生に「何があっても勉強するな」と言われた3日間《川代ノート》
高校三年生、受験の天王山の夏に、学年全員で旅行に行かせる学校がある、と聞いたら、誰もが「アホか」と言うだろうか。
先生は口を酸っぱくして「勉強道具は一切持ってくるな」「その三日間は何があっても勉強するな」と言う。アホだと思う。一応進学校だ。お嬢様が多く通う女子校だ。「進学率もうちょっと気にした方がいいんじゃないの」と、その旅行が近づくにつれ、多くの生徒が口々にそう言った。
「修養会」というのが、その旅行の名前だった。
修学旅行、というのとは少しちがう。なぜなら何も学を修めるイベントはないからだ。ただ山の中にこもって、散歩したり、フリスビーをしたり、鬼ごっこしたり、ただみんなで話したりする。それだけ。
受験勉強真っ只中、成績が全然上がらなくて、ずっと第一志望の合格判定率Eだった私は、焦っていた。誰よりもデカイ声で「アホか」と言っていた。
「なんでこんな大事な時に旅行なんか行かなきゃいけないの? 勉強合宿とかならわかるよ、でも修養会って!」
「その三日間が命取りなのにさ、勉強道具持って行っちゃダメとか意味わかんないんだけど」
「休んでる暇ない、これで落ちたらどうすんだよ」
第一志望の早稲田に合格しないと私の人生は終わりだとまで追い詰められていた私は、どうしてもその修養会とやらに参加する意味が見出せなかった。
そしてそれは、私の友人も同じように感じているらしかった。
みんな口を揃えて「いや、こっそり勉強しようよ」「遊んでる暇ないし」と言っていた。私ももちろんそう思っていた。だからリュックサックの中にこっそり(とは言っても別に見つかってもいいやと思っていたのだが)英語の単語帳と世界史の用語集と古文の問題集を詰め込んだ。
私たちが言ったのは、どこかの山の合宿所だった。
山の名前も覚えていない。八ヶ岳だったかもしれない。わからない。何の特徴もない山だったということしか覚えていない。合宿所、森、自然、庭。以上。観光するところもなければ写真を撮るほどの絶景もない。
合宿所も、何の特徴もない建物だった。さしてボロくもないけれど、かといってオシャレかというほどでもない。
本当に山奥で、携帯もほぼ圏外になりそうな勢いだった。部屋は、よく覚えていないけれど、4人か6人部屋だったと思う。二段ベッドがあった。特に特筆することもないような部屋だった。
なんでこんなところに、と思った。
どんなご飯が出たかすらもろくに覚えていない。たぶんカレーとか、そういう定番の食べ物だったと思う。まあそれも特徴のない味だった。まずくはないが、特別美味しいというわけでもない。
そして、じゃあ修養会の内容がめちゃくちゃいいのかと聞かれたら、そういうわけでもなかった。
イベント盛りだくさんというわけでもなければ、面白いレクリエーションの時間があるわけでもない。各自で班を作って模造紙に何か発表するということがあるわけでもなかった。
やることといえば、ただ話すだけだった。
朝から晩まで、礼拝をして(私の通っていた女子校はキリスト系の学校だった)、先生や別の生徒の話を聞く。自分も話す。それだけ。
昼間はたしか、自由時間だった。みんな、鬼ごっこをしたりドロケイをしたり、大富豪をしたりして遊んだ。先生も生徒も一緒になって遊んだ。
なんでこんなことやってるんだろう、と思ったのだけれど、結局私も臆病者だから、みんなが遊んでいるのに自分だけ部屋でこそこそ勉強するなんてできなくて、というか仲間外れになりたくなくて、結局一緒になって遊んだ。普段運動を全然していなかった分、体力が衰えていて、すぐに息がきれる。鬼ごっこの鬼になっても全然みんなに追いつけない。いつまでも鬼のまま。ドロケイをやっても一番に警察に捕まった。
なんでこんなこと、アホらしい、と思っていたのだけれど、もうなんだか受験の総本山なのにとか、勉強しなきゃとか、時間がないのにとか、こうしてる間にもどんどんライバルに先越されてるとか、そういうことが全部どうでもよくなってきて、無我夢中になって、汗だくになって走って遊んだ。息が上がって、胸のところがキーンと痛くなるまで走った。楽しかった。
楽しい、と久しぶりに思った。
楽しい。
楽しい楽しい楽しい。
バカみたいなことで大笑いして、周りのことなんか全然気にしないで、ただ遊んだ。
そして夜になると、私たちはそれぞれの部屋に友達同士で集まって、話をした。
何について話したか、はあんまりよく覚えていないのだけれど、とにかく色々な話をした。不思議と、自分が今まで話したことのない、「ただのクラスメイトの一人」だった相手にも、自分の気持ちをすらすら話すことができた。そういう空気ができていたのかもしれない。多くの生徒が、今まで言えなかった自分の気持ちを話した。誰にも言えなかったこと、本当は怒っていること、家族のこと……。今の私たちが見たら、きっとあまりに「思春期の女の子の悩み」らしくて、ぷっと吹き出してしまうようなものだったと思う。つたなくて、些細なことだ。「なんでそんなことで悩んでるの?」と言いたくなるような、くだらないこと。社会に出たら今より辛いことなんかいくらでもあるよ。友達に裏切られた? そんなの裏切りのうちに入らないよ、そんなことで傷つくなよ。五年後のお前は彼氏に振られてその何十倍も傷つくことになるんだぞ。受験が辛い? バカみたいなこと言うなよ。自分のことだけ考えてひたすら勉強できるなんて幸せなことじゃないか。就活なんか受験よりもずっと身がちぎれるような思いしながらやんなきゃいけないんだぞ。
今ならそう説教してやりたくなるようなことで、私は、私たちは、真剣に悩んでいた。そしてその悩みを、おそらく修養会ではじめて同世代の他人に吐露した。
感極まって泣きだす子がいた。そこから伝染するように、みんなどんどん泣いていった。涙もろい私も当然大泣きした。ティッシュで山ができるくらい泣いた。何がそんなに悲しかったのかもよく思い出せない。たとえばあのときの映像を録画してあって、それを今見せられたら恥ずかしさで憤死するくらいのものだったような気がする。でもそのときは真剣だったのだ。
私たちは夜中まで話をした。色々な話をした。時間も気にせずに話をした。先生たちも夜中に出歩いても何も言わなかった。「早く寝なさい」とうるさく言ったりしなかった。だから私たちは気のすむまで話をした。何に役に立つわけでもない、受験が有利になるわけでもない、大人からすればくだらないと言われるような話を、延々とし続けた。
そうして色々なことを話して、修養会最後の夜、私たちは外に出て、それぞれが芝生に寝転んで星空を見た。誰と話すでもなく、今度は自分自身と話をしなさいと先生たちは言った。合宿所の電気はすべて消され、真っ暗な闇の中で、星の光だけが輝いていた。私は仰向けになってただ空を見ていた。本当に真っ暗だった。「自分と話しなさい」と言われても何を話せばいいのかもわからなかった。でも自然の中でただぼーっとするのも悪くないなと思った。
そうして、私の高校三年生の、夏休み最後の三日間は終わった。
リュックの中にこっそり入れておいた単語帳を開くことは、一度もなかった。ただの重りになっただけだった。
何をしたの、と聞かれても、明確な答えを見つけられない。
しゃべった、とか。
遊んだ、とか。
「何かを学んだ」なんて言えるような、旅じゃなかった。
私たちは、何も吸収しなかったし、何も生み出さなかった。
正直、この経験が受験の役に立ったとも思えない。
もしかしたらこの三日間をもっと有効に使って勉強していれば、もっと上の大学に合格できた、という子もいたのかもしれない。
けれど私は一生、あの夏の三日間のことを忘れない。
あの何もない山の中で、汗だくになってただ走り続けた。
大笑いして、バカみたいにくだらない話をたくさんした。
今ならふっと鼻で笑ってしまうような小さな悩みを、今までにないくらい緊張しながら他人に話した。
高校三年の受験天王山の夏に、三日間も勉強させずにただ話をさせ続ける学校があるなんて聞いたら、ほとんどの大人は、アホか、と言うだろうか。
言うだろうな、と私は思う。
どう考えたってバカだ。親だって反発するかもしれない。この三日間のせいで落ちたら、と思うかもしれない。進学率も下がるかもしれない。
でもそういうバカなことをするあの学校のことが、私は死ぬほど好きだった。
なんの役にも立たないようなことを全力でやらせて、勉強なんかしてないで友達といっぱい話せと言われたあの瞬間が、幸せだった。
だからこそあの思春期のときに、思春期らしいことに全力で悩むことができたのだ。
ゆとり教育がどうだ、とか。
最近の子供の学力が低下してる、とか。
日本の学生からグローバルリーダーを生み出すには、とか。
大学生になってから、そういう言葉がやたら耳に入るようになったけれど。
そんなの知らん、と私は思う。
ぶっちゃけ、どうでもいい、とすら思う。
ただ私はあのバカなことをする学校の出身だということを、誇りに思う。
何百人もの生徒を名門大学に入学させている学校じゃなく、
グローバルリーダーを育てる英才教育をしている学校じゃなく、
自立した女性を多く輩出する学校じゃなく。
地味で目立たない、偏差値もそんなに高くない、あの学校にいられたことが、本当に幸せだった。
「旅」という言葉を聞くたびに、私はあの夏を思い出す。
あれが本当の旅だ、なんて言うつもりはないけれど、きっと私はあのときのなんとも言えない感動や、自分自身を全力で体感できるあの瞬間をもう一度味わいたくて、旅に出るのだ。いつも。
誰かに出会いたい。
誰かと話したい。
誰かと自分の思いを、共有したい。
新しい自分と、出会いたい。
一人で旅に出るのもいい。
家族と温泉に行くのもいい。
彼氏とラブラブ旅行をするのもいい。
けれど、やっぱりときどき、自分とは普段関係のないような、あまり深く知らない誰かと旅に出たくなる。
私を知らない誰かに、私を知ってほしいというこの気持ちは、ただの汚い承認欲求だと言われれば、それまでなのだけれど。
でもまあ別に、そういう理性とか常識とか気にしなくていっか、と考え直す。
ただあの思春期の頃みたいに、くだらないことに全力になったりしてみたくて、私はこの週末を、楽しみに、待っている。
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今週末の日曜日、5月29日は天狼院旅部です。
いい大人がみんな揃って、写真撮って、海に足をつけて、おいしい海鮮丼食べて、帰りのバスで疲れて寝る、アホみたいに楽しい部活です。
まだ席にちょっとだけ空きがあるみたいです。
【5/29Sun天狼院旅部】旅する天狼院!大人の修学旅行!バスをチャーターして「江ノ島」へ!天狼院自慢の部活を楽しみながら江ノ島を満喫します!《初めての方大歓迎!》
【旅部MOVIE】
【概要】
日時:5月29日(日)
8:00 池袋西口集合(ペットボトルのお茶用意します)
8:15 大型バスにて移動
10:30 江ノ島到着
12:30 食事(昼食:江ノ島 貝作)
13:30 江ノ島出発
14:00 由比ヶ浜到着
16:20 江ノ電 和田塚駅 集合
16:30 由比ヶ浜出発
18:30 池袋西口解散
旅費:12,000円(往復交通費、イベント参加費、昼食代、旅行保険料、江ノ島1日乗車券 込)
*店頭、ピーテックスいずれかでのお支払い・決済がすむまではお申込み受付完了とはなりませんのでご注意ください。
*江ノ電1日乗車券も旅行代金に含まれます。
*食事代は旅行代金に含まれます。ただし、飲料やデザートなどプラスでご注文される分は各自ご負担願います。おやつもお持ち頂いて結構です。
*天狼院旅・フォトゼミ にお申し込みの方はカリキュラムに含まれるため、別途お支払い不要でご参加いただけます。旅フォトゼミの詳細はこちら→【天狼院旅・フォトゼミ】
定員:40名様
《チケットお申し込み》
*「店頭」「Peatix」いずれかでのお支払い・決済がすむまではお申込み受付完了とはなりませんのでご注意ください。
【開催イベント詳細】
《ファナティック・グランプリ2016》
熱狂的に好きで好きでたまらない本を、熱狂的に紹介してもらう読書会です。【「ファナティック・グランプリ2016」ポイントとルール】
・ファナティック・ポイント制/加点方式でポイントを争い、永久不滅ポイントでランキング化/売れた分もポイント化される
・月刊天狼院書店(店舗雑誌)/月刊READING LIFE(紙の雑誌)に掲載される/「リーディング・ハイ」で作品紹介
しかも、ファナティック・ポイント制が導入され、「コマンド/加算ポイント」という新しい定義が加わります。
ファナティック・ポイント制【コマンド/加算ポイント】*ルールは常に進化します。
ファナティック連鎖・・・紹介した作品を、別の人も読んでいて、いいと言う。
2連鎖 2ポイント
3連鎖 4ポイント
4連鎖 8ポイント
緊急発注・・・紹介された作品があまりによくて、グランド・マスターがその場で発注を指示してしまう。
発注数=ポイント数
レスキュー(ヒーローズ・ポイント)・・・「崖落ち(返品)」されそうな作品を助けて、それを紹介する。
5ポイント
メゾン・・・メドン・ド・天狼院の住民の方で、自分の部屋にある作品を紹介した場合。
5ポイント
泣かせ・・・あまりのファナティックぶりに感動した別のお客様が泣いた場合。
1泣かせ30ポイント
参加 5ポイント
etc…最終ジャッジ・・・紹介者のファナティックを観て、別のお客様の挙手が最終ジャッジとなる。
読んでみたい1挙手・・・1ポイント
買う(予約する)1挙手・・・5ポイント
*ノーマルモード・・・グランプリモードでなく、通常のファナティック読書会(ノーマル・モード)/夜ファナティックでもファナティック・ポイントを獲得できます。(グランプリの順位には影響しません)
参加 5ポイント
*ファナティック後・・・ファナティック・グランプリ/ファナティック読書会の後、紹介された本が売れた場合、加算されます。(グランプリの順位には影響しません)
1冊5ポイント
*友人紹介ポイント・・・友人をファナティック読書会/ファナティックGP/夜ファナティックに連れてきた場合。初回のみならず、その友人の方が来る度に加算されます。加算には友人エントリーが必要です。(グランプリの順位には影響しません)
1人1回5ポイント
ファナティック・ポイントは「永久不滅ポイント」になります。
このグランプリのみならず、紹介された本が売れた場合は、1冊につき5ポイント加算されていきます。これはグランプリの順位には影響しませんが、生涯得点ランキングの方に加算されて行きます。ランキング上位者の名前と紹介した作品は、ランキングまたは殿堂のコーナーに並びます。
(旅部で開催されますファナティックグランプリは、チャンピオンシップには加算されません。)
詳細ページ:天狼院ファナティク・グランプリ《雑誌編集部》
自分が編集者となって 記事を作る部活。
お客様が雑紙編集部部員となって 雑誌を作り、実際に販売まで行ってしまうイベント。「お客様=編集者」
企画立案から取材、原稿、編集、販売戦略まですべてを体験できる。《旅・フォトゼミ》
他の誰でもない自分だけの世界を見つける目線
世界を見つめる“カメラマンズアイ”を身につけることを目標にしたカメラ講座。「うまい写真が撮りたい」確かに上手く見える構図や、プロカメラマンならではのテクニックは存在する。「上手い写真を真似ること」これはは確かに技術を磨く面ではいい。しかし、ふと周りを見てみれば「うまい写真」「上手く見える写真」はWEB、雑誌、に溢れている。似たような写真であれば、それは機材や被写体がいいものがよく見えるに決まっている。
でも考えてみれば、写真に「正解」なんてない。
自分目の目で見た自分だけの世界を、切り取る。
これこそが写真の醍醐味。
旅、講義を通して自分目線で世界を入りとっていく力を身につける。
秋には京都天狼院でのグループ展を開催。
(こちらのゼミにすでにお申し込みの方は、旅部へのお申し込みは不要です。)
旅フォトゼミの詳細ページ→【天狼院旅・フォトゼミ】《天狼院映画部》
天狼院が開催する「映画を撮影する部活」
『iPhoneやスマホでもできるショートムービー完成』を目標としており、カメラから、普段持ち歩いているケータイでも撮影している。
構図、カット割りなど、普段から使える動画の基本を学ぶことができる。
【開催部活講師プロフィール】
《フォト部》
・榊智朗(さかき ともあき)。
福岡出身 1979年1月生まれ。
フリーカメラマン、写真家。広告、書籍の表紙等、PV等様々な分野で活躍している。
「その人史上最高の1枚を撮る」カメラマンとして定評がある。得意な分野は人物(女性)、食べ物、建築。
《映画部》
・檜垣賢次(ひがき けんじ)。
テレビ朝日でプロデューサー・ディレクターをされていた現役のテレビマン。『トゥナイト2』ではチーフディレクターを務め、天狼院映画部では90分映画を製作。自身でも映画を撮る、動画のプロフェッショナル。
【お支払い方法】
・天狼院書店「東京天狼院」の店舗にてお支払い(現金・クレジット決済・銀行引き落とし)
・イベントサイト「Peatix」にてお支払い(コンビニ支払い・クレジット決済)
【本ツアーにつきまして】
・本ツアーは(一社)日本移動教室協会が企画する、受注型企画旅行となります。
・本ツアーに含まれる代金は、ツアー出発地から貸切観光バスでの往復の交通費、昼食代、イベント参加費用、旅行傷害保険代金となります。
・本ツアーのお申込の確定は、ツアー代金のお支払いを確認させて頂いた時点となります。期限内にお支払いが確認出来ない場合は、お申込を取消させて頂きますのでご了承下さいませ。
【キャンセル料金につきまして】
本ツアーをキャンセルされる場合には、下記のキャンセル料金が発生いたします。
出発の4日前まで:無料
出発の3日間前:ツアー代金の30%
出発の2日前:ツアー代金の40%
出発前日:ツアー代金の50%
出発当日:ツアー代金の100%
【天狼院書店へのお問い合わせ】
TEL:03-6914-3618
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