メディアグランプリ

ビブリオバトルで勝つには、本の面白さを語ってはならない


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記事:河内愛子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「ビブリオバトル」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
知っているという人は、おそらくかなりの読書通だ。
 
ビブリオバトルとは、プレゼンターが読んで面白かったと感じた本を5分間で紹介し、最も多くの聴衆に「その本、読みたい!」と思わせた者が勝者となるゲームだ。
このバトルは、立命館大学の谷口忠大教授が京都大学の大学院生だった2007年に考案し、2010年からは毎年全国大会が行われるほどのビッグイベントになっている。
 
さて、かくいう私もこの夏ビブリオバトルのプレゼンターとして参戦した……と言っても本家本元の方ではない。母校である社会人大学院のイベント「第1回マンガ版ビブリオバトル」に、仕事で出られなくなってしまった人の欠員補充として参加することになったのである。
 
プレゼンターは私を含め6名。推薦マンガは「ナニワ金融道」から「僕のヒーローアカデミア」まで、6者6様のセレクトとなった。
そして、映えある第1回チャンピオンに輝いたのは誰あろうこの私だった。
 
欠員補充、しかもイベントを主催するマンガ研究会の会員でない私がトロフィーを掻っ攫ってしまう(オンライン開催なので実際そんなものはなかったが)のは、道場破りのようで少々気まずいものがあった。
しかし、もし今回の勝因を分析するならば「マンガの面白いところを語らなかった」点だと思う。
 
今回私が獲物として選んだマンガは、三木紀房氏の「クロカン」だった。
1996年から2002年まで「週刊漫画ゴラク」で連載されていた作品で、内容を一言で言うと「監督からの視点で描いた高校野球」の話だ。主人公である黒木監督・通称「クロカン」の独創的な熱血指導と臨場感溢れる試合展開は、マンガ好きからも野球好きからも評価が高い。
 
私がこの作品を選んだのは単純に面白かったからではない。作品中で全編にわたって繰り返される「てめえの頭で考えろ」というクロカンのセリフが自分自身に刺さり、同時に聴衆である同窓生に対して訴えたい言葉だったからだ。
 
私は長いこと業界大手の老舗小売企業に勤めてきたが、この3月そこを退職した。
3年前に大学院に通うようになり、ようやく「てめえの頭で考え」始めた私が気づいたのが、「この会社、もうアカン」ということだった。
 
リスクを取らなくなり、個性をなくしていった店頭。
人を減らして固定費を縮小することに味を占め、みるみる活気を失っていった現場。
B to C企業にもかかわらず、顧客にどう価値提供をしていくべきか考えなっていった経営層。
もし私がもっと早く「てめえの頭で考え」ていたなら、会社を辞めようと思う前に、こうした流れに抗う術をひねり出す努力をしていたかもしれない。だが、既に遅かった。
 
前半ではそんな自分の敗戦記を語った。
リアルタイムで書き込まれるzoomのチャットには、いくつかの共感のコメントを寄せてくれた人たちがいた。同情かもしれなかったが、ありがたく感じた。
 
しかし後半では、そんな聴衆を敵に回す覚悟で問うた。
「あなたたちは、『てめえの頭で考え』ていますか?」と。
 
私には以前から同窓生たちにある不満があった。良い意味でも悪い意味でも「素直過ぎる」のだ。
安くはない学費と、膨大な時間を引き換えにしてでも何かを学び、掴みたいと願った人たちだ。その知恵や知識への渇望は相当なものだろう。
 
しかし、だからと言って講師の言う言葉であれば何でも正しいと思ってはならない。
カンファレンスに登壇するゲストスピーカーの話をすべてごもっともと聞いてはならない。
誰の言葉であったとしても、本当にその話に妥当性があるか、自分の頭と心を使って再検討する試みは決して怠ってはならない。
 
勝負なんてどうでもよかった。卒業生・在校生含め200人以上が観戦を申し込んだこのビブリオバトルで、このことを言うためだけに私はこの場に立ってマイクを握ったのだ。
 
私見なのはわかっていた。「素直」であることは吸収力や柔軟さにつながる。かの「1兆ドルコーチ」が教え子に求めたのは、正直さや謙虚さといった「コーチャブル」さであり、それは「自分の頭と心を使って再検討する試み」としばしば対立する。
しかしそれでも、健全な批判精神は手放してはならない。自らで考え、決断し、行動することこそが、人を本当の意味で成長させるからだ。
 
かくして私は全体の27.7%の票を得て、「マンガ版ビブリオバトル」初代チャンピオンの座に就いた。
 
私の好きなマーケティングの格言で「人々はドリルが欲しいのではない。4分の1インチの穴が欲しいのだ」という言葉がある。
プレゼンターがそのマンガのどんなシーンが好きで、どう感動したかを熱弁しても、聴衆にはなかなか自分事として響かない。ドリルの開発工程においてどんなところが難所で、その性能を実現したことがどれだけ画期的な技術かを話しても、セールストークになりにくいのと同じだ。
 
今にして思えばだが、私はマンガとは向き合わず、聴衆である同窓生たちと向き合っていた。
同窓生たちに何を伝えたいか、何を持ち帰ってもらいたいかだけを考えていた。
 
ビブリオバトルで勝ちたければ、本の面白さを語るよりも大切なことがある。
それは、聴衆への熱意だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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