メディアグランプリ

おにぎりはノスタルジー


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記事:石川サチ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
おにぎりを食べ過ぎて、吐いてしまったことがある。
 
幼稚園の頃だった。
 
お寺の境内にあったその幼稚園のお堂で、確かお釈迦様の誕生日か何かを祝う会の行事が行われた。
お堂で、園長先生だった和尚さんの説法を聞き終わった後、みんなで持参したおにぎりを食べた。
普段は小食だったので、おにぎりは1~2個食べればお腹がいっぱいになったのに、その日食べたおにぎりは格別に美味しく、自分で持って行ったおにぎりだけでは足りず、お友達のおにぎりももらって食べた。
胸焼けまでしてきて苦しくなっているのに、次々に手が伸びた。先生がびっくりして「お腹いっぱいならムリしなくて良いんだよ」と言った。
それでも私は、おにぎりを食べるのを止められなかった。
真っ白で香ばしい香りの米粒にぺったりとひっついた磯野香のする海苔。ちょうど良い塩加減。酸っぱい梅干し。この絶妙な組み合わせを永遠に味わっていたかった。
気付いたら、胸元が詰まって、オエッとなった。
お釈迦様が飾られたお堂に、おにぎりを吐き出していた。
一緒にいたお友達がみんなびっくりして散らばった、
先生たちが心配して解放してくれていたのに、私はもっとおにぎりを食べたかった。
 
今でも、あのとき食べたおにぎりの味を思い出す。あのおにぎりを無性に食べたくなる。
 
なぜ、あのおにぎりはあんなに美味しかったのか。
 
当時、田舎のほとんどの家では、お米を「かまど」で羽釜を使って炊いていた。
「かまど」は、家の外に備え付けてあった。朝は、「かまど」の焚き付けの煙の匂いで目が覚めた。
 
ごはんが炊きあがると、台所の床に鍋敷きを敷いて、その上に「かまど」から運んだ羽釜を母がドンと置いた。
羽釜には、一升ほどの炊きたてのごはんの入っていた。羽釜の木のふたを開けると、もんやりとした湯気が台所中に立ちこめ、「ぐしゃ」という音を立て、香ばしい香りを漂わせながら、ごはん一粒一粒が一斉に動いた。
しゃもじで、ごはんをざっくりとかき混ぜると、ごはんは、みんなで一斉に「ぐしゃぐしゃ」音を立てながらかき回されて、空気を吸った。
 
羽釜の底の方までかき混ぜると、さっきよりも強い香ばしい香りがした。お焦げだ。白いごはんの裏側は、固くなってほんのり茶色に色づいていた。
 
この熱々のお焦げだけを茶わんにてんこ盛りにして醤油だけで食べるのは、私にとってのごちそうだった。
 
この「かまど」で羽釜を使って炊いたごはんで作るおにぎりが最高に美味しかった。
 
熱々ごはんをやけどしそうになりながら、右手に左手にごはんを交互に持って3~4回、「ぐしゃぐしゃ」音を立てながら軽く握ると、昼頃には冷めてちょうど良い固さになった。
炊きたてご飯は軟らかいから、力を入れて固く握ってしまうと、冷めた頃には、かっちんかっちんに固くなって、もそもそしたおにぎりになってしまう。
おにぎりを握る力加減は、慣れと練習が必要だ。
 
おにぎりは、不思議と握った人の個性が出る。
母の作ったおにぎり、祖母の作ったおにぎり、親戚のおばさんの作ったおにぎり、友だちのお母さんが作ったおにぎりは、全部、微妙に違った。
 
どこがどう違うのか? と聞かれても、母のおにぎりは、弱々しくて、祖母の作るおにぎりはゴツゴツした感じで、親戚のおばさんのおにぎりや友だちのお義母さんの作ったおにぎりは、よそよそしい感じがした。
 
手のひらのぬくもりが直接、ごはんに触れるから、知らず知らずのうちに、できたおにぎりに握った人の気持ちが入り込んでいるのかもしれない。
 
大人になって、おにぎりの話題になったとき、周りのみんなが、「おにぎりは、中に入っている具材で決まる」と言っているのに驚いたことがあった。
 
確かに、天ぷらやお肉などいろんな種類のおにぎりが出ていて、おにぎりを具材で選ぶ楽しさもある。
 
しかし、私は断然、塩と海苔だけのおにぎりにこだわる。
 
幼稚園のときに、食べたあのおにぎりの味をまた味わいたくて、いつもシンプルなおにぎりを選んでしまう。
 
お腹いっぱいになっても食べるのを止められないくらい美味しい、あのおにぎりに会いたくて探してしまう。
 
どうしても、あのおにぎりを食べたくなったら、田舎の空き家を買って「かまど」をこしらえ、羽釜を買って、ごはんを炊きたい。
 
お米はササニシキ、塩は天然のもの。海苔は磯の香りのするパリッパリのやつ。中身は何も入れない。
 
私は、若くして禁断のおにぎりの味を覚えてしまったのかもしれない。
 
いや、日本人だったら、忘れられないおにぎりの味、誰でも持っているはず。
 
おにぎり、この愛しい食べ物よ、永遠に。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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