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大川小学校の悲劇に学ぶ、ただひとつの守るべきもの


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:リサ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
案内は、橋の上から始まった。
 
「3.8キロ先が海、そこから津波が逆流して来たんです。」
 
石巻市、北上川。全長およそ500メートルの新北上大橋から海の方角をのぞむ。
津波が運ぶのは、水だけでない。ありとあらゆるものが一緒に流れてくる。
もっとも多く流れてきたのは、松の木。
海岸沿いの松原の、何万本が全部ぬけて、それがぶつかって橋にたまって流れをせきとめた。
限界までいって、あふれた。
陸を遡上してきた波が、ぶつかって渦をまいた。
そこに大川小学校はあった。
 
「いきましょうか」
 
佐藤敏郎さんは、当時小学6年生だった次女を亡くしている。
橋を渡り終えた道路の真ん中で立ち止まる。
 
「ここに、ランドセルが、一列に並べられていました。そうして、道の反対側には、泥だらけの子供達が、何十人も横たえられていたんです。私は、娘の名前を、何度も叫びました」
 
そこを凝視できなくなる。
数分と立たないうちに、校舎が見えてきた。
 
震災前は、まわりに町があったが、今は、広い空き地の真ん中に、ぽつんとたたずむ。
茶色くくすんだ外壁も、剥がれた壁も、あの日から、そのままだ。
手を合わせて、しばらく黙祷した。
 
石巻市の大川小学校は、東日本大震災の津波によって、108名のうち、74名もの尊い命が、奪われた。
地震発生から津波が襲うまでには、51分もの時間があった。
なぜ、子供達を助けることができなかったのか。
「大川伝承の会」の佐藤さんは、自らも、隣町の中学教師であったことから、危機意識のあり方を、防災の教訓として伝えていくため、あの日のことを語り続けている。
 
大川小学校の敷地の広さに驚いた。
都会の子供たちが夢にみるようなゆとりある運動場、円形の低学年校舎に、扇形の高学年校舎、多目的ホールに野外ホール、体育館までをつなげるガラス張りの渡り廊下、屋外ステージに、相撲の土俵。
 
もちろん、以前の姿はない。
しかし、ありし日の写真と見比べながら見渡すと、元気に走り回っている子供たちの声が聞こえてくるようだ。
 
何より驚いたことは、すぐ近くに、見上げるような小高い山があること。
近く、というより、隣りといってもいい距離だ。
 
「子供たちが、毎日のように登っていた山です。」
 
佐藤さんの後に続く。毎年、しいたけ栽培の体験学習をしていた場所だ。
学校の敷地から登り始めて、ものの数十秒。
根元に、青いテープが巻かれている樹に目がとまる。
 
「津波はここまで来たんです。この上なら助かりました」
 
改めて、学校側を振り返ってみる。なだらかな傾斜は、一年生でも、自分の足でしっかり登ってこられる距離だ。
 
「山に逃げよう、と言って、何人かは、ここまでのぼってきたそうです。しかし、
勝手なことしないで戻れ、と戻されています」
 
なぜ? という思いが強くなっていく。
50分もの間、校庭にただ待機していたというのか。
 
再び、学校へ。
校舎内の時計は、みな同じ時間、3時37分でとまっている。
 
午後2時46分 経験したことのない揺れが3分間、続く。
49分 すぐ山に逃げた子供たちもいたが、よび戻され、いったん整列することに。
52分  スクールバスが子供をいつでものせられるように待機。
00分 大津波警報発生
子供たちが「先生山に逃げよう」と訴える。子供たち泣いている。
25分 市の広報車が高台への避難を呼びかける。
32分 北上川のとなりの富士川があふれる。
36分 最後の1分。
 
最後の1分でようやく移動を開始するが、教員は、なぜか、山ではなく、川のほうへと引率する。
彼らは一列に並んで歩いた。
目の前の民家がバキバキと壊れ始めた。先頭の子は、あわてて引き返した。その子は、津波に打ち上げられて山の中腹へと飛ばされ助かった。(後の本人証言)
ほとんどの子供たちは、山に打ち付けられて遺体となった。
 
佐藤さんは言う。
 
「本当に恐ろしいのは、津波ではない。自分たちの心の中なんです」
 
ここまで来るはずがない。山だって崩れるかもしれない。うかつに登って子供にケガをさせられない。地の利のある教員の指示にしたがえばいい。
思い込みや忖度が「目の前の山に登る」ことをためらわせた。
ただ、山に登る。そんな簡単なことなのに、そんな簡単なことができなかった。
 
「先生たちはきっと、あの瞬間、子供たちを強く抱きしめたんじゃないかと思います。でも、それじゃあ助からない。どうすれば助かるのかを、普段から、どれだけ、自分の事にできるかです。私も、それまで教員として防災教育を行ってきましたが、自分の子どもをその中に入れていなかった。自分の事にできていなかったのです。」
 
生きる。
それこそが、私たちのもっともシンプルな存在理由だ。
生きるためにすべてがある。
そのために守らなければならないのは、何をおいても命なのだ。
 
当たり前に来ると思っている明日なんて、本当はない。あるのは、今この瞬間だけ。
常に、命を守ることを、自分の事として考えられているだろうか。
 
ハザードマップや、避難マニュアルを手にするだけでなく、その中に自分をいれているか。
信号待ちをしているとき、コロナ禍でさまざまな場所に出向くとき、なにげない休日を家で過ごしているとき、いざという時、「何よりもまず、命を守る」という意識をもてているだろうか。
 
大川小学校のできごとは、私たちにそれを問いかける。
どうか、丁寧に、命と向き合ってほしいと。
 
大川小学校には、子供たちが書いた壁画が、今もあの日のまま残されている。
真ん中には、「未来を拓く」という言葉が黒いペンキで書かれている。
それを囲むように、赤い校舎、緑の芝生、黄色い花々、そして、青一色の川、笑顔の子どもたちが壁画いっぱいに描かれている。
 
目を閉じると、それを感じる。
校庭の向こうから友達を呼ぶ大声、ふざけあって笑う声、体育館のバスケットボールの音、廊下に響く上履きのキュッキュッという音、チャイム、音楽室から聞こえる合唱……
あの日までは、確かにあったのだと。
 
震災から、まもなく10年。
あの日から、「未来をひらく場所」として、整備がつづいている。
 
 
 
 
***

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