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店は舞台。販売員が主役。お客様は脇役でいい理由。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:新田賢二(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
20年前、ショッピングモールの中でミセスをターゲットにしたブティックをやっている頃の話。オープンして3年目、売り上げも上がってきて販売員が足りなくなってきたので、求人広告を出すことにした。10人の応募があり、ひとりずつ順番に面接する時間がないので、5人ずつにまとめて面接をした。
 
第1グループは、どこにでも居そうな平凡な人たちばかりであった。どうしてこの求人に応募したのですか? と聞けば、洋服が好きだから、とか、人と話しているのが好きだから、とか、接客の仕事が好きだから、とか、まぁまぁよくある受け答えしかできない人たちであった。
 
誰もピンと来る人がいなかった。
 
でも第2グループは、頭から違った。
 
おい、お前、どこから来たんだ? と思わせるようなフリフリレースのブラウスと床を掃除しそうなほど裾が広がった超ロングスカート。みんなが振り返って二度見したくなるよう格好をした応募者が来たのだ。歩き方、立ち振る舞い、振りまく笑顔、どれをとっても、なんかちょっと普通の人とは違う雰囲気を持っていた。5人横並びの応募者の真ん中に彼女がどっかり座ると両脇の二人が霞んで見えた。
 
面接が始まると、さらに奇才が増す。経験はブティックで10年だが、その前は自営業で魚屋をやっていたということからか分からないが、とにかくよく喋る。ペラペラペラペラ早口で機関銃のように喋りまくる。普通面接でそんなに喋り捲ったら、逆に煙たがられて落とされてしまうかもしれないが彼女の喋りはそうではなかった。とにかく話が面白かったのだ。
 
当然ながら、左右二人の応募者は喋ることも出来ず、彼女の話に耳を傾けながら、時に大笑いし、時に大きく感心し、そのうちには「あなたこそこの仕事にぴったりだわ! オーナー! この人を採用すべきですよ! 私はこの方がいらっしゃるなら、この店に洋服を買いに行ってみたいわ!」と言わしめてしまう。
 
何だこりゃ? これが面接? 5人を面接していたはずなのに、4人が1人をグイグイ推す場へと変わってしまったのだ。
 
早川淑子 48歳 他の9人の応募者を足元にひざまずかせるほど圧倒的な差を見せつけて、採用を勝ち取った。
 
早川が店に立ち始めると、今までの店とは全然違う光景が始まる。
 
まず、格好。
 
それまでは、私の店では割と地味目な販売員しかおらず、あくまでも店の中ではお客様が主役で、お客様が目立つように販売員は地味な格好に徹し、遠慮しがちに佇むスタイルであったが、早川は違った。
 
早川は洋服が好きだった。そこにいる誰より洋服が好きだった。なんと早川は店に立つようになってから2年間、一度たりとも“同じ服”は着てこなかった。面接の日に着てきたようなフリフリの超可愛いレースの上下セットや、衿の形がアシンメトリーで超デザイン性のある服や、日本製にはないインポート独特の、普通なら顔が負けちゃって着られないような色使いの派手な柄物を着てきたり、まぁ実に忙しい。見ていて飽きない。だから、必然的にこうなる。近所のお店の従業員が、「早川さんは今日はどんな格好で出勤してくるのかしら?」と、早川の出勤日を覚え、見に来るようになったのだ。
 
そして、喋り。
 
まぁ本当によく喋る。朝から晩までペラペラペラペラよく喋る。あんた口から生まれてきたんでしょ?! とお客様に言われる始末。でも、ただのお喋りではない。その話が面白いのだ。機関銃のように喋くりまくられるのに、全然耳障りではなく、もっと早川の話を聞きたいと思えるぐらいに話が上手なのだ。早川が喋る度にドッと笑いが起こる、そんな具合だ。だから早川の周りはいつしか黒山の人だかりができるようになってきた。
 
そして、接客。
 
早川の接客は、他の人の接客とはまるで違った。よくどこの店でも見かける「いらっしゃいませぇ~、あ、それ素敵ですよねぇ、似合いますよ~」みたいな商品をただ勧めるみたいな接客は絶対にしなかった。商品を勧めるのではなく、お客様の悩みを聞き出し、それに対してどんな洋服をどんなふうに着こなせばその悩みをカバーできるか、提案できる力を持っていた。その知識に裏付けされた説得力のある提案にお客様は魅了され、いつしか洋服お悩み相談をしに来る人が列をなすようになっていったのである。
 
だから必然的に彼女はトップセールスを記録するようになる。毎月毎月その数字を塗り替えていった。(結局早川は60歳で定年退職する迄、ずっとトップセールスの座を譲ることはなかった)
 
奇抜な格好と最高の笑顔で喋るその姿は、まさに舞台で役を演じる主人公であった。
 
饒舌で機関銃のような喋りで黒山の人だかりを笑わせるその力は、まるで一流の漫才師のようであった。
 
そして、ウインドウショッピングでブラブラ歩いていた買う気のない人の心までをもグッと掴み、財布の紐を緩ませてしまうほど知識に裏付けされた話力は、誰も右に出る者はいなかった。
 
早川は言った。
 
「店は舞台だと思っています。私は主人公として最高の販売員を演じ切ります。オーナー、ココだけの話、私は家ではこんなに喋りませんし、トレーナーとジーパンのラフなおばちゃんなんですよ。でも、舞台に上がる時はガラリと自分を変えて演じるのです!」
 
早川は自信ありげにこう続けた。
 
「ココ(店)は私が主役、お客様は脇役。脇役に、「いつか私も主役を演じてみたい!」って思わせるほどの圧倒的なパワーで私は主役を演じます。お客様に洋服を売っているのではなく、お客様自身に「あの人みたいになりたい!」と思われるように、“私自身”を売っているのです。人は、なりたい! と思うものにお金を払いますからね」
 
昨今、お客様を主役に見立てる店が多いが、そうではない逆の手法に驚きを覚えた。
 
後にも先にも彼女のように圧倒的な主役を演じきれる販売員を私は見たことがない。
 
 
 
 
***
 
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