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当たり前の日常は誰かが作っていたという話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:新田賢二(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あぁ、またボールペンがない! なんで私が使おうと思った時にいつもないわけ? 使い終わったら戻しておいてよ!」
 
家族で夕食を食べ終わった後、妻が電話横のペン立てを見て、急に怒り出した。
もう鼻から怒り口調であった。ペン1本無いぐらいでどうしてそんなに怒るのか? と思うのだけれども、今はそれを言ってはいけない。
 
娘と私は、目を合わせて、言ってはいけない言葉を飲み込んだ。
 
しかし、妻の怒りは収まらない。
 
「いつもよ。いつもここのペンが無くなるの。しかも、無くなったから、それじゃ困ると思って、私が買ってきてそこに挿したら、すぐにまた無くなるの! いったい誰なの? なんですぐ無くなるの? あのペンだって、つい2,3日前にここに出したばっかりなのに!」
 
娘が言った。
「あ、そこのペンなら、今私が使ってるよ。ほら、そっちの机の上にあるでしょ」
 
娘が指差した方に目をやると、確かにリビングの机の上に、そのボールペンが転がっていた。
私は、あぁ、あって良かった……と心の中で思い、胸を撫で下ろした。
 
だって、妻はしょっちゅう「私のお気に入りのペンがない!」と怒っていて、ペンが見つかるまでその不機嫌モードは収まらないからだ。
 
こっちだって、仕事から帰ってきたばかりで、家に着いて夕食を食べて、ホッと一息ついているところなのに、横でプンプンされてちゃ、倍疲れるもんね。
 
だから、ペンがすぐ目の前にあったことで、話が終わると思って内心喜んだのだ。
 
が、話はそう簡単には終わらなかった。
 
娘が言い放ったその言葉に妻の怒りがさらに爆発する!
「だーかーらー! ここのペンを使うなって言ってるんじゃないの! 使ったら元あった場所へ戻しなさいって言ってるだけでしょ! どうしてそんな簡単なことができないのよ!」
 
確かに簡単なことだ。しかし、その同じことを君は何年言い続けているのだろう?
単純に、不思議だな、と思う。
 
こういう時に、男は言ってはいけない提案をしてしまう。
妻の逆鱗に触れると気づかずに……
 
私「あのさ、こうしないか? 僕らはもうそこのペンは絶対に使わない。というか、ペンはみんな自分で用意して、自分のペンしか使わないようにすれば、お互いにそんなに苛々することもなくなると思うんだけど、どうかな?」
 
自分では名案だと思ったが、妻の顔色がみるみる変わったのが分かった。
 
そしてそこから話の流れが明らかに変わった。
「明日は何のゴミの日か知ってる? 週に何回掃除機掛けてるか知ってる? トイレが汚れたらトイレ掃除してる? 誰がしてる? 風呂だってそう。この前あなたは「風呂のお湯抜いといたよ」って言ってたけど、私ならお湯抜くタイミングで一緒に湯船の掃除もするけどね、あなたはしないでしょ? 毎朝仕事行く前に洗濯して、干して、帰ってきたらそれを畳んでそれぞれのタンスにしまって。どんなに仕事が遅くなろうと疲れてようと、私はみんながこの家でホッと一息できるような空間づくりを一生懸命やってるの! 家帰ってきたら毎日晩御飯があるのを“当たり前”だと思っているでしょ?! でも、それは当たり前なんかじゃないの! 私が全部やってるの! そこにボールペンがあることも当たり前じゃないの! 私が用意してるの!」
 
確かにそうかもしれない。
でも、私の頭の中でも何かの糸が切れた。
 
「じゃぁ、お前仕事辞めろよ。そんなに仕事と家事の両立が大変だと言うなら、仕事辞めるか扶養内の仕事量に戻せばいいじゃん。自ら扶養外すほど頑張りたいと仕事量増やしたくせに、結局家庭のこと出来なくて苛々するなら意味ないじゃん。俺だって朝起きて自分の朝飯と昼の弁当は毎日作って出ていくよ。俺が仕事行くとき、お前ら寝てるしな。でもそのことで俺は君らを責める気はないけどね」
 
言ってしまった。それは明らかに間違った反論だった。少なくともこのタイミングでは言ってはいけない反論だった。男として一番みっともないちっちゃな言い分だった。
 
「あたしが仕事辞めたら生活できないでしょ!」
 
「なんだとこの野郎! 俺の稼ぎだけじゃ生活できないって言ってんのか?!」
 
もう、収拾のつかない状態まで行ってしまう。ココでちゃぶ台をひっくり返す昭和の夫婦喧嘩のようだ。
 
娘は自室へ行ってしまった。
 
売り言葉に買い言葉。普段心の中で思っていた小さなわだかまりが言葉になって噴火した。
お互いにそれ以上口をきかず、その状態のまま寝床に入り、朝を迎える。
 
私は仕事の支度を終えた後、一段落した時にふと思う。
 
「今日は何のゴミの日なんだろう?」
 
キッチンのゴミカレンダーを見ると、今日は「びん・かん・ペットボトル」の日であった。すぐさまそれらをまとめて、近所のごみ集積場まで捨てに行く。
 
こんな小さなことぐらい自分だって出来たはずなのに、鼻っからやる気もなく、すべて妻に任せっきりだったくせに、あの時、どうして妻の気持ちを受け止めてあげられなかったのだろうか。
 
ボールペンがない! と怒りだしたのはただのきっかけに過ぎなかったのだろう。
家事のほとんどを黙々とこなしているのを僕らが「当たり前かのように」扱ってしまう態度に、彼女は腹が立ったのだろう。それこそ腹が立って当たり前だ。
 
出勤前に妻に手紙を書いた。
「昨日は早く寝たにも関わらずあんな毒を吐いた後の目覚めは気持ち良いものではなかったです。昨日はあなたを傷付けるような事を言ってしまってゴメンなさい。
 
ボールペンの事がきっかけで大切なことに気づかされました。
 
家は学校や仕事を終え帰って来てホッとする場ではあるけれど、そこでもやるべき事はあるよね。当たり前の日常は、実はあるのが当たり前じゃなく、誰かがその当たり前の状態を作っているのだっていう当たり前のことを忘れちゃいけない。
 
というか、当たり前の日常は、みんなで作っていくものだよね。
今朝はびんかんのごみ捨てやっておきました」と。
 
家庭はみんなで作るモノだろう。
日常生活は、あって当たり前ではなくみんなで作り上げていくものだろう。
これからは、そんな当たり前のことを自分も担っていこうと思った。
 
あと、余談だけど、言ってはいけないアホな提案はしないこと。きっとあの言葉を言わなければこんな展開にはならなかったはず。お互いにもっと気持ちよく大切なことに気づかされただけで終わった話だったであろう。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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