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医師でなくても救える命がある


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:古田綾子(ライディング・ゼミ平日コース)
 
 
球場で野球を見ていると、2列前に座っていたおじいさん2人が騒がしい。一人のおじいさんがもう一人の頬を叩いている。
『何? ケンカ?』
そう思って見ていたが、どうも様子が違う。そのうちに周りの観客がざわめき始めた。
 
頬を叩かれていたおじいさんは、突然意識を失ってしまったようだ。顔色は青紫色がかっている。もう一人のおじいさんが、意識を取り戻そうと頬を叩く。
「おいっ。おいっ」
バシッ。バシッ。
 
すぐに隣に座っていた男性が警備員を呼びに走った。
「大丈夫ですか?」
駆け寄った警備員が尋ねると、頬を叩いていたおじいさんは声を荒げた。
「大丈夫じゃないよ!」
すぐに救急車が手配された。
 
目の前で人が死にかけている。
こんな時、どうすればいいんだろう。早く救急車が来て欲しい。
 
その時、後ろの方の席から一人の女性がさっそうとおじいさんに駆け寄った。
慣れた手つきで脈をとる。
「男の人たちでこの人をあの通路まで降ろしなさい」
その指示を聞いた男性4人がおじいさんを通路まで降ろした。
 
女性はおじいさんの横に膝をつき、心臓マッサージを始める。1, 2, 3, 4, 5, 6……
胸を30回押し、おじいさんの様子をうかがう。動かない。
もう一度、胸を押す。1, 2, 3, 4……
もうすぐ30回というところで、おじいさんのまぶたが動いた。
 
おじいさんは意識を取り戻したようだ。
自力で呼吸を始め、女性と言葉を交わしている。顔には赤みがさし始めた。
そばで心配そうに見守っていたもう一人のおじいさんは、女性にしきりに頭を下げた。
それからすぐに救急隊員が到着し、おじいさんは大事を取って病院に運ばれた。
 
きびきびとした行動。的確な指示。鮮やかな蘇生。すべてが完璧だった。
その日から数日間、彼女の救命シーンを思い出しては興奮し感動に浸った。
 
しばらくすると、もう少し冷静にあの日を振り返ることができるようになった。
確かにすごかったし、感動した。
でも、それだけで終わらせていいのだろうか?
もしも意識を失ったのが自分の家族だったら?
そう想像した途端、何か行動を起こさなくてはいけないという強い思いにかられた。
 
心臓マッサージは誰でも習得できるのだろうか。できれば実際に体験して学びたい。
調べてみると、消防署で救命講習が受けられることがわかった。
 
当日は10人の人が講習に来ていた。
受講者はペアを組み、心臓マッサージと人工呼吸を分担する。
 
私は最初に心臓マッサージの担当になった。
両手を重ねてみぞおちの上に置く。手の真上に肩がくるぐらいおおいかぶさり、肘を伸ばして体重を乗せ、胸を5センチほど押し下げる。
5センチの感覚をつかむのは難しかったが、人形の胸をうまく押し下げられるとカチッと音がしたので、それを目安に力加減を調整した。
 
テンポは1分間に100回。「もしもしかめよ」で始まる童謡「うさぎとかめ」のテンポが目安という。30回の心臓マッサージが終わると、パートナーが人工呼吸を2回行う。このサイクルを2回繰り返した。
 
心臓マッサージはなかなか力の要る作業だった。腕だけで押すのではなく体全体を使うので、これだけでかなり疲れる。
 
次は担当を交代して人工呼吸の練習をする。
人形の首を後ろに倒し、気道を確保する。人形の鼻をつまんで息を吹き込んだが、胸が膨らまない。どこかから空気が漏れているのか、吹き込む量が足りないのか?
「もう少し首を後ろに倒してください」
アドバイスをもらい3回目にようやく人形の胸が膨らんだ。
 
最後にAEDの使い方を体験した。
AEDはふたを開けると自動で電源が入り、音声ガイドが始まる。その指示に従って行動すればいい。
「上半身の衣服を脱がせてください」
「図の通りにパッドを貼ります」
「点滅するボタンを押してください」
 
意外と簡単。
それが初めてAEDを使ってみた感想だった。
一方で、心臓マッサージはすぐに習得というわけにはいかなそうだ。圧迫する位置や力加減、テンポなどを正しく行う必要があるからだ。
 
それでも、AEDだけで救命処置が完了するわけではない。心臓マッサージは不可欠だ。繰り返し復習して習得する必要があるだろう。
 
定期的に講習に参加できないときは、YouTubeなどの動画を見て手順を確認する。目の前に倒れている人を見つけたらどうするかを一度考えておくことも役立つだろう。よく行く場所のどこにAEDが設置されているのかを確認しておけば、いざという時に慌てなくて済む。
 
あの時、早く救急車が来て欲しいと願うことしかできなかった。
今、あの時に戻ったとしたら、何ができるだろうか。
 
119番に通報したり、AEDを取りに行ったりすることはできるだろう。球場のAED設置場所は把握している。
心臓マッサージの大変さを知っているから、あの女性が疲れた様子を見せたら「交代します」と申し出ることもできるだろう。
 
心臓が止まってから1分ごとに生存の確率は10%ずつ減っていく。救急車の平均到着時間は6分。何もせずに救急車を待っていたら、生存確率は40%になってしまう。
「倒れた人の命を救える可能性が一番高いのは、医師でも救急隊員でもなく、その場に居合わせた人だ」
命を救うという大役に足がすくんでしまいそうなときは、この言葉を思い出し、勇気をもって一歩を踏み出そうと思う。
 
 
 
 
***

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2021-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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