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駐輪場大戦争


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ann(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
やられた。
ついにやられた。
 
このマンションに、引っ越してきて半年近くが経つ。
いつかこの日がくると、覚悟していたが、それが今日とは。
 
自宅の自転車置き場の定位置が取られているのである。
 
私のマンションは、駅まで15分近く離れているので自転車は欠かせない移動手段だ。
 
また、自転車置き場は申請こそ必要だが、場所に関しては空いていればどこでも置いてよい。自由なのである。
 
しかし、その自由だからこそ生まれる戦いがそこにはあった。
 
世の中の、駐輪場には様々なスタイルがあると思うが、我が家の駐輪場は前輪が上下互い違いの段差をつけることで小スペースながらも、多くの台数を止められるように工夫されている。
 
同じようなシステムの駐輪場をお使いの方は、分かっていただけるだろうか。
 
前輪が上下互い違いになっているスタイルの場合、圧倒的に前輪が上に位置している場所が不利になるのである。
 
なぜなら、まず前輪を上にするには、車体を持ち上げなくてはいけないのである。
下の段であれば、そのまま自転車を押せば前輪がハマる。
しかし、上の段はハンドルをもって前輪自体を持ち上げる作業が発生する。
 
そんな大袈裟なと皆様思うかもしれないが、想像してほしい。
毎朝・毎晩、約10㎏近くある自転車を持ち上げる疎ましさを。
気分が良い日はいいだろう。ちょっとした筋トレと思える。
 
しかし、どうだろうか。上司に怒られ、仕事で失敗をし、もう死にたいと思うような絶望感に苛まれた帰路の最後に
 
「さぁ、今からもうひと頑張り。そこの10㎏を持ち上げてください」と言われたら、たまったものではない。
その場ですぐに、自転車をぶん投げて憎き上司の顔を思い出しながら自転車をボコボコにしたい欲を抑えるのが精いっぱいである。
 
私は、引っ越してきてからずっと、この前輪が下の段に位置している、入口から5台目の定位置を守り続けたのである。
しかし、職場から自宅へ戻ってきたある日、いつもの場所に見ず知らずの目新しい自転車がでーーーんと止まっていたのである。
 
見た感じ購入して間もない新品のようだ。
私は、出来れば避けて通りたかったこの戦いが始まったことを悟ったのである。
 
この下の段の、最大のイライラポイントは、もう一つある。
二輪という乗り物の前輪を宙に浮かせているのに、あまりに固定力に乏しいという事である。
 
私の自転車は、ロードバイクのように、スタンドが片方にしかついていないタイプのものだ。そのため、通常止める時は、車体の重力を片方に寄せて止める。
 
しかし、上の段は車体の重力を中心に置くことを前提に作られているので、まずこのスタンドが地面に届かずに機能しない。
しかし、多少なりとも車体が左右にグラつく余白があるため、隣の自転車に自分の自転車のサドルがぶつかり、場所が悪いと変に絡まる。
自分がイライラするのも嫌だが、隣の自転車の人に「ちっ、こいつなんだよ。隣に止めてくるなよ」と思われるのも癪である。
 
この日から、陣地の取り合い、早い者勝ち、弱肉強食の戦いが始まったのである。
 
敵は一人ではない、誰でもいい、とにかく下の段の場所を空けさせ、相手の隙をついて駐輪してしまえば、勝ちである。
 
まずは、とにかく敵が自転車を使っている隙を狙う必要がある。
見ている感じ、7割くらいはママチャリである。
単純に考えて、子供の送り向かえの時間帯での利用が見込まれるが、その時間に私は仕事から帰って来られない。
 
ターゲットは、残りの3割に絞ることにしよう。
しかし、利用用途が不明確な分、毎日通勤で使っているのか、たまに使うのか、利用リズムが読めない。
 
まずは、仮に自分と同じように通勤で利用している人がいた場合、その人よりも早く帰ってくればいい。そのため、帰宅時間を早める作戦に出た。
 
帰宅時間をコントロールするのは至難の業であった。
とにかく仕事を計画的にこなす為、朝のメールチェック、そしてその日のTODOリストを作り、帰宅目標時間を設定した。
お昼のタイミングも計画性を持たなければいけない。
 
努力の結果、いつもより2時間帰宅を早められることが出来た。
仕事ってこんなにも早く終わるの?と驚きを隠せなかったが、私の真の目的はそこではない。
 
駐輪場の奪還である。
 
そそくさと帰宅したが、その日も下の段は“満車”であった。
奇しくも、上の段はガラガラで1台も埋まっていない。
敗者の席と云わんばかりに空いている。
 
私は10㎏の車体を、歯を食いしばりながら持ち上げてその日の戦いは幕を閉じた。
 
その日から3日間、早期退社作戦を実行したが、一向に敵陣は隙を見せない。
 
このままでは埒が明かない。
よほど、勝手に知らない人の自転車を勝手に動かしてしまおうかと思ったが、それではフェアではない。
 
あくまで、フェアな戦いにこだわった。
 
同じマンションの住人であるが顔の見えない敵との戦いは長期戦になる。
 
まずは、自分の精神力を持続させるために、今度は自転車を使わず徒歩通勤に切り替えた。
 
元も子もないと思うかもしれないが、毎晩、敗者の10㎏を持ち上げて悔しい想いをするくらいならば、いっそのことその作業を辞めてしまえばいい。
 
私はハイエナのごとく、遠くから静かに見張り、下の段が空く時を待った。
 
そんなある日、ごみ捨てに外に出たついでに駐輪場を偵察に言ったら、なんと下の段が1個空いているではないか!
 
私は、小走りに、しかし何故か最小限に物音を抑え、まるで忍者の如く速やかに自転車を移動させた。
その手捌きは華麗なものであったと自負するほど素早かった。
 
なんとも晴れ晴れしい気分で自宅に戻ったが、今度は、あの場所を元々使っていた人のことが気になり始めた。
 
どんな自転車だったか覚えていないが、このマンションに同じく住んでいる人の定位置を奪ったのである。
 
きっとその人は、今日から私のような奪還戦が始まるだろう。
 
そう考えると、なんだか心苦しくなってきた。
 
戦争って、きっとこんな風に始まるのかな。
であれば、今まで歴史がそうしてきたように、二度と戦争が起こらないような平和条約を作る必要があるな。
 
私は、マンションの管理人に、駐輪場の利用者には利用位置の固定化の規則を定め、厳正かつ公正な抽選による、定めをお願いした。
 
現在検討中とのことだが、一日でも早く、このマンションの住人が駐輪場で激しい戦いを行わなくてもいい日が来るように。
そう願いを込めて、今日も私は下の段に自転車を止めた。
 
 
 
 
***

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2021-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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