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メディアグランプリ

ゴミ箱から顔を出したら、そこには魔法使いがいた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鶴岡靖子(ライティングゼミ・木曜コース)
 
「こんにちは! ディズニーランドへ、ようこそ! いってらっしゃい!」
 

今からおよそ20年前。私は「カストーディアル」と呼ばれる掃除をするキャストとしてディズニーランドで働いていた。
 

私は昔ディズニーランドが大好きだった。あの現実離れした夢の世界の雰囲気が、どんな時でも、どんな辛いことがあっても、幸せな気持ちにしてくれるからだ。
 

大の大人が、ネズミの耳や大きなリボンのついた帽子をかぶっていても、変な形の眼鏡をかけて顔に落書きをしていても、全身おそろいの服で、手をつないで歩いていたとしても、誰からも変な目で見られたり笑われたりすることがない場所は、他にそうそうない。
 

空に花火が打ちあがり、絵本から抜け出てきたような王子様や人間とは思えない顔立ちのきれいなお姫様が現れ、ミッキーやドナルドたちと一緒に歌ったり踊ったりして楽しませてくれる。ディズニーランドでは、楽しもうと努力する必要すらない。あの手この手で、勝手に楽しませてくれる。そしていつのまにか幸せな気持ちになっているのだ。さすが、夢と魔法の王国である。
 

そんな夢の国で、バイトを始めて少し経った頃。そう、あれは、クリスマスがやってくる少し前。私は、人生で一番大きな失恋をした。何もこんなときに……と思ったが、仕方なかった。その辛さを忘れるために、私はバイトに明け暮れることに決めた。とにかく、余計なことを考えずに済むように、入れられるだけのシフトを入れ、クリスマスムード満載のディズニーランドへほぼ毎日通い詰めることにした。夢と魔法の王国にいれば、辛い現実も、悲しい気持ちも、魔法が全て忘れさせてくれるはずなのだ。
 

しかし、クリスマスシーズンが始まってすぐ、それは後悔に変わった。どうして、気が付かなかったのだろう……。少し考えれば気づいたはずだ。クリスマスのディズニーランドに来るのは、ラブラブなカップルばかりだ、ということに。案の定、掃除をしていると、おそろいの服に身を包み、耳付き帽子をかぶって、ハートマークをまき散らしたカップルが
「すいませーん、写真撮ってもらえますか?」
と声をかけてきた。もちろん、そこで嫌な顔をしてはならない。笑顔でカメラを受け取り、できるだけ明るい声で
「はーい! 撮りますよ! 最高の笑顔でお願いします! はい、ミッキー!」
とシャッターを押す。そしてカメラを返し「いってらっしゃーい!」と手を振って見送る。
 

ご存じだろうか。一組カメラを受け取ると、それに気づいた周りのカップルが押し寄せ、気が付けば、シャッター待ちの「幸せな人たちの行列」ができるのだ。初めのうちは辛くて仕方なかった。失恋したばかりの私がごみ箱に頭を突っ込んで、中を拭いているのに……乗り物に酔った子どもの嘔吐物を、必死に片付けているのに……「シャッターを押してくれませんか」とにやけ顔で頼んでくる男の気が知れないと思った。
 

(よく見ろ! 今私は掃除をしているんだよ! わかるか? どうしてゴミ箱に頭を突っ込んで掃除している人にシャッターを頼めるんだ? 君の目は節穴か? この嘔吐物が見えないのか? どうせ、彼女しか見えてないとかいうんだろう! いいか、私はなあ、失恋したばかりなんだよ!)
 

……もちろん、カップルの皆さんは、そんなこと知っているはずない。八つ当たりに近い苛立ちを悟られぬように、必死で作り笑いをしながら、必要以上に明るく声をかけ、シャッターを押し続けた。皮肉なことに、そんな空元気な私の大声を聞きつけ、気がつけば周りにはカップルがわんさと押し寄せ、
「これ、何のアトラクションですか?」
という声が聞こえるくらいの列ができた。
 

不思議なもので、人間は限界を超えると笑うしかなくなるものらしい。いつしか私の笑顔は作り笑いではなくなっていた。クリスマス本番を迎えるころ、私は
「いいだろう! こうなったら、園内のカップル、全員私の所に来るがいい! 全員、私が最高の思い出に残る写真を撮ってやろうじゃないか!」
と、変なやる気に満ち溢れていた。そして、頼まれてもいないのに、カメラを持っているカップルを見つけると「撮りましょうか?」と自分から声をかけて、シャッターを押すようになった。「ありがとうございます」と、いろんな人に笑顔で言われるのは、気分がよかった。まるで自分が魔法使いになったようないい気分だった。
 

……いや、まてよ。ちがう、そうじゃない。カップルたちの笑顔によって救われていたのは私の方だ。ああ、そうか。そういうことか。ようやくわかった。この国の魔法の正体は「笑顔」だったのだ。
 

クリスマスが終わるころ。私は、嬉々としてシャッターを押していた。カメラの向こうの「魔法使い」たちが笑顔になるたびに、私は魔法をかけられ、気づけば辛かった失恋のことなど、すっかりわすれていた。さすが、夢と魔法の王国、である。私が期待していた通りの結果になった。
 

ただ一つ誤算だったのは……魔法の正体が「笑顔」であることを知ってしまった私は、あの国に行かなくても幸せになることができるようになってしまった、ということである。今やすっかり幸せな私は、毎日笑顔で過ごし、そして笑顔に囲まれて、あんなに好きだったディズニーランドからすっかり足が遠のいてしまった。
 

そうだ、今度、久しぶりに行ってみるかな。最強の「魔法使い」として。
***

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2018-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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