メディアグランプリ

「伝えたこと」と「伝わったこと」はイコールではない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:綿貫晶子(ライティング・ゼミ平日コース)

「あれはもったいないな、と感じました。」キーを叩く手が止まらない。「内容ではなくて伝え方のことです。掲示されたグラフや社長の説明に、理解できない・納得がいかない点があることをお伝えするのは全く問題ないと思います。ただ、その伝え方として、あのように声を荒らげる必要はなかったのではないでしょうか。あれでは、説明を求めている・質問をしている、というよりも、突っかかっている、という風に感じました。もったいないと思ったんです。あの伝え方(声を荒らげる、相手が話している最中に被せて話を始める等)では、どんなに建設的なことを言っていても、相手の耳と心のシャッターを閉じてしまいます。」

関わる全員が在宅で業務する組織。スタッフの日常のコミュニケーションの手段はメールかチャット。ミーティングもオンラインで、モニター越しに行う。直接顔を合わせることは、年に1度あるかないかだ。その日、その組織の社長が今後の方針などを説明するオンライン会議があった。20数名のスタッフが、オンライン会議室に集まる。私は進行役として出席していた。会議の最中、共有されたグラフやそれに関する社長の説明に納得できなかった彼は、社長に向かって吼え続けた。納得がいかない、理解できない、こうするべきだ、と。社長の話を遮って、声を荒らげて。彼と社長のやりとりは、全員が聞いている。内容はさておき、その伝え方に問題があると感じたのは私だけではなかった。その組織のナンバー2も同じように感じていた。そしてナンバー2から私宛に「大人数のなかであのような突っかかりは周りがどう見ているかをちょっと考えられるようになるとよいですが。綿貫さんから、気づきとアドバイスということで伝えてあげてください」というメッセージがきた。40を過ぎた大人の男に、会議中の上司に対する物の伝え方を説くなんて、大きなお世話だったのかもしれない。でもその組織との関わり上、それを彼に伝えるのは私しかいなかった。

彼から返事が来た。
「チームのミーティングで、譲れない部分、誤解をときたい部分、理解してほしい部分について、声を荒げてでも熱く伝えあうのが最近あたりまえのかんじになっていました。熱意ではなく楯突いているように見えるなら、全体会議のときはやめます」

「ん?」これ、ちょっと違う。楯突いているように見えるならやめます、ではない。物の伝え方として、裏返るほど声を荒らげたり、相手の話を聞かずにただただ持論を押し付けたりするのでは、どんなにイイコト言っても相手に話を聞いてもらえないよ、あれはもったいないよ、と伝えたかったのだけれど……。まぁ、いいや。あんな荒いやりとりが今後の全体会議の場で出なくなるなら。

翌日は、毎週定例のオンラインミーティングの日だった。9時半に、前日の会議に参加していたスタッフがまたオンライン会議室に揃った。彼が言った。「昨日の会議での社長とのやりとりなんですが。綿貫さんから指摘があったんですけど、あれは楯突いたわけじゃなくて、熱意の表れでした」と。

えええ~っ?! その言い方では、私が彼に「楯突くなと言った」ということになってしまうではないか! びっくりした。「いやいや、私が伝えたのはそういうことじゃなくて……」と説明しようかと思った。けれど、誤解のないようにと文字にして伝えたことが、こちらの意図通りに伝わらなかった、ということは、言葉でどう伝えても彼には伝わらないな、と感じた私は、何も言わなかった。

「伝えたこと」と「伝わったこと」はイコールではない。

コーチングやコミュニケーション研修の場で、よく使うフレーズだ。「Aという意図をもって伝えても、受け取った相手がBと受け止めたのなら、伝わったのはBということ。つまり伝えたことがそのまま伝わったことになるとは限らないのです。伝わったことが伝えたことになるのです。だから、自分の発言が、自分の意図通りに伝わったかどうか確認することはとても大事なのです」

「まぁ、いいや」で済ませてはいけなかった。他人には偉そうにコミュニケーションのなんたるかを説いているのに、自分ではちゃんと出来ていなかった。そこをおろそかにしたせいで、「熱意を持って自分の意見を伝えた彼に、楯突くなと言った人」になってしまった。

どう伝えればよかったんだろう。あれ以外に書きようがあっただろうか。「楯突くなと言った人」になってしまったその日、私はモンモンと考え続けていた。

午後になって、その組織の一人がメッセージをくれた。「綿貫さんが彼に言ったのって、楯突くな、とかそういうことじゃないですよね。私も、昨日の彼と社長のやりとり聞いてて、もう少し落ち着いて、社長が何を言おうとしているのか聞いてから発言すればいいのに、って思ってました」

あれ?もしかして、私が言いたかったこと、ちゃんと伝わってる?? 朝からモンモンとしていた私は、メッセージをくれた彼女に、事の顛末を伝えた。
「大丈夫です。わかっている人はちゃんとわかっています。綿貫さんが言わんとしていること、ちゃんと伝わってますよ」

よかった。直接伝えたわけではなくても、私の意図を汲んでくれている人がちゃんといる!

人の解釈は色々。こちらの意図通りに伝わる場合もあるし、そうでない場合もある。伝わっていないな、と感じたときに、「まぁ、いいや」で済ませてはいけない。理解してもらうことをあきらめてはいけない。伝わったことが伝えたことになってしまうのだから。
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/70172

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-03-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事