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メディアグランプリ

盗み聞き女、おせっかいを焼く



*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【6月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:名古屋ゆき(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
いい趣味とは言えないけど、よく周囲の会話を聞いてしまう。なんとなく耳に入って来るうちに、だんだん「おや?」という話題に出会うこともある。イケてない趣味だなとアタマではわかってるんだけど、ついスパイのように耳を傾ける。
 
新宿や池袋などターミナル駅周辺のレトロな喫茶店では、ネットワークビジネスやら宗教の勧誘、怪しげなデート商法に遭遇する確率も高い。
 
その日も友人との待ち合わせまで1時間もあったので、初めて入ったお店で本を読みながら時間を潰していた。ウッディーな内装と、スッキリしたインテリア。レトロというよりは都会らしさが漂う新宿三丁目界隈のカフェだった。
 
隣の席には70代ぐらいのおばあさんと、えらく元気の良いスーツの20代ぐらいの男性がいた。彼はこの老齢の女性を「おばあちゃん」と呼ぶ。
 
「あぁ、東京で働いている孫に会いに来たのかな。」と思ったのも束の間、おばあちゃんは何度もうつむきながら、敬語で返事をしている。孫に敬語? 無くは無いだろうけど……違和感がある。
 
「でね、おばあちゃん、やっぱりこの先一人じゃ不安じゃない? もうおじいちゃん亡くなって何年か経っちゃったけど、貯金と年金だけでやってるわけでしょう? 結構ギリギリじゃない?」
 
「そうですねぇ……まぁ、私ひとり暮らす分だから、なんとかなってはいるんだけど……」
 
「でも?」
 
「あの、娘や孫には迷惑を掛けられないとは思ってるんですよ。孫もやっぱり可愛いし。余計に迷惑を掛けたくはないんです」
 
「そうだよねー。それでさっきの話に戻るんだけどさ、今ある貯金をちゃんと活用して、この先に備えておけば、娘さんも安心だし、お孫さんにも色んなことしてあげられると思うんですよ」
 
貯金? 活用? いきなり胡散臭くなってきたぞ!!
 
「今の貯金が7,000万だっけ?」と言いながら、彼は計算機を取り出し、はじき出したものをシステム手帳に書き示している。
 
「これね、今この7,000万で、年間250万から400万ぐらいの収益になるの。収益ってわかる? 儲けね、儲け。これ翌年になると50万ずつ上がっていくの。最初の年は、ちょっと市場にもよるからまだ具体的には言いにくいんだけど、年間250万でも、結構大きいでしょ?」
 
彼は、手帳に書いた2軸のグラフに右肩上がりの曲線を描きながら、熱心に何度も線を引いている。いや、貯金の7,000万まるごといきなり投資? 反応を見る限りおばあちゃんに投資経験は無さそうで。これが本当に真っ当な投資なら、充分に検討時間を与えるはずだけど。
 
「うーん、今僕が説明しても、ちょっと伝わりにくかったかなぁ」
 
「はぁ、すみません、私ちょっともう、こんなもので察しが悪くて」
 
「大丈夫大丈夫! 僕もまだ説明が上手くないんだよねー。あ、ちょっと待ってね」
 
おもむろに携帯を耳に当てる。
 
「お疲れ様ですどうも! はい! 今ですか? 新宿で先日のAさんと話しをしていたところです」
 
そう言いながら、階下へ姿を消していく。取り残されたおばあちゃんは、手元のプリントを眺めながら、どうみても不安そうな顔をしている。内容を見たいが、身を乗り出さないと見えない。どうしたもんだ。そしてすぐに彼は戻ってきた。
 
「すいません、先輩が。あ、僕がこの仕事をするようになったすごい人なんですけど、ちょうど近所にいるって話で。僕、今の説明うまくなかったじゃないですか。だから、先輩からちゃんと説明をしてもらおうと思って。」
 
「はぁ」
 
「だから、もうちょっと待ってて下さいね。本当に先輩、めっちゃすごい人で、セミナーとかバンバンやってていつも満員なんすよ! あ、ちょっとだけ僕からも説明続けますね」
出たぞ2人目。黒い雰囲気が増すばかり。
 
「先輩にも先にちゃんと言っとけって怒られたんすけど、このキャンペーン、実は申込締切が今月末までなんすよ。あと1週間弱ってとこで」
おばあちゃんの手にあるプリントには強く握ったシワが寄りはじめている。
 
「さっき先輩に確認したら、もう他の人が決めちゃったって。あと1人しか申し込めないらしいんですよ。やっぱりさ、年金以外に1年に250万入るってなったら大きいじゃないですか。しかも確実になんですよ! 下がんないし!」
 
すっごい勢いで畳み掛けてくる。いやいやいや、こんなにゴリ押ししたらさすがに引くでしょう! と思いきや。なんとおばあちゃんには響いてしまった!
 
「えっ、あと1人!?」
 
彼の目がパッと大きくなった。更に畳み掛ける気だ。
 
「そうなんです! あと1人! ねーもう急いだ方がいいんですってー」
 
「そうはいってもねぇ。相談できる相手もいないから心配で」
 
「心配だよねー、だからね、クーリングオフ制度もあるし、今日申し込み書くだけ書いちゃって、それからお友達とかに相談してみたらどうすか? 印鑑はあとで正式にってことで、サインで良いんで。あ、すみません、先輩から電話なんで、ちょっと出てきますね」
 
そういって彼は席を立った。だめだ、クロージングに入られてる。先輩が来たら2対1で分が悪すぎる。隣で聞き耳を立てていただけなのに、手が冷えるほどドキドキしていた。明らかにカモられようとしているのはわかってる。
 
ドキドキしながら、彼が階段を降りている間、本に挟んでいたカフェのレシート裏に「サギの手口です、気をつけて」と走り書きをして隣に差し出した。
 
ハッとした表情で「やっぱり?」と小声でささやくおばあちゃん。
 
「ご親族とか、お話できる方に必ず相談して下さい。こんな高額のお話で、すぐに申し込みだけでもって、絶対怪しいです」そう小声でまくしたてたところで、さっきの彼と、先輩らしきウシジマくん似の男が視界に入ってきた。
 
明らかに私を睨んでくる2人。
 
ウシジマくん似は「何かぁ?」と語尾を上げながら、笑顔を作るでもなく私に圧を掛けてくる。私は念のため手に握っていた鍵を見せた。
 
「こちらの方の足元にあったので、落とされたのかなと。でもちがったみたいで」
震えてたかもしれないが、笑顔を貼り付けて私も応戦した。空いたドリンクを片付け、そそくさと荷物をまとめる。
 
席につこうとテーブルを寄せている彼らの背後から「鍵、交番に届けちゃいますね! ごゆっくりどうぞ」と、おばあちゃんにだけ見えるように目を合わせ「ダメですよ!」と念をこめて首を横に振って店を後にした。
 
すぐ近くの交番でこの話をすると「こういうの、介入難しいんですよね」という残念な回答。ハラハラした気持ちは収まらないまま新宿駅へ向かった。既に待ち合わせは10分過ぎ。友達に詫びの連絡をいれながら、どうかおばあちゃんが契約していないことを願っていた。
 
 
 
 
***
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2019-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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