メディアグランプリ

消えた花からのメッセージ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中野ヤスイチ(ライティング・ゼミ日曜日コース)
 
 
「歩いていると綺麗な花が道の隙間から咲いていたりするよね!?」
と僕は、妻と子供と3人で歩いている時に時々話をしていた……。
 
僕はサラリーマンである。
約1年前までは、毎日、車を使って通勤や得意先回りをしていたので、電車を使う事すらなかった。
 
それが、東京に引っ越してから、電車を使う機会が増えた。
車だと渋滞に少しでもはまるだけで、時間が読めなくなってしまうからだ。
 
正直な所、1年前まで満員電車で通勤するなんて考えてもいなかった……。
 
色々な人の間に挟まれて、色々な匂いがしたり、乗り降りの際にぶつかったり、押されたりして、毎日が本当に辛かった。
 
「なぜ、満員電車で会社に通てるのだろう……」と電車に乗る度に考えていた。
 
満員電車に乗っていると、同じ人間が乗っているのに、無機質なモノ同士が乗っているような違和感があり、誰かに見られているような恐怖を味わうからである。
何も悪いことはしていないのに……。
 
仕事も新たな得意先を担当する事になり、勝手がわからずに、困る事が多かった。
慣れない電車通勤と仕事のプレッシャーから心も体もガタガタになるほど、硬直していた。
 
そんな時でも、休みの日に歩いて最寄り駅に行くまでに綺麗に咲いている花を見ている時は穏やかな気持ちになれた。
 
顔からは自然と疲れが滲み出ていた……。
長く寝ても、長く休んでも疲れがとれない状態が続いていた。
 
病気なんじゃないかと疑った……。
健康診断の結果はいたって良好である。
むしろ、どこかが悪かったら納得するのにと思ってしまったほど……。
 
そんな自分の状態とは関係なく、仕事はどんどん忙しくなり、重要な案件が重なって、ただただ来る仕事をこなしていくしかなくなり、右も左も身動きが取れなくなっていた。
 
その時に限って、何も前触れもなく、突如、嫁からのLineが入った……。
「息子が熱を出して幼稚園を早引きしました」
 
子供が熱を出す事はよくある事だけど、なぜか落ち着かずソワソワして、
「大丈夫!?」とだけすぐに書いて送った。
 
嫁からも「熱あるけど、元気そうだから大丈夫」とすぐ返事が来て、少しずつ心が落ち着くのを感じていた。
 
息子の面倒を見ていた嫁から「気付いたら、子供の体が熱くて、熱が40度ある」
とLineが来ていた。仕事をしていて、見るのが遅くなってしまった……。
 
「病院に連れていってくれ」とだけ書いて、急いでLineを送った。
心が虚しい気持ちで満たされていくのを徐々に感じながら。
 
心の中で、「一番居てあげたい時に、いられない自分ってなんだろう」と自然と呟いていた。
 
父親って、こんなに無力なのだろうか、もっと何かしてあげる事があるのではないか、と何度も何度も自分に言い聞かせていた……。
 
出来て来た答えは、悲しい事に「今できる事は、目の前の仕事を頑張るしかない」だけだった。自分が行っても何もしてあげる事もできない……。
 
こんな悲しい答えはあるのだろうか、多くの働く父親は同じ答えになるのだろうか。
居たたまれない気持ちに心が覆いつくされていた。
 
そこで、罪悪感を取り払う為に、時間を見つけて嫁に電話した。
 
「どう、息子は大丈夫!? 様子は!? 何かあったら電話して、すぐに帰るから」
頭から捻り出した言葉は、これぐらいだけだった。
 
嫁からは、「大丈夫、何かあったら連絡するから、病院にも行って、水も飲んでいるから大丈夫」と僕を安心させてくれる言葉が帰ってきた。
 
その時、母親は偉大だと心の底から思った。
そして、父親は無力だと……。
直接、目の前で苦しんでいる息子を見る事のほうが辛いと思うのに……。
 
息子の状態は、病院に行って帰って来た後でも不安定で、熱が上がったり下がったりして、体重がどんどん下がって行って、変わってあげられたら良いのにと思わずにはいられなかった。
 
仕事が休みの日曜日になって、ほんの少し息子も元気になったので、外出して、近くの駅まで嫁と息子を連れて歩いて買い物に出かける事にした。
 
いつもなら元気な息子がはしゃいで、道路にできた段差を登って、自慢げに凄いだろうとアピールしてくる場所で、体重が軽くなった息子を僕は片手で抱っこしたままだった……。
 
軽くなった息子を感じるだけで、心が張り裂けそうなぐらいの気持ちが湧き上がってきた。同時に、目頭が熱くなった。
 
息子が生意気なぐらい元気なだけで「幸せ」なんだと心の底から思った……。
早く元気になって、苦しんでいる姿ではなく、笑顔を見せて欲しい。
 
いつも見ている道路の段差の部分に綺麗な一凛の花が咲いているのに気が付いた。
その一凛の花があまりに綺麗すぎて、一瞬心を奪われてしまった。
 
自然と嫁と息子に「このお花、綺麗だね」と呟いていた。
 
その後、最寄り駅まで買い物に行った後に、同じ場所を通った時には、その綺麗なお花は跡形もなく消えていた……。
 
この消えた花は僕に何を伝えているのだろうか……。
きっと、「一瞬一瞬を大切にしないさい」ということだと僕は強く思った。
 
 
 
 
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2019-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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