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あの日、私はアイドルに救われた。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:豊福 直子(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
私は、アイドルに人生を救われた。
これは趣味の悪い冗談でもなんでもない。
私は、アイドルに人生を救われて今生きている。
 
その日、私の生きてきた世界は一変してしまった。
 
穏やかな毎日を過ごしていたはずだった。
当時私は22歳くらいで、毎日が本当に楽しかった。
大好きな恋人がいて、大好きな友達に囲まれて、遊ぶときはみんな一緒で、私の人生はなんて楽しいんだろうといつも思っていた。
 
けれど、そんな日常は突然破綻した。
恋人の浮気に気づいてしまったのだ。
しかもそれは「出来心」や「魔が差して」ではない。ずっと裏切られていたんだという事実に、自分がなんの疑いもなく信じていた世界が一瞬で崩れていった。
 
価値観なんて人それぞれだし、正直浮気の是非なんてどうでもいい。
なにが正しくてなにが間違っているわけでもない。個人の価値観や倫理観に任せればいいと思っている。
ただ、私はそれが出来ない人種だったし、相手もそのことを十分すぎるくらいわかっているはずだった。そしてそういう類の愛情が必要な人だとわかっていたから、私はこの人を絶対に裏切れないと思っていた。
 
なのに、なんてことはない。
 
そうやって一生懸命に守ろうとしていた世界で、私はひとりで空回っていたのだ。
人間関係において、真っ直ぐに投げれば必ずしも真っ直ぐな愛情が返ってくるわけではないのだということに、そのとき気づいてしまった。
その事実が、ただ、悲しくてかなしくてたまらなかった。
 
今思い返すとそんなに絶望しなくても、と思うのだけれど、私にとってはだれかを大切に思うことや、思われることが心の柱だった。
それが突然、根こそぎ折れてしまった。むしろ初めから存在していなかったのに勝手に信じていたんだ、と気づいたときの虚無感は、当時の私には耐えられなかった。
 
こうして、彼氏のことが大好きで安易に人を信じきってしまう、若くて浅はかでただのバカな女の子は、勝手にどん底に転がり落ちていったのだった。
 
それからの私は、今思い出しても笑ってしまうくらい暗かった。
生きるために毎日仕事に行き、早く帰りたいと思いながら時間が流れるのをじっと耐えて過ごし、家に着いた瞬間に泣く。そんな毎日だった。
 
共通の友人が多かったのだけれど、思い出すとつらくなるので会いにいけなくなった。
私が「楽しいな」「幸せだな」と思う時間の大部分が、それまで当たり前に続いていた毎日からごっそり抜け落ちてしまったのだ。
それがなによりつらかった。
SNSなんてなければよかったのに、と何度思ったかわからない。
友人と会う。笑って過ごす。
そんなごくふつうのことを「ふつう」にしている人たちを画面越しに見ながら、私はもう二度とこんなあたたかい気持ちになれないのだと思った。
なにを見ても感動しなかった。
悲しいという気持ち以外で、涙が出ることがなかった。
 
人に会うことがなくなったので、ほとんどを家に引きこもって過ごすようになった。
なにをしていても悲しかったけれど、突然、しかも圧倒的に出来てしまった虚無という時間をとにかく埋めないとどうにかなってしまいそうだった。
 
そのころ私には、少し前から音楽好きな友人たちとおもしろがっていたアイドルがいた。
それまでバンドばかりで、アイドルなんてまったく興味がなかった私と、そして友人たちがだ。
5色のメンバーカラーの、戦隊もののような衣装で歌って踊る女性アイドルグループ。
最初は「なんだこれ」と小馬鹿にしていたのに、アイドルらしからぬ「イロモノ感」やメンバーのキャラに、気づいたらハマってしまっていた。
バンドと同じように新譜をチェックし、バンドと同じようにライブに足を運んだ。
 
その時すでにデビューから何年か経っていたので、過去の音源やライブ映像を掘るのは楽しかった。
そしてタイミングよくできた「圧倒的な虚無」を埋めるのに、それはちょうどよかった。
 
ある日、私は家で彼女たちの過去のライブ映像を観ていた。それは初めて観るものだった。
現メンバーは5人だったけれど、実はその前にメンバーの1人が脱退していた。その脱退ライブだったのだ。
 
デビュー当時から「紅白出場」を目標に、泥臭い活動を続けてきた彼女たち。
だけど、そんなひたむさがやっと開花し始めたころに、グループの中心的存在だったメンバーが脱退してしまう。
「私にはアイドルは向いてない」
元々女優志望で事務所に入った彼女は、ずっとギャップに苦しんでいた。
「だけど、これからはグループの一番のファンになりたい」
 
そしてそんな彼女がずっと「ひとりじゃなにもできないから一番心配」と言って支えてきた、グループのリーダー。
別れの場面で、その頼りないリーダーが泣きながら言った言葉が今でも忘れられない。
「お互いに大きくなって……、いつか、紅白で会おうね」
 
紅白出場という目標から去っていく仲間に、女優の夢を叶えて審査員として、私はアイドルとして。紅白で会おうね、と、新たな夢をたむけたのだ。
 
私はめちゃくちゃに泣いた。
人生でもこんなに泣いたことがあっただろうか、というくらい泣いた。
泣いて過ごす毎日だったのに、そんなの比ではないくらいに泣いた。
 
散々泣いて、泣き終わって、はっとした。
自分の心がまだ、なにかに感動できることに気づいたのだ。
 
もう、なにかに感動したり、あたたかい気持ちになったり、だれかを大事に思える心なんてなくなってしまったのだと思っていた。
だけど違った。
それまで、趣味や娯楽の一環でしかなかった「アイドル」という存在が、突然、私の人生の光になった。
 
それからはもう、彼女たちを、特にこの頼りないリーダーを、他人とは思えなくなってしまった。
私の人生に光を差してくれた彼女を、全力で応援しようと思った。
 
彼女に会いに行くことが、私の人生の活力になった。
彼女に会いに行くために、日々をがんばることができるようになった。
 
そうして、数ヶ月後。彼女たちは、「紅白出場」という夢を本当に叶えてしまったのだ。
 
それから数年が経って、私はもう、彼女に頼らなくても笑えるようになった。泣くこともできようになった。
だけど、これだけは間違いない。
私は、アイドルに人生を救われた。
アイドルに人生を救われて、今生きている。
 
 
 
 
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2019-06-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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