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週刊READING LIFE Vol,94

ママ・ミリアムから学んだコミュニケーションの真髄とは《週刊READING LIFE Vol,94 コミュニケーションは〇〇が大事》


記事:杉下真絹子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「ジャンボ!」
そう言いながら頭にロングスカートと同じ柄の布を巻き、赤いジャケットを来て、現れるのが定番のママ・ミリアムを思い出した。
 
彼女の名前はミリアム・ウェレ(Prof. Miriam Were)。
ケニア国に住む80歳になる彼女はママ・ミリアムの愛称で呼ばれていて、今でも多くのあこがれの女性だ。何を隠そう私もその一人である。
というか、彼女は私の最初で最後の人生のロールモデル的存在だ。
 
私は国際協力の仕事でかれこれ5年間ケニア国の保健省と働いていたのだが、
彼女が私の配属部署が管轄する親善大使に就任したため、私は当初から彼女と
関わることが多かった。
 
彼女は、というとこれまでケニア・ナイロビ大学医学部で教えた後、アフリカ諸国のユニセフやUNFPAなど国際機関の国代表などを歴任してきた数少ないアフリカ人女性の一人で、ケニア国内外やアフリカ諸国はもちろんのこと、日本でも知る人ぞ知る有名人なのだ。
 
2008年に、彼女は内閣府による第1回野口英世アフリカ賞の受賞者として、
「長年に渡り、アフリカに住む人々特に女性と子どもの保健と福祉の向上と基礎医療サービスの提供に尽力した」
として、当時の日本の総理大臣から授与されている。
 
そのため、ケニアでママ・ミリアムと一緒にいると、いつも誰かが向こうから腰を低くして、左手を右腕に乗せて(ケニアでは敬意を示す格好)、彼女に丁寧に挨拶をし、握手を求めてくる人が多かった。
 
カフェで打ち合わせしているときでも、空港にいるときでも、誰かがアプローチしてくるのだ。
 
そんなとき、彼女はいつも元気に
「ハロー、ジャンボ!」
と明るく相手に呼応するように、スワヒリ語で挨拶し、握手を交わしていた。
 
「あの人、知ってる人?」と私が聞くと、
大抵彼女は「いいえ、私の知らない人よ」と笑顔で返してきた。
 
その中には「昔医学部で先生(ママ・ミリアム)の授業受けました」という医者だったり、「先日テレビで見ました」という人もいる。
 
そして、彼女の部族語であるルヒヤ語で挨拶してくる人も多い。
ケニアには主に42部族が住んでおり、彼女と同じルヒヤ族(The Luhya)はケニアで2番めに大きい部族であるが、中でも彼女を知らない人はほぼいないと言っても過言ではない。ルヒヤ族にとって、彼女は象徴的な存在であり、彼らの大切な家族の一員のように感じているのだ。
 
とてもアフリカらしい。
 
彼女のそんなやり取りを見ていて、どうしたらこんな風にどんな人であっても、たとえ初めて会う相手であっても、自然体のコミュニケーションがとれるのだろう、と私はいつも風貌の眼差しを向けていた。
 
実際に、学歴も経歴も世界に通用する超一流の彼女なのに、不思議と彼女の前では、私自身も緊張することなく、背伸びすることなく、ありのままの姿でいることができたのだ。
 
私が所属していた部署のケニア人チームも、いつも彼女からインスパイアされ、成果を出していくようになり、相乗効果を実感していた。
 
そんな彼女と一緒に調査でケニアの村に入ったときのことだ。
村に入るとママ・ミリアムはあっという間に【コミュニティのおばちゃん】に一変し、気がつけば、最後は村のおばちゃんたちと一緒に腰をフリフリ動かしながらアフリカンダンスを踊り、歌っていた。
 
それこそ、つかみはOK!の世界だ。
その姿はまさに【一体感】そのものだった。
 
す、すごい。
ママ・ミリアムは、完全に村人たちのハートを掴んでいた。
 
その翌日は、ナイロビに戻って保健大臣と会談し、その夕方から飛行機でスイスのジュネーブに向かい1週間国際会議に参加するというのだ。
 
どんな人とも素晴らしい関係性を築くことができる彼女のコミュニケーションの真髄はなんだろう。
 
わたしには、彼女が持つ豊かな【感受性】とすべてのものとの【分かち合い】のような気がする。
 
彼女の生い立ちを聞いて、そう感じてならない。
 
今から80年前、当時イギリス植民地だったケニア国の西部州カカメガ(Kakamega)の村で生まれた黒人の女の子が、この世界には
 
【アフリカ人しかも女性であるという二重苦と差別】
 
という事実を知ったとき、明るい希望と未来に生きるはずだった女の子は、
 
なぜ、アフリカ人であることが悪いの?
なぜ、女の子というだけで、非難されないといけないの?
もう生きる意味なんてない、死にたい。
 
と数日間ずっと家の中で悩み、泣いていたという。
 
しかし、家の窓からふと空を見上げた時に見た【白い雲】の存在が語りかけ、強烈に彼女の脳裏に残ったそうだ。
 
それは、空に浮かび、自由にいろんな形となって動いている姿だった。
 
「私もみんなも、あの雲と同じ。邪魔するもの、制限するものは何もない。私も自由に生きたい!」
 
そう自分に誓ったそうだ。
 
その流れで、植民地時代のアフリカ女性が教育を受ける機会が少なかった頃から、ママ・ミリアムは、高校教師、医学部教授、さらには副学長として、長年教育現場に携わってきた。
 
それは、【教育は女性に自由をもたらす】
という彼女の信念にほかならない。
 
また、彼女は小さい頃から必要な人に「分け与える」ことが当たり前の家庭に育ち、それが知識であっても、食べ物やお金であっても、さらには人生の情熱であっても、すべて分け与えてきたそうだ。
 
そして、ここにコミュニケーション(意思疎通)も入ってくるのは当然だろう。
 
そもそも、コミュニケーションは自分と目の前の相手とのキャッチボールで成り立つことを考えると、自分の思いを伝え、相手の意図や気持ちを汲み取るという相互のやり取りであり、分かち合いそのものである。
 
そのために、時には相手のことについて関心を持ち、相手の立場になって考えることが必要になってくるが、これは感受性がないとできない技だ。
 
また相手との一体感を作ることも大切だが、まさしく、彼女が率先して見せた村の女性たちと共に踊り歌を歌った姿が物語っている。
 
その原点は、彼女が幼いときに白い雲からメッセージを受け取るような鋭い感性であり、どんな人に対しても別け隔てなくする分かち合いの精神なのだろう。
 
だからこそ、仕事で生半可に取り組んでいれば、どんな人であろうと彼女はその人に対して非常に厳しかった。そう、私も幾度となく彼女が人とのやり取りする中で眼鏡の奥に怒りや真剣さを見る場面に出くわし、ドキッとすることがあった。まさに、フェアに人と向き合うゆえんの姿は彼女そのものでしかない。
 
そして、その根底には、すべての人や自然に対する彼女の【愛】、彼女から湧き出る【愛】そのものが脈々と流れていると感じてならない。
 
私も、まさしく彼女のコミュニケーションを通して、愛を受け取った一人だとケニアを離れた今、また思い返しつつ、彼女の偉大さを味わっているところだ。
 
こんな時代になった今、日本にいる私とケニアにいるママ・ミリアム。
そして80歳という年齢の彼女と再会を果たすことはできるのだろうか。
 
そう考えていたとき、先日久しぶりに彼女から連絡が来た。
 
私がこの春に移住した屋久島の写真を何枚か
彼女に送ったところ、
 
「パラダイスのような(あなたの住む)屋久島に行く機会を狙っているのよ」
と彼女からのメッセージが来たのだ。
 
さすがママ・ミリアム。
 
きっと彼女は自由とともに白い雲に乗って屋久島にいる私たちのところにやって来るだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
杉下真絹子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

大阪生まれ、2児の母。
90年台後半より、アジア・アフリカ諸国で、地域保健/国際保健分野の専門家として国際協力事業に従事。娘は2歳までケニアで育つ。
その後方向転換を果たし、子連れで屋久島に移住。
現在【森林の中でウェルビーングする】をキーコンセプトに、活動を展開中。

関西大学(法学部)卒、米国ピッツバーグ大学院(社会経済開発)、米国ジョンズホプキンス大学院(公衆衛生)修士号取得。

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2020-08-31 | Posted in 週刊READING LIFE Vol,94

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