メディアグランプリ

熱狂的な阪神ファンの血を継ぐ娘の2019


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岸本 暢子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
神戸のとある焼肉店にて、目の前にいる熱狂的な阪神ファンの胸騒ぎが止まらない。
うちの父である。
 
この日は久しぶりに両親と私の3人で家族肉会。
普段ろくに実家に顔も見せない娘の私が唯一「お肉を焼く」という親孝行をする日である。
しかも焼くのは世界にその名をとどろかせる「神戸牛」である。
 
しかしこの目の前の阪神ファンときたら、愛する娘が焼く極上の霜降り神戸牛に目もくれずスマホを眺めている。
絵に描いたような「心ここにあらず」状態である。
 
CSファイナルステージ第3戦。
負けると巨人の日本シリーズ進出が決まり、阪神の今シーズンが終わる。
どうやら虎党にとっては焼肉どころではないようだ。
この日はなんとか崖っぷちで阪神が意地を見せ、第4戦につながった。
 
そういえばこの店は、昔から阪神タイガースの選手もよく訪れる名店である。
いつぞやは私たちの隣のテーブルで、ある現役選手が家族で焼肉を楽しんでいた。
完全プライベートなので賢い大人ならここは黙って見て見ぬフリが正解である。
 
なのにチラチラと隣のテーブルの様子をうかがう父。
相手が野球選手じゃなくただの一般人でも隣のテーブルで阪神の話をしていたらナチュラルに乱入していく父である。
 
絶対あかんパターンのやつや。
私は察した。
 
小声で「あかんで! 声かけたらあかんで!」と唱え続ける娘。
少し腰を浮かせ、そのテーブルの方向へ身体を向ける父。
「あかんって!」と止める娘。
その制止を振り切って声かけたー!
あかんいうてんのにー!
 
「最近調子よろしなぁ!」
 
阪神ファンという生き物はよくこうやって人の制止を振り切って人に絡む。
 
私はその時あまり存じ上げなかったのだけれど、その選手は兄弟でタイガースに所属していた。
その時にお会いしたのは兄の方で家族持ちやったんやけど、弟の方は当時まだ独身。
父が何やらもう一言言いたげだったので非常に嫌な予感がした。
 
私の心の声(言うなよ? いらんこと言うなよ?)
 
「うちの娘、まだ独身ですねん」
 
(言うなー!)
 
「良かったら!」
 
(なにがやー!)
 
「ちょっと歳はいってますけど(笑)」
 
(うるさいわー!)
 
私と母で「ほんますみません、ほんますみません」と再度父を引きはがした後の記憶がない。
 
そうやって、危うくプロ野球選手の嫁になるところだった私。(ならない)
特に阪神ファンというわけでもないんやけど、しいて言うなら鳥谷選手が好きです。
 
まず顔がドストライク。
私がバッターだったらうっとり見ているうちに即スリーストライクでアウトである。
特に鳥谷がバッターボックスに入った時の横顔のアゴのラインが好き。
今年38歳。
身長180センチ、体重79kg。
年俸は4億円。
合格! (何がや)
 
なので、私としても鳥谷が今年で阪神からいなくなるというのは残念この上なかった。
関西には数少ないこんなイケメンを手放したらあかん。
 
2003年にドラフト自由枠で入団し、16年間の野球人生を丸々捧げた阪神タイガースから引退勧告を受けた8月29日。
鳥谷は自宅に戻るなり5人の子供たちをリビングに集めてこう言ったそうだ。
 
「パパ、クビになった」
 
泣きだしそうになる子供たちを前に、父親としてさぞ悔しかったことだろう。
でも這い上がる生き様を見せるため、現役続行という決意をした。
父としての覚悟である。
 
出番が激減した今季、心身ともに追いつめられるなかで鳥谷が思い出したのは、過去何気ない雑談の中で自分の父親からかけられた言葉だという。
 
「サラリーマンだったら、そんなことしょっちゅうだぞ」
 
プロ野球界という並大抵ではないプレッシャーの中に身を置く息子にかける言葉として、とっても父親らしい言葉のチョイスだと思った。
 
さて、今私はそんなことを思いつつCSファイナルステージ第4戦を横目で見ながらこの記事を書いている。
この記事が、日本シリーズに向けて明るい希望に満ちたものになるのか、阪神の今シーズンの終わりを伝えるものになるのか、まだわからない。
 
巨人に3点リードされて迎えた9回表、2死のところで代打・鳥谷が登場した。
スタンドで涙を流すたくさんの阪神ファンが映し出される。
オレンジ色に染まる敵地のスタンドからも歓声が上がる。
別に阪神ファンじゃないと言い張っていた私の目からも涙が出た。
 
タイガースのユニホームを着て打席に立つのはこれが最後になるかもしれない。
嫌だ、他のチームのユニホームを着た鳥谷なんて見たくない。
日本シリーズに進出して甲子園でもう一度その姿を見たい!
 
夢乗せて はばたけよ
鋭いスイング 魅せてくれ
さあ君が ヒーローだ 鳥谷敬
『かっとばせー とーりーたにー!』
 
阪神タイガース 背番号1番。
通算2169試合2085安打。
連続試合出場記録1939(歴代2位)。
10月14日、この最終打席で鳥谷敬選手の16年のタイガース人生が幕を閉じた。
 
鳥谷選手、16年間お疲れ様でした。
東京生まれなのにコテコテの関西でたくさん頑張ってくれてありがとう。
阪神ファンの熱すぎる期待とヤジを長い間受け止めてくれてありがとう。
 
では最後に世の阪神ファンを代表して、うちの父からも鳥谷選手にこの言葉を贈ります。
 
「パ・リーグやったら行ってもいいけど、セ・リーグには行ったらあかん……」
 
 
 
 
***
 
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2019-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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