不完全燃焼な修学旅行
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記事:太田智絵(ライティング・ゼミ平日コース)
京都人、特に京都市に生まれ育った人には宿命がある。それは修学旅行先が京都ではないことだ。考えてみれば当たり前のことなのだが、それによる弊害はある。京都市内で小学校・中学校・高校を過ごした人に修学旅行先を聞いてみると、「広島」「長崎」「東京やディズニーランド」「長野でスキー」などである。ちなみに私の中学時代はあろうことか「富士の樹海」であった。ヘルメットにジャージ、軍手を装備して樹海に入る。現地ガイドさんから離れてしまって遭難の危険さえある。「そっち行ったら、見えてはいけないものが見えるからダメだよ~」見えてはいけないものって何なのか。前に進むクラスメイトのリュックを見失わないように、朽ちた木や妙にふかふかする土を踏みしめて、倒木をまたいで、ただひたすら歩く。みんながワクワクする修学旅行先とは何かが違う。
京都以外の出身の人の人に、修学旅行先をたずねると「京都・奈良」「東京」「長崎」などが多い。「だいたい1回は京都に行くよ~」とのこと。うらやましい。私も富士の樹海よりも京都で修学旅行したかった。金閣寺や龍安寺をワイワイ見てまわりたかった。お土産物を見ながら「京都っぽいモノ」を選んでみたかった。京都市内出身の人は家族や自分、周りにいる友人の強烈な意思がない限り、金閣寺やら龍安寺やら建仁寺やら東寺や京都タワーには行かない。「行こうと思えば、いつでも行けるし~」その謎の安心感により、京都観光地に行く機会がめっきり減り、遠方の友人などに「京都のおすすめ場所を教えて?」と言われても、「はて…?」と考えるはめになる。それどころか自分が初めて訪れた場所なのに「修学旅行の時にも来たことある」とさらっと言われてしまったりする。「灯台もと暗し」とはよく言ったものである。世界遺産に囲まれているが、なかなか目にする機会がない。
大学あたりになって、自分の京都知識の少なさに絶望し、二十歳を過ぎてから、はじめて金閣寺などに行くのだ。
京都では春や秋どころか、夏でも冬でも修学旅行生があふれかえっている。そういう姿を見ると、京都への修学旅行が体験できる彼らが幸せそうに見えてたまらない。そうして私は京都への修学旅行に憧れるものの、すでに学生でもないし、そもそもグループ行動などしない。不完全燃焼の思いを抱えたまま、一人で京都観光をすることにした、修学旅行生の気分になって。
金閣寺では大量の修学旅行生が写真を撮っている中にわざとまぎれてみた。テンション上がった中学生の中に入ると、すごく疲れる。すぐ疲れると思ってしまうところが修学旅行生とは違うのだなと痛感する。ガイドの方が金閣寺の歴史や建物の説明をするが、ほとんどの中学生は聞いていない。私だけが、「ほぅ、これが茶室の夕佳亭か」とガイドさんの話をこっそり聞きながらまわる。中学生はガイドブックに載っている一番、金閣寺がよく見えるポイントで写真を撮るのに夢中である。
北野天満宮も学生が多い。北野天満宮の門前にある「たわらや」の名物、一本うどんをいただいていた時だ、隣のテーブルにいる男子中学生3人の会話が聞こえてきた。
「親のおかげでこんなに美味しいもの食べれて幸せ~」
「俺も~」
「幸せ~」
なんと素晴らしい中学生たちなんだ!感動して涙目になってしまって、うどんがぼやける。こんな素晴らしいコ達は一人残らず志望校に受かるように北野天満宮さんでお参りしてきた。
京都を観光していると、修学旅行生だけでなく外国人観光客の団体の近くを通ることも多い。天龍寺では「タッカウージ アシカーガ」という声が聞こえた。足利尊氏も「タッカウージ アシカーガ」と発音されるとインドの神のようである。東福寺では「イースト ハッピー テンプル」という声が聞こえた。東福寺のことを「イースト ハッピー テンプル」と思ったことがなかったので驚いた。なんだかスタイリッシュなお店のようだ。その音だけでは禅宗の凛とした空気がまったく伝わらない気がする。
私にとって、京都観光は名作のRPGゲームである。何度でも繰り返し、学び、遊ぶことができる。レベル上げはすごく地道ではあるけれど。
そんなことを考えながら休日に一人でまわる京都観光。最近は「次はどこに行こうかな?」と楽しみにしている。あの不完全燃焼な修学旅行の記憶を上書きするかのように、京都の観光地を見て回るのは楽しい。最近は、京都市内では物足りず、舞鶴や伊根の方まで見に行っている。しかし、少しでも良い景色を見ようとすると、台風通過後に倒木だらけになった石段や山道をのぼったり、虫だらけの藪を抜けたり、廃墟跡を歩いたりしている。結局のところ、富士の樹海を歩いたあの時と今の違いはあまり無いのかもしれない。
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