「カップ麺お湯足らん人」だった私
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記事:タカハシ アヤコ(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
「なんていうか、『カップ麺お湯足らん人』だよね。アヤコはさ」
私の小学5年生の時のあだ名は一時「カップ麺」であった。上に述べた「カップ麺お湯足らん人」の短縮形である。
当時の私は、というか今も、であるが、いわゆるいじられキャラである。運よく周りの人に恵まれてきたので、大抵は友人からの「愛ある」いじりを楽しんでいた。おかげで今までついたあだ名は数十個にのぼる。中でも一番インパクトがあるのが、「カップ麺」である。
小5の夏休み、部活の休み時間に、一個上の大好きな先輩にかるい調子でそういわれ、私は思わずそれを喜ぶでも反論するでもなく、「うーん」とだけ返した。語感の良さに、周りは大ウケ。私も少し気に入った。「えー、てか、なんでですか?」と尋ねると、「なんか、固い? けど食べれなくはないんだよね、アヤコはそんな感じがするよ」とだけ。答えになっていない。あだ名なんてそんなものだろう。
だが、私はその後10年間、ずっとそのあだ名のことが引っかかっていた。その答えのようなものが見つかったので、皆さんにもお付き合いいただけたらと思う。
当時の私は、名実ともに優等生であった。テストでも100点以外をとることが珍しく、何か作品をコンクールに出せば入賞し、部活やクラス等でもリーダーをすることが多かった。一つの選択ミスが素直で残酷ないじめにつながる可能性を孕んだひりついた子ども社会において、周囲の目を気にし、この局面で正しい言動はどれ? 正解は何? と常に自分に問いかけ、それを選択していたように思う。
優等生キャラでありながら周りに馴染むため、あえていじられキャラを演じていたというのもある。それを楽しんでいたのも事実だが。そんな私についた「お湯が足りないカップ麺」という評価⋯⋯。私に足りない「お湯」とは何なのだろう。
その後も私は、中学高校と正解を求めて日々一生懸命だったように思う。ときに自分の感情をも無視して勉学に励んできた。相変わらずテストの点数は優秀だったので、とにかく東京の偏差値の高い大学を目指した。が、二度の失敗。今どきの現役高校生にはこんな馬鹿げた学歴主義はないのかもしれないが、5,6年前であれば、よくある話だったろう。地元を出て、とりあえず受かった大学に入った。とりあえずとはいっても興味がある分野だったので、講義も面白いし、尊敬できて面白い先生もたくさんいたし、素敵な仲間もできた。私にとって全てがきらめいていた。しかし、ここでも、私はどこか、とにかく結果を出さなければという気持ちがあった。学費の元を取らなくては、すごい友人に並んで自分もどうにかすごくなりたい、など、たくさんのことを気にした。たくさんのことに一生懸命ぶつかって、上手くできないことにひどく悔しがり、苦しくて、体調を崩すこともあったが、私は見ないふりをした。とにかく大学でも頑張っていた。たまに成果もでた。
ある時、友人に言われた。「頑張り屋さんなのはすごくよくわかるんだけど、アヤちゃん、どこか歪みがあるよね」
今まで蓋をしてきた自分の気持ちが一気に溢れた。と同時にカップ麺の話を思い出した。歪み、足りないお湯。そうか。「足りないお湯」というのは私の人生における「余裕」だったのではないか。
カップ麺には様々な味があり、カップの大きさがあり、それに合わせた適切なお湯の量や待ち時間がある。お湯が少し足りなかった、多すぎた、あるいは、美味しそうな匂いと立ち上る湯気に耐え切れず早めに食べてしまった、お湯を入れたことを忘れて麺を伸ばしてしまった。それではいけない。多少の誤差があったとしても、適切な量や時間を守ることによってそのカップ麺本来の美味しさが引き立つのである。味噌味のラーメンと醤油味のラーメンを比べたところで意味はないのである。どちらも違う美味しさがあってどちらも良い。
私のカップ麺にはもう少しお湯が多い方が、ちょうどいいのだろう。カップ麺に厳しい条件を課したところで、美味しくなることはない。同様に、人生にも余裕がなければ、いかに元々いい素材があっても、それを最大限に生かすことはできないのだろう。生きていくため、自分を高めるために気張ることはもちろん大事だが、必要以上に気張ってしまうことはかえってよくなくて、一息ついて休むときもあれば、自分の今の限界を大幅に超えてまであえて頑張りすぎない、ということも、また重要なのではないか。10代の私には難しかったことだが、人には人それぞれのちょうどいい「量」と「時間」がある。
当たり前だろ、という話かもしれないが、これは言っても仕方のない話である。お湯をいれたときからタイマーはスタートしているのである。ここから、私は自分に足りなかったお湯の量に向き合い、多すぎも少なすぎもしないように調整するのだ。自分だけの人生を豊かにするために、他人と比べるのではなく、どれを削るか、何を頑張るかを一つ一つ選びとっていくのである。完成後の麺が、死ぬ直前に振り返ったときの人生が、少しでも美味しくなるように。それでもまずかったときは笑おうじゃないか。
人生はカップラーメン。お湯は人生を美味しくするための余裕。そう考えると、長すぎる人生も、カップラーメンの完成を待つわずか数分も等しくワクワクするものではなかろうか。
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