メディアグランプリ

薄情なわたしのカラクリ箱


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記事:ワタナベアツコ(ライティグ・ゼミ夏期集中コース)
 
 
薄情だな、私。と思うことが多い。
人の悲しみや、苦しみ、辛さに寄り添うのが苦手。
悲しい話、辛かったことを打ち明けられても、どう言葉をかけていいか分からない。
一緒に泣いたら、優しい人と思われるのに。
涙、出てこい!と思うけど、心の針は1ミクロンも悲しみの方に振れないのだから、私の目は、砂漠の砂のように乾きっぱなし。いっそ、目から砂でも出てくればいいのに。そうすりゃ、話題が変わるのに。
 
薄情なのは、他人に対してだけじゃない。
流産した時だって、そう。まだ母子手帳ももらえないくらい初期だったから、赤ちゃんって言ったって、白黒の画面に大豆くらいの楕円が映るだけ。高齢出産の流産率は30%くらいなんて聞いてたから、「あ、そうですか。残念」ってな具合。隣の夫は目に涙を浮かべていたのに。ドライだな、私って。
 
最たるものは、父のお葬式。
生粋の父さん子だったのに、葬儀場から紹介された僧侶の挙動ばかりが気になった。読経の合間にパチン、パチンと指を鳴らす。急に立ったり、座ったりしたかと思えば掌を鼻の前でヒラヒラしならせる。きっと由緒正しき経典を読んでいるのだろうけど、経の読み方も独特で、不勉強な私には時折「キャロット!」と奇声をあげているように聞こえた。
人参! 人参! と葬儀中に坊主が叫んでいる、と思うと笑いがこみ上げてきて、もうダメだった。泣けなかった。
父親の葬儀でお坊さんを笑うなんて不謹慎すぎる。
やっぱり、私は薄情だ。
 
父について、久しぶりに考えたのは、あの葬儀から4年がたった、ライティング・ゼミの3日目だった。ネタ探しで、大嫌いな蝉について考えていたら、死を連想し、そして父を思い出した。あのお葬式以来、仕事、子育て、日々の生活に追われ、父について深く考えることがなかった。せっかくだから、お父さんについて書いてみよう。私は、久しぶりに、父について思いを巡らせてみた。
 
父は、自分勝手で、野放図な人だった。人見知りな割に、頼られると断れなくて、借金の保証人にもなった。おかげで家族は苦労した。でも、子供が好きな人だった。いつも、遊んでくれた。
 
パソコンに向き合っていると、徐々に色んなことを思い出した。
小さい頃、毎年夏に家族で出かけた小旅行。家族5人でずっと笑って、楽しかったこと。海で溺れた私を父が助けてくれた日のこと。夜寝る前に毎日創作話をしてくれたこと。友達にケンカを仕掛けた私を、泣きながら叱ったこと。上京して久々に帰省した日に朝まで二人で飲んだこと。
いつでも、私を信じてくれたこと。認めてくれたこと。
私は、ずっと、ずっと、父が大好きだったこと。
思い出を書き殴っているうちに、ぼやけていた記憶が輪郭を帯びて蘇ってきた。
 
ふと、視線を壁にやると、立てかけてあるコルクボードには20年前の私のプリクラがあった。
父の遺品を整理した弟から「財布に入ってた」と渡されたものだった。
 
遺品らしい遺品は残さなかった人だった。薄汚れたプリクラも捨てようかと思った。けど、唯一の形見としてとっておいた。
改めて手にしてみると、プリクラは、インクもかすれてシワシワで、一緒に写っている友人の顔は真っ白に消えていた。
 
私も忘れていたくらいの、プリクラ。
20年間、ずっと、財布に入れてたんだ。
 
私は、父に、大切にされていた。
文字にしたら、泣けてきた。
 
大好きだったって伝えたかったな。
最期は送ってあげたかったな。
色んな感情が湧き上がった。
 
葬儀から4年、私は父を亡くして初めて、泣いた。
ボロボロと、涙をこぼして、泣いた。
 
昔、箱根で目にした寄木細工のカラクリ箱を思い出した。
色や木目、材質の違う木片を複雑に組み合わせて模様を成すきれいな工芸品の箱。だけど、簡単には開かない。木片をスライドさせたり、押したり、揺らしてみたりすることで、ようやく蓋が開く。
 
人の心も寄木細工みたいに、色んな質の色んな感情が複雑に織りなしている。私にとって、書くことは、カラクリ箱に隠された仕掛けを解き明かすように、押したり、引いたり、時にはひっくり返してみたりして、心の鍵を開ける作業だった。
 
カラクリ箱を開けると、心の奥底にしまっていた気持ちが姿を現す。
あぁ、私、悲しかったのか。
そうか、私、傷ついてたんだ。
なるほど、あの時、私、嬉しかったんだ。
 
ライティング・ゼミの課題に取り組んだ9日間。私は、自分の奥に隠れていた気持ち、何気なくやり過ごした日々の意味に気付かされることが何度もあった。
自分が何から逃げていたのか、本当はどうなりたいのかも見えてきた。
 
今日はライティグ・ゼミ課題投稿最終日。課題提出は今日で終わりだ。
講座で習ったA B Cユニットは、ありふれた、どこにでもある、平凡な日常を送る私を、哲学者に変えた。だって、物干し竿に年中ぶら下がりっぱなしの洗濯バサミにすら、意味があるように思えてきたんだもの。
書くことは、考えること。考えることは、生きること。
 
明日もまた、私は、パソコンに向かうだろう。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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