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女性の社会進出はアスベスト? 


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記事:小北采佳(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「セックス・アンド・ザ・シティ」というドラマをご存じだろうか?
ニューヨークに住む30代独身女性4人の生活を描いた連続テレビドラマで、1998年から2004年にかけてアメリカで放送された。このドラマは放送開始直後から大ヒットとなり、シーズン6にまで及ぶ全94話が制作された。4人の女性たちを取りまく男女関係が物語のメインだが、それぞれの恋愛観や結婚観、女性の生きづらさ、仕事に対する考え方など、様々なトピックにも鋭く切り込んでいる。
私もこのドラマの大ファンで、全シーズンを5回は視聴した。女性の生き方について考えさせられる味わい深いドラマなので、ぜひ皆さんにも一度見てみてほしい。
 
最近このドラマを見て考えたのは、女性の社会進出は、まるでアスベストを使用している家に長年住んでいるような側面があるということだ。
 
ドラマでは、物語の締めくくりとなるシーズン6で、主人公の1人であるサマンサ・ジョーンズが乳がんに罹っていることが判明する。サマンサは40代半ばで、広報会社の社長を務めるやり手のキャリアウーマンである。自分に自信があり、欲しいものは何でも手に入れていく女性だ。サマンサは、多くの男性と自由にセックスを楽しみたいと考えており、恋人として一人の男性に縛られるような関係を好まないし、結婚願望・出産願望も全くない。そんなサマンサがある日豊胸手術をしようと思い立ち、美容クリニックに行った時に乳がんが見つかったのだった。
 
印象深いのは、サマンサが主治医に「どうして乳がんになったのかしら?」と尋ねるシーンである。主治医は「遺伝の場合もあるが、出産経験のない女性は乳がんになる確率が上がる」と答える。それを聞いたサマンサは、「つまり自業自得ってわけ? 子供産まなくて褒美がほしいくらいなのに、いつから出産がガン予防になったわけ?」と憤る。
サマンサは、女性だからといって結婚・出産することを当たり前とは思わず、むしろ自分には必要のないことと考え、結婚・出産しないことを積極的に選んだ。世間一般の価値観に縛られず自由な生き方を選べることを彼女自身が示してきたからこそ、このような怒りの発言が出たのだろうと推察する。
 
実際、出産経験のない女性が乳がんになるリスクが高いというのは、医学的に根拠のある話のようだ。調べたところ、乳がんの発生・増殖には、エストロゲンという女性ホルモンの作用が関わる場合があるらしい。エストロゲンは月経周期の中で定期的に分泌されているが、妊娠期間中は月経が中断されるので、その間はエストロゲンの分泌量が減少する。このことから、一生の中で月経回数の多い女性ほど発症リスクが上昇するのだ。しかも、近年は女性の社会進出に伴って女性の晩婚化や、初産年齢の上昇、あるいは子供を持たないことを選択する女性が増えてきたことから、乳がんになる女性が増加傾向にあるという。
 
出産経験がないことで乳がんリスクが高くなると知ったときは、サマンサ同様に私も憤った。女性の社会進出によって、特定の病気になるリスクが高まるなんて、そんなの聞いてないよ! と思った。長期的にある物質にさらされることで発病リスクが高まるというのは、まるで自分の家にアスベストが使用されていると気づかずにずっと住んでいるようなものじゃないのだろうか? 私はもうすぐ30歳だが、20代のうちは大学や大学院で勉強して、その後は当分仕事に専念したかったため、結婚・出産は30代になって気が向いたらするか、くらいにのんきに構えていた。しかし、自分がやりたい勉強や仕事を優先し、出産を後回しにしてきたことで、知らない間に私も病気のリスクが上がっているのかもしれない。そう考えるとちょっと怖い。
 
私の母親からは「子供を産むなら体力のある若いうちがいいよ」と言われたことがあった。確かに若いほうが、体力があって母体にかかる負担が軽いだろうということは直感的に分かる。しかし乳がんになる確率が上がることは、誰も教えてくれなかった。もしかしたらまだあまり広く知られていないことなのかもしれない。
 
現在、女性の社会進出のために、働き方改革や制度の充実が進められてきている。生き方の選択肢が増えるという点では良いことである。しかし、女性の社会進出によって女性の健康をリスクにさらす可能性もあるということはできればもっと早く知りたかった。自分の20代に悔いがあるわけではないが、リスクを知ったうえで自分の人生設計を決められた方が、後々自分の選択に納得感が持てるだろうと思う。女性の社会進出によるリスクも、これからは正しく情報共有されていくべきではないだろうか。
 
 
 
 
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2021-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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