グチは笑いへ昇華させる
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ひのえうまねえさん(ライティング・ゼミ日曜コース)
「わたしにできることが、男にできないわけがない」
3つ年上の先輩、Sさんが言い放った。彼女とは部署は違うが同じ会社に勤めている。
先日ご飯へ行こうと誘われて、梅田まで出向いた。その時の話だ。
いつものようにたわいもない話をしていたが、話の流れで言い出したのだ。
彼女は自分でなんでも興味を持って、実行する人だ。
実際に先日、実家の扉の取手が壊れていたらしい。その修理を業者に頼まず、材料や工具を揃え、自力で修理してしまったそうだ。家の中のことなら大抵のことはできると豪語する、たくましき女性だ。どうやら男が取手のひとつ修理できないなんておかしいということらしい。彼女の父親は取手のひとつも修理できない男だった。
そういうことは男性にやってもらうこと意義があるのではないかと聞くと、「自分でやった方が早いやん」と、男らしい言葉が返ってくる。たまには男性に頼ってもいいんじゃないかと食い下がると、「説明する時間がもったいないやん」合理主義をモットーとする彼女らしい回答であった。そんな彼女のことを、わたしはおもしろいと感じているし、生涯友達でいてほしい人のひとりだ。
アラフィフで独身。
わたしたちに自覚はないが、世間的には負け組なのだろうか。
アラフィフ部門で勝ち組の代表格であろう、女優の石田ゆり子さんにはほど遠い。ご本人にしかわからない苦労もあるだろうが、この際それは脇へ置いておく。
平凡なアラフィフでも、できる限り老化を遅らせようと、おしゃれを怠らず、美容に気を配り、体力作りにもはげんでいる。そのおかげであると思いたいが、わたしたちは実年齢よりも下に見られることが多い。
仕事でも、彼女は課長で、わたしは昨年取締役に就任した。それなりにキャリアを築き上げている。お金だってそこそこ持っている。どこへだって自由に行けるし、欲しいものはある程度手に入れられる。お互い、お気楽なおひとりさまを楽しめている。ただ、なぜか男にはまったく縁がない。
女性の話は突如として、いろんなところへ飛んでいくものだ。こうもぼやき始めた。
「わたしでも稼げるのに、同年代の男がわたし以下の稼ぎなんて考えられへん」
それには大いに同意するが、よく考えてみよう。わたしたちは、こと男性がらみの案件では、身の程をわきまえねばならぬアラフィフだ。
そもそも同年代で、ある程度稼ぐ男たちはすでに売却済みである。
結婚適齢期に、男性ウケする行動を取ってこなかったのが、わたしたちだ。それゆえ、仕事を頑張って、ひとりで生きていくぞと覚悟を決め、肩肘張って、時に涙しながら、なんとか食いつないでいるのだ。
「せやなあ。たしかになあ。同年代だと汚いおっさんばっかやし。年下がええわあ」その発想も男らしいと思えなくもない。
年下男性にも選ぶ権利がある。年上女性の相手してくれる年下男性もいるとは思うが、それこそ石田ゆり子さんレベルでないと寄ってくることもなさそうではないか。
「そんなん、うちら、努力しとるやん。小綺麗な50歳になるために頑張っとるやん。そこを評価してほしいわ」
たしかに努力はしている。それが受け入れられるかは相手がいてこそだ。それは年齢に関係ない。求めるばかりでは何も得られないこともわかっている。わたしたちのバイブル、『東京タラレバ娘』(東村アキコ作)にも似たようなことが書いてあったじゃないか。わたしたちは東京タラレバ娘ならぬ、大阪グチグチ女といっても過言ではない。
「そうだけど、あんたはええやん。物書きになるって、学校みたいなの行ってるんやろ? わたし、できることはたくさんあるけど、やりたいことがないねん」とSさんがボソっと言った。このままで本当にいいのか、自分で何をしたいのか、いまだによくわからない、と前から言っていた。歳を重ねても、悩みは若者とさほど変わらないものだ。
「そうやけど、この年で現実的じゃない夢を追いかけるなんて、正気の沙汰じゃないやん」
「ええやん、それでも。ないよりマシやわ」
「まあ書くのは好きやし、なんとかするために頑張るわ。だって、人生を会社だけに捧げるなんて、供物としては上出来すぎひん? もったいないわー」と答えた。
「ほんまやわ。わたしもいい加減、真剣に考えな」きゃきゃと笑い合った。
「今年こそ、頑張ろう」帰り際、わたしは彼女に言った。
「せやな。なにをどう頑張るかはわからんけど、頑張ろう。こましな50歳目指すわ」
「やることあるやん! 」
「せやな」そう笑いながら、帰路に着いた。
できることと言えば、グチることだけだと思っていた時期もあった。お互い口に出すことはなかったが、心の中ではこんなことじゃダメだともわかっていた。ところが、いつしか自然とその悪循環から抜け出し、グチは言うが励まし合い、笑いに昇華できるようになっていた。ゆっくりでもいい。まわりに合わせなくたっていい。これが、わたしたちが今、できることなのだから。
***
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