「アンジェラは恩犬か?」
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記事:加藤凡順(ライティング・ゼミ日曜コース)
「待て! 伏せ! お手!」
いつものように、声をあげてしまうのだが、
何を言っても、この犬には聞こえていない。飼ってから13年6ヶ月経つ、
もう老犬の歳になる我が家の犬は、去年から耳が聞こえなくなった。
耳が聞こえなくなった犬は、人生初体験で驚いた。
獣医は、老化が原因だから仕方ないと言っていた。
それが普通だそうだ。
13歳で老化か……
そうすると、耳の聞こえない犬が、世間には沢山いるんだなぁと
感じ入った。
飼っている犬の名は、「アンジェラ」
とても可愛い。ジャックラッセルテリアという犬種で、雌だ。
13年前に、
家族の者が、病後のリハビリをやる気がないので、
犬の散歩で運動させる為に飼った。
ジャックラッセルテリアにしたのは、当時流行っていたのを選んだからだ。
何しろ見た目が良い。可愛いので買った。
近所のデパートの屋上にあるペットショップでだ。
1週間悩んでいたら、10万円値引きされた値段になった。
デパートで買う前に、
一応、本を読んで、下調べした。
フジテレビのアナウンサーの書いた本で、
「こんな犬は飼ってはいけない」
という題名だった。
アホでバカで、我儘で元気で、言う事を聞かなくて、
手に負えない犬という内容だった。しかし、「可愛いと!」
そして、家族からの「可愛い」という意見でアンジェラが選ばれた。
しかし家族の誰も毎日の散歩をこなそうという気は無かった。
その後、結局犬の散歩は、僕がすることになった。
というか、せざる負えない。
散歩に行かないと、アンジェラは、吠えまくり、暴れまくり、
家の中の色々なものを壊して回るからだ。
毎日の散歩が、僕の人生で1番のストレスだったことが何年も続いた。
アンジェラは、
散歩で出逢う犬には、必ず吠えて飛びかかる、落ちているものは、何でも喰う!
叱ると、飼い主の僕に、敵意を剥き出して唸ってきた。
ある日散歩中に、後ろからついてくるアンジェラを振り返って見たら、
カレーパンを丸ごと咥えていた。
口の両端から、完璧なカレーパンがのぞいていた。可愛い画だったが、
僕は真っ青になった。
犬は、カレーを喰うと死ぬからだ。
玉ねぎが入っているので、犬の血は固まらなくなってしまうという話だ。
確かめたことはないが、
小説の中では、
犬にハンバーグを喰わせて殺すというエピソードを何回も読んだことがあった。
1度食べ物を咥えた、アンジェラの口を開けるのは不可能なので、
そのまま、獣医の元に連れて行った。
全身麻酔で、胃の洗浄をしてもらった。
何万円かかったかは、覚えていない。カードが使えて良かったなという金額だった。
そんなストレスのある毎日の散歩中に、
落ちている枝を、アンジェラが咥えて、噛み砕いたのを見た。
「バキバキバキ」と派手な音を立てて、枝は、簡単に粉々になった。
直径5センチくらいの枝だった。
あんな風に、噛まれたら、僕の手は、粉砕骨折で一生自由に手を使うことはできなくなるだろうとリアルに想像できた。
今まで、「本気で噛まないでくれてありがとう」という感謝の念が、ふっと生まれた。
人類は、犬に恩があるという説がある。
人間が人間になれたのは、犬と友達になったからだというのだ。
人間の脳が、異常に大きく発育したのは、夜間に寝られるようになったからというのが原因のようだ。睡眠時間の増大が、人間の脳を大きくしたのだ。
しかし、犬と友達になる前の人類は、他の猛獣に襲われるのを避けるために、夜眠ることはできなかった。
犬と人間は、何故か、共同生活ができるくらいに気が合った。
同じものを食べたり、狩りを一緒にすることができた。
そして、夜眠る時には、猛獣から守ってくれる番犬になってくれたのだ。犬は、外敵の気配を一番早く気付いて、教えてくれた。
人間が、安心してぐっすり眠ることができるようになったのは、犬のおかげなのだ。
脳が発達したのは、犬のおかげなのだ。
そうすると、
いま、人間が持っているもの全て、言語も文化文明、科学やインフラ設備、などなど、犬のお陰で持つことができるようになったということになる。
犬にありがとうございました。と言いたくなる話だ。
だが、うちのアンジェラが、僕の恩犬であることにはならない。
もう一つ、聞いた話だが、
スピリチャル系の友人が言っていた。
よくこんな発想が出来るなと感心したが、確かめようもない。
しかし、
犬好きなら、嬉しくて採用したくなる話だ。
犬は、人間のストレスを吸い取ってくれて、それで早死にするらしい。
うちの家族は、毎日のように喧嘩をし、怒鳴り合う。そのストレスを
アンジェラが吸い取ってくれているということになる。
そのご褒美に、犬は必ず天国に行き、時間の感覚のない犬は、
すぐに飼い主に再会できると。
そして、次の世では、人間に生まれ変わるというのだ。
信じる証拠は全くないが、犬好きなら、嬉しくて泣きたくなる話だ。
必ず、犬は先に死ぬことになる。ほとんどの場合。
そのことの、心の痛みを軽くしてくれる話だ。
そう思うと、アンジェラに、ありがとうと思うようになった。
恩犬認定でいいと思った。
***
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