夢から覚めたら、自分が魔法使いだったことに気付いた。
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記事:芽野あゆみ(ライティング・ゼミ平日コース)
『夢の国』。
そう言われれば、多くの人が同じ場所を想像するだろう。
そう、ディズニーランドだ。
今や『夢の国』はディズニーランドの代名詞となったが、今から20年以上前、私がまだ幼かった頃、私はディズニーランド自体知らなかった。
私が生まれ育ったのは青森県の片田舎。当時の青森県には新幹線も通っていなくて、東京まで行くには飛行機か車を使うのが一般的だった。
我が家には、家族全員分の飛行機代とホテル代を出す余裕もなければ、車で10時間かけて東京まで行く気力もなく、ディズニーランドは私にとってあまりに縁遠い存在だった。
初めてディズニーランドを知ったのは、小学1年生の時。1人っ子でお金持ちだった友達から、家族でディズニーランドに行ったという話を聞いたのだ。
彼女がディズニーランドで撮ったという写真はあまりにキラキラしていて、なんだか違う国のように思えた。
『夢の国』――。
いつからか、多くの人がディズニーランドをそう呼ぶのを耳にするようになった。ディズニーランドは『夢と魔法の王国』なのだという。
そうか、夢の国だからあんなにキラキラしてるんだ。ディズニーランドは楽しいことばかりで、みんなずっと幸せでいられるんだろうなぁ。
「私もディズニーランドに行ってみたい」
ディズニーランドは、私にとって大きな憧れとなった。
その夢が叶ったのは、中学3年生の修学旅行。
初めてのディズニーランド、どころか初めての東京。私は心から浮足立っていた。
初めて行った109で買った服はもちろん、ショッパー(ショップ袋)も高校を卒業するまで捨てられなかった……。
そして待ちに待ったディズニーランド。
園内にはミッキーやミニー、ドナルドやデイジーなど、ディズニーキャラクターがみんないて、一緒に写真を撮ってくれた。
ショップには憧れのディズニーカチューシャがずらりと置いてあり、「そうそう!これが着けたかったの!」と友達と大はしゃぎで選び合い、それぞれ違うカチューシャを着けて集合時間ギリギリまで遊び倒した。
見るもの全てが新鮮で、可愛くて、キラキラしてて、時間とお金がいくらあっても足りなかった。
―東京の人はいいな。こんなキラキラした世界にいつでも行けるんだ。
私もいつか青森を出て、いつでもディズニーランドに来れる生活がしたいなと、漠然と思った。
そして月日は経ち、地元の大学で4年間を過ごした私は、同じ大学のOBだった夫と結婚した。
ちょうど勤務先が変更になった夫の転勤先は、神奈川県川崎市だった。
憧れの、『いつでもディズニーランドに行ける生活』ができるようになったのだ。
もちろん東京の憧れはディズニーランドだけではなかったので、渋谷、新宿、お台場など、有名どころは全部回った。
だけどやっぱりディズニーランドは特別。電車で1時間ちょっと、日帰りで行けるなんてそれこそ夢みたいだった。
その頃にはディズニーシーにも行っていて、「私はシー派だな」なんて思っていた。
1時間で帰れるんだからなおさら、開園から閉園まで思いっきり遊んでやる、と毎回意気込んでいた。
だけど、今になって思う。
あんな風に、微塵の迷いもなく「楽しいことが待っている」と確信できたことこそが、魔法だったのだと。
半年に1回はディズニーリゾートに行くようになって、2年ぐらい過ぎた。通算5回ぐらい行ったあたりだろうか。
猛烈に、飽きてしまった。ディズニーリゾートに。
中学生で初めて来た時は、何を見ても、何に乗っても予想以上で、全てが輝いていた。
だけど今では、全てが私の予想に収まるようになっていった。
シンデレラ城はいつでもそこにあるし、スペースマウンテンはいつでも暗くて速い(そしてしょっちゅう運休する)。
パレードはまあ季節によって変わるけど、“メンバー”は同じだ。
確かにスケール感やクオリティは本当にすごい。アトラクションもおもしろいし、スタッフもサービス精神旺盛だ。
だけど、それはもう私にとって『夢の国』ではなかった。
ディズニーランドとは、『日本の千葉県浦安市にあるサービス施設』であり、「お金を払って決まったサービスを買う」という意味では、私にとってはファミレスと大差なくなってしまったのだった。
こんなことを言うとディズニーファンに怒られるかもしれない。
きっと、ディズニーファンにとっては、毎回好きなアーティストのコンサートを見に来ているような感覚なのだろう。
アーティストが何をしようが、会えるだけで、そして彼らの舞台に入れるだけで、それはもう“特別”なのだ。
だけど、私はディズニーファンではない。
じゃあ何で私はあんなにディズニーランドに夢を見ていたのだろう。
それは、そこに“魔法”があると期待したからだ。
私を日常から連れ出してくれる魔法。
目の前が田んぼの実家でぼーっと生きていた私を、
やりたいことが見つからなくてやさぐれていた私を、
中身が空っぽの私を、
どこか別の、楽しいことだらけの世界に連れ出してくれる魔法があると期待したからだ。
そして確かに、私は魔法にかかった。
確かにそこには私の知らない『夢の国』があった。
だけど、世界を知っていくにつれて、魔法は解けていった。
12時の鐘が鳴る時…なんてそんなドラマチックな流れじゃなく、私の知識量に比例して、徐々に解けていった。
馬車はカボチャだったし、夢の国は金属とコンクリートの塊だった。
きっとそれは、『まだ見ぬ世界への憧れ』という魔法だったのだろう。
魔法をかけていたのは、他の誰でもない私自身だったのだ。
今まで私は、自分の夢をオリエンタルランドに託しすぎていたのかもしれない。
もう夢を見るのに誰かを頼るのは終わりにしようと思う。
夢も、それを超える現実も、自分自身で作らなければいけないのだ。大人なんだし。
“まだ見ぬ世界”は、自分の未来にしかないのだ。
夢は、ディズニーランドに行かなくても見れるし、叶えたらまた新たに自分で作れる。
制限があってはいけないのが夢の大変なところであり、良いところだ。
私の『夢の国』はまだ作り始めたばかりだから、ディズニーランドに辿り着いてさえいない。
多分今やっと舞浜駅に着いたあたりだ。
でも、死ぬ時にはディズニーランドよりもっと色んなアトラクションができて、乗り切れない位になっていれば良いなと思う。
私が死ぬ時に解ける魔法を、自分にかけよう。
予想もしなかった自分に、死ぬまで驚き続けたい。ビビディバビディブー。
***
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