聞いてみよう。家族の人生
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記事:小北采佳(ライティング・ゼミ日曜コース)
「おじいちゃんの弔辞を読んでもらえない?」
母から電話でそう頼まれた。
もう2年前になるが、祖父が亡くなったとの知らせを受けてすぐのことだった。
祖父は母の父だった。一緒に暮らしてはいなかったが、私は孫たちの中では頻繁に祖父の家に遊びに行っていたので弔辞を任された。
みなさんは弔辞を書いた経験があるだろうか?
たいていの場合は、故人の人柄や思い出、教えてもらったことなどを交えながら故人への思いを書くのだが、これはなかなかの大仕事だ。葬儀までの限られた時間の中で、故人の人生の締めくくりにふさわしい文章を書かなければならない。
亡くなる数か月前までには元気そうにしていた祖父の急な知らせにショックを受けながらも、ざわついた心を静めて祖父と過ごした日々を思い出した。
私が弔辞の構想を練っていると、母が「手伝おうか?」と言って、私の傍らで自分の父親がどんな人だったかを話してくれた。
「私が大学生になる頃まで、父さんは1年の半分くらいは家に居なかったのよ」
祖父は家庭を顧みず放浪していたのか? いや、そうではない。
祖父は山形で農家を営んでいたため、農閑期である冬の間は東京に出稼ぎに行っていたのだ。
そのため、春~秋までは山形で田畑を耕し、秋~冬の終わりまでは東京で労働する、という日々を何十年も送っていたという。当時私は祖父の孫になってかれこれ25年だったが、そんな話は祖父が亡くなってから初めて聞いた。
そういえば、私が遊びに行くと、祖父はあちこちの建設現場で仕事をしたことがあるという話をしていた。なぜその時もっと興味を持って話を聞かなかったのだろうか。
母の話を聞けば聞くほど、若い頃の祖父について私の知らない話がたくさん出てきた。本当に、私は「私の祖父になってからの祖父」しか知らないのだと痛感した。
祖父とは長い時間をともに過ごしたはずなのに、どうしてこんなに知らないことばかりなのだろう? 身近にいた家族に対して、自分がどれだけ無関心だったかを思い知らされるようだった。
母の話を聞いて改めて発見したのは、祖父と私は正反対の人生を送っているということだ。
祖父は生まれた時から使命が決まった人生だったのに対し、私は自由度が高い人生である。
祖父は山形の農家に9人兄弟の長男として生まれている。当時は長男が家業を継ぎ、家を守っていくことが当たり前であったから、生まれた時点で彼の人生はある程度方向付けられた。そのため、祖父は山形や家族、農業からは離れられない立場であった。祖父はその使命を全うし、生涯働いて家族を養ってきた。
私も山形出身だが、高校卒業と同時に山形を出た。職は自分の意志で転々とできるし、山形という土地や家族を養う義務に縛られることはなく、好きな場所で生活をしている。祖父とは対照的に、一つの場所にとどまりたくないという思いが強い。一つの土地で私の人生のすべてが完結してしまうと考えると、すごく窮屈な感じがしてしまうのだ。
ただ、自由な分、迷いも多い。この職場で働き続けて本当にいいのかとか、住むのにもっといい場所があるのではないかとか、よりよい選択肢を探してしまう。
祖父の生き方を知ってから、彼に聞いてみたいことがたくさん出てきた。
祖父が今の私と同じ20代の頃にどんな思いで日々を過ごしていたのか?
仕事にどのような気持ちで取り組んでいたのか?
祖父は自分の人生に迷ったことがあったのか?
そして、生前は祖父に人生相談なんてしたことがなかったが、私が今迷っていることや悩んでいることについて、意見を聞いてみたいと思った。
しかし、後悔先に立たず、である。
亡くなってからその人の人生に関心を持っても、遅いのではないだろうか。
祖父が生きている間にもっと祖父の人生について知ろうとするべきだった。そうすれば、祖父とより深い対話ができたかもしれない。
自分の家族の人生について知ることは、地元を観光することと似ていると思う。
身近にあり、いつでも訪ねることができると思うあまり、ついつい後回しにしてしまいがちで、積極的に知ろうとしないことが多い。
ただ、観光地はずっとそこにあるかもしれないが、家族はいつまでもあなたのそばにいられるわけではない。家族が元気なうちに、これまでの生き方や、家族の歴史についてぜひ話を聞いてみてほしい。
きっとあなたの知らない家族の一面を発見できるだろうし、家族をこれまでとは違った視点で見ることができるようになるだろう。また時には、あなたの生き方の羅針盤になってくれるかもしれない。
あなたも、家族の人生の奥深さを垣間見てみてはどうだろうか?
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