母の日の小さな発見
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記事:maika(ライティング・ゼミ日曜コース)
「ママー。お腹すいたー」
5月9日の母の日。
私はいつも通りキッチンで夕飯を作っていた。
パパもお休みの日曜だから、と少し遠くの公園で散々遊んでさっき帰ってきたのだ。
着替える時間もなく、急いで準備をしているのだが、たくさん遊んだ娘はお腹がペコペコらしい。
「ちょっと待ってねー。今作ってるから」
と、私は答える。
すぐに夕飯だから、むやみにお菓子を食べさせるわけにもいかない。
心の中に一瞬イラッとした感情が走る。
こっちは着替えもせず急いで作っているのに。今日は母の日なのに……と。
母の日、という言葉でふと自分の母に想いを馳せた。
そういえば、自分もよく母に
「お腹すいたー」
と言っていたなぁ、と。
朝起きた時。
学校から帰ってきた時。
習い事に行く時。
多くの人がこの言葉を母親に言ったことがあるのではないだろうか?
幾度となく繰り返されたこの言葉を思い返すと、いつも母は料理を作っていたり、運転していたりと家族のために忙しくしていた姿を思い出す。そんな事も考えずによく言っていたものだ。
きっと私の母も、そう言われてイライラしていたんだろうなぁ……。
「私の身体は一つしかないのよ!」
とよく母は言っていた。
その気持ちが、今になってようやくわかる。
母親になると、やるべき事が次から次へと出てきて身体がいくつあっても足りないと思うことばかりだ。
しかし「お腹すいたー」と言っていたあの時、私は母のことを責めているつもりは全くなかった。
もっと言えば、早くご飯やおやつを出してほしいという気持ちもあまりなかったように思う。
私はただ、お腹が空いたーという気持ちを母に伝えたかっただけなのだ。
母に対して食事の用意が遅いとか、早くしろということは考えていなかった。
だか母になると、この
「お腹すいたー」
という言葉が、
「早くご飯出してよー。まだ準備できてないの?」
という言葉に聞こえてくるのだ。
どうしても準備が遅い、早くしろ、と責められているような気がしてしまう。
もちろん早くご飯が食べたいという気持ちは
あると思う。しかし子供はそれよりも自分の今の気持ちをただ伝えたいだけなのではないだろうか?聞いてほしいだけなのではないだろうか?
そう考えると、先程のイラッとした感情がスッとどこかに消えていった。
私は無意識のうちに「お腹すいたー」という言葉を「早く準備してー」に脳内で予測変換していたのだ。
だから責められているような気がしてイライラしてしまう。
しかし子供はただ自分の感情を共有したいだけだとしたら、イライラすることはないだろう。
「楽しい」と伝えてくれる子供にイライラしないのと同じだ。
思えば、言葉の意味を予測変換することでイライラしてしまう事は日常の中にたくさんある気がする。
夫が何気なく言った
「これ片付けなくていいの?」が
「早く片付けてよ」に聞こえたり
上司が言った
「これで合ってる?」
という言葉が
「間違ってるから直して」
に聞こえたり……。
もちろんそういった気持ちを込めて言っている場合もあると思うが、ただの確認だった。なんて事も少なくない。
「お腹すいたー」という言葉に、それ以上もそれ以下もない。
予測変換はやめて、その言葉だけを聞くようにしよう。
きっと私の母も今の私と同じように「お腹すいたー」という言葉を予測変換していたのではないだろうか。
幼い頃、いろいろな場面で
「あなたも親になったらわかるわよ」
と、何度も言われてきた。
どんな事でそう言われたか、普段は一つも思い出せないのに、思い出すのはこんな時だ。
親になったら本当に気持ちがわかるもので、イライラしたり、あれは自分が間違っていたな、なんて思うこともある。
でもそんな時は子供の頃の気持ちも一緒に思い出すようにしよう。何か発見があるかもしれない。
母はちょっぴり嫌味も兼ねて「親になったらわかる」と言っていたのだろう。
しかし母が言っていた「親になったらわかる」を自分が子育てしていく中で確認していくのが少し楽しみになった。
今回発見できたのは、
言葉の意味を勝手に予測変換してしまっていた事。
子供がしたいのは、批判ではなく、気持ちの共有だった。
次からは
「お腹すいたよねー。ママもお腹すいたー!」と答えよう。
出来たての夕飯を並べながらそんな事を思った母の日だった。
***
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