この作者にしか書けない戦後を描く、青春ミステリーの傑作あらわる!
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記事:田中真美子(リーディング倶楽部)
「たかが殺人じゃないか」
もしも、あなたが誰かからそう投げかけられたら、なんて答えるだろうか?
そんなシチュエーション、遭遇したくは無いものだが考えてみてほしい。
人の命を殺めることが「たかが」と言われるなんてこと、想像したくも無いことだ。
この意味深で深刻な投げかけがタイトルとなった本格ミステリーがある。
それが辻真先氏作の「たかが殺人じゃないか」である。
日本国内の有名ミステリーランキングのタイトルを総なめにした傑作なので、ご存知の方も多いだろう。
・「このミステリーがすごい!2021年版」国内編1位
・週刊文春「2020ミステリーベスト10」国内部門1位
・ハヤカワ・ミステリマガジン「ミステリが読みたい!2021年版」国内篇1位
・「2020本格ミステリ・ベスト10」4位
本作は昭和二十四年、終戦直後の名古屋を舞台に、終戦後の学制改革によって新高校三年生となった、主人公のカツ丼こと風早勝利と、推理小説研究部、映画研究部の仲間の男女が登場する青春ミステリーである。
恐ろしいタイトルとは裏腹に、学制改革によって急遽男女共学となり、身近になった異性に戸惑いながらも興味が隠せない新高校三年生の面々の様子や、上海から引き上げてきた謎の美少女、咲原鏡子に対し淡い恋心を抱く主人公の心情が瑞々しく表現されている。
また当時流行った映画に関する蘊蓄も随所に登場し、戦後の名古屋の街中が克明に描写され、戦後の若者の流行と名古屋の様子をうかがい知ることができる。
これは主人公と同い年の御年89歳、名古屋出身の作者でしか書けないものであろう。
私は名古屋には縁があり何度も訪れたことがあるので、作中に登場するいくつかの地名に、戦後当時はこんな場所だったんだ、とイメージを膨らませながら読むことができた。
栄や大曽根、今池など名古屋に住む人なら馴染みのある地名も出てくる。
若者の爽やかな青春が描かれる中で、本格ミステリーにふさわしく事件は着々と進行していく。
第一の事件は夏合宿で出かけた温泉地で起きた密室殺人事件、第二の事件は台風が訪れる廃校で起きるバラバラ殺人事件。
そして殺人事件以外にも過去に咲腹鏡子の友人である野々村節が失踪し、日記が何者かに盗まれる事件も加わり、全ての謎が最後に一気に解き明かされて存分にカタルシスを味わうことができる。
そして、最後まで読むと恐ろしいタイトルに込められた意味が伝わってくると思う。
私は本作を読んで、過去に母方の祖父がつぶやいた言葉を思い出した。
大正生まれの祖父は、第二次世界大戦の終戦を中国大陸で迎えたそうだ。
敗戦後、祖父とともに戦った大勢の日本軍の兵士がシベリアに送られ、大勢の人が厳しい寒さと飢えによって亡くなった。
運よく祖父はシベリアに送られることなく、中国から日本に帰還することができた。
そのおかげで私の母が生まれ、私もこの世に生まれることができた。
兵士として戦地に赴いていた祖父に、戦争の話を聞くことはどうしてもできなかった。
きっと言葉にしたくないような凄惨な経験をしてきたであろう、そのような辛い経験を思い出させるような話を祖父に話させるようなことはできなかったのだ。
しかし、ある時実家で家族全員が集まった時に、誰が聞いたわけでもないが祖父が戦争の話をしたことがあった。
シベリア抑留を逃れた話もその時に祖父から聞いた。
私はその時祖父が言ったことを一生忘れることはないだろう。
「お国のためなら、死んでもいいと思っていた」
今を生きる多くの人と同じように、私は戦争を知らない。
戦時中の人々の価値観は、平和な今を生きる私たちには計り知れないであろう。
大勢の人が戦争で死んでいく世界、そしてさらに終戦後、GHQの改革によって今まで信じてきたことが一気に変わっていく世界。
そんな時代の流れに翻弄されながらも、ハツラツと精一杯生きている本作の登場人物たちが非常に魅力的で、この中の誰も犯人であってほしくない、犯人なんていなくていいって願ったほどだ。
しかしそこは本格ミステリーの宿命、探偵によって謎が解明され、犯人が明らかになるのだが、最後まであっと驚く仕掛けが施されている。
一体どんな仕掛けなのか、ぜひ本作を読んで味わってみてほしい。
***
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