今年の夏をスルメのように味わいたいと思う理由
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:今村真緒(ライティング・ゼミ超通信コース)
ついに、あと1週間を切った。
来週の日曜日、私たち夫婦には、ビッグプレゼントが待ち構えている。
どれだけ、この日を待っていたことか。
あと、1か月。あと、2週間。首を長くして、カウントダウンをする日々がもうすぐ終わる。
何をそんなに楽しみにしているかと思われることだろう。
何か当選したものが送られてくるのか、はたまた何かの記念日で、ゴージャスなディナーにでも行く予定なのか?
そうではない。実はその日、私たちが待ちわびている人が福岡に戻ってくるのだ。
その人物とは、我が家の一人娘だ。
4月から大学生になった娘は、親元を離れて東京で暮らしている。
生まれてこのかた、こんなに長い間離れたことはなかった。離れたとしても、せいぜい修学旅行やホームステイに行った期間ぐらいだった。
娘が去ってからは、しばらくぽっかりと胸に穴が開いていた。
どうしようもない寂しさに、涙が出てしまう時もあった。夫と2人きりの、急に活気を失ったこの空間で、これから先の何十年も生きていくのかと思うと、グンと老け込んだ気がした。
娘第一の生活をしていたツケが、一気に現れた。
もう晩御飯のメニューを決めるのも億劫だし、夫と共通のものを新たに見つけなくてはいけないことが負担になった。
シンプルに言えば、生きる気力を削がれていたのだ。
ひと月くらいが経った頃、娘とラインのビデオ通話で話す方法を知った。これは、私たち夫婦にとっては画期的な出来事だった。初めは、いわゆるテレビ電話など実際に会えるわけではないから、余計に寂しくなるものだと思って避けていた。
ところが、だ。現代のテクノロジーは素晴らしい。ほぼ時差なしで、会話が楽しめる。
まるで隣にいるかのように、生き生きとした娘の表情が伝わってきた。うわー、めちゃくちゃ楽しい。ついつい話し過ぎて、2時間くらい経ってしまうことはザラだ。平日だと寝るのが遅くなってしまうから、週末に定期的にビデオ通話をすることにした。
娘の様子が分かることで、私たちが喜んでいるのが伝わったのだろう。週末のビデオ通話だけでなく、娘は毎日自撮りを、ラインの家族グループに上げてくれるようになった。
「今、学校の課題中」、「今日のご飯」、「図書館でこんな本を借りたよ」、「○○ちゃんとズームで話した」など、ちょっとした一言を添えて、日々投稿してくれるのだ。
こんなご時世だ。娘の大学もオンライン授業となってしまった。ほぼ部屋にいることとなった娘だが、心配していたよりも新生活を楽しもうとしている様子が伝わり、親としては安心のレポートである。
ビデオ通話のたびに、夫は、夏休みにいつ帰ってくるのかと尋ねていた。ようやく日程が決まると、夫はすぐに飛行機の予約をしなければと浮足立っていた。その日のうちに飛行機のチケットが予約できると、夫はようやく落ち着きを取り戻した。
それからというもの、私たち夫婦の楽しみは、娘が帰ってきたら何をしたいかという計画を立てることに集中した。
娘が好きなものを食べさせてやりたいし、一緒に楽しいことをして過ごしたい。
まるで夏休み前の小学生のように、ワクワクが止まらない。そのことを話すと、娘は苦笑していた。
「私ももうすぐ会えることを楽しみにしてるけど、そんなにもう色々考えてるんだ」
当然だ。久しぶりに、娘の体温を直に感じられるのだ。嬉しくないわけがない。けれど、苦笑いをして画面に映る娘からも、まんざらではないことが伝わってくる。
本当に、一緒にいられることの有難味を、親子共々味わった数か月だった。
今までは、ずっとそばにいることが当たり前だった日々。失ってこそ分かるその毎日の尊さを、改めて実感した。
夏休みが終われば、また娘は東京に戻る。自分の未来に向かって、一人で頑張る日々が続くだろう。卒業して完全に独り立ちしたら、もっと会える機会が減ってしまうかもしれない。
だからこそ、帰ってくる機会をたくさん作ってほしいのだ。理由は何でもいい。夏休みだから、お正月だから、成人式だから。単純に、逢いたいから。
遠距離恋愛のカップルみたいに、なかなか会えない距離だからこそ、もどかしい想いが募る。
娘が帰ってくる当日は、空港まで夫と一緒に迎えに行くつもりだ。到着口から出てくる娘の第一声を、今から楽しみにしている。会えなかった寂しさと、久しぶりに会えた喜びで、きっと私たち夫婦の胸にも、じんわりとこみ上げるものがあるだろう。
今年の夏は、できる限り一緒に居ることの幸せを噛みしめたい。噛めば噛むほどスルメの味わいが口の中に広がるように、リアルな娘とのひとときを、一つ一つ実感し尽くしたいのだ。
***
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