メディアグランプリ

「て」は中年太り


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:寺島まきこ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「文字が綺麗だったらいいのに。」
これまで生きてきて、何度思っただろう。
年賀状を見る度に綺麗な文字の人に憧れる。手書きの文字は、印刷された文字と違って温かみがある。同じ文面でも心が伝わる。
でもそれは、文字が綺麗だという前提があってのこと。
 
中学生のころに一度、丸文字に憧れて練習したけれど、個性的な文字は変わらなかった。「才能がない」と一度は諦めたが、美しい文字への憧れは強く、大学生の時にはペン習字を習うことにした。
 
平日開催のペン習字はカルチャーセンターしか見当たらず、不安を抱えながら申し込んだ。
初めて参加する日、どんな人がいるんだろう。友達ができるといいな。久しぶりの習い事にワクワクしながら足を運んだ。
 
2階の4番の教室。
初めての場に足を運ぶときは、いつも緊張する。
2階に着くと、4番の教室に向かうまでの廊下で一度立ち止まり、深呼吸をした。時計を確認するとまだ時間があったので、引き返してトイレに向かい、鏡の前で髪を整え、再び深呼吸。
ドキドキする気持ちを隠しながら、教室に歩いて向かった。
 
「こんにちは」蚊の鳴くような声で、挨拶をしながら入った。
教室に入ると、60代以上のご婦人がたくさんいる。
「あ、教室間違えた!」
誰も私に気づくことなく、会話を楽しんでいる。気づかれないうちに教室を出て、ドア番号を確認。
「4」と書いてある。
 
あれ? ここ、2階じゃなかったのかな?
いや、階段は一つしか上がっていない。それならきっと、会場自体を間違えたんだ!
そう思い、送られてきていた案内を見直した。
 
やっぱり2階4番の教室と書いてある。
あ、ここで間違い無いんだ。
 
菓子折りのおせんべいの箱に、一つだけチョコレートが入っているような、大きな違和感を感じながら、仕方なく席に座った。
先生と私以外の生徒は顔馴染みのようで、お茶会でもしているかのように楽しそうに、会話が止まらない。
 
先生は、初めての参加者である私にも親切に教えてくださったけれど、年代という埋められない違和感に耐えられずペン習字は、この一回だけ参加して、文字が美しくなる夢は諦めた。
 
それから十数年。
子供が小学校に入ると、連絡帳のやりとりが出てきた。また私の個性的な文字を世間に晒さなくてはいけない。すっかり忘れていた、美しい文字への憧れがまた復活した。
しかし、ペン習字教室に大きなトラウマがある。私にはもう、誰かに習うという選択肢はない。
 
だからペン習字の本を買ってきた。
初めて開いた美文字の本は、実にロジカルだった。
 
例えば「て」という文字は、一角目は少しだけ上り坂で書く。
そして、中年太りのお腹をイメージして、丸みを帯びた部分は思い切って一画目の直線の真ん中まで突き出す。
しかし、太りすぎは禁物。真ん中あたりまでで止めよう。
終点は、突き出したお腹と、一角目の切り返しの真ん中あたりで終わる。
 
次は「な」
1画目の終点と、3画目の起点、その真ん中から下がったところから4画目をスタートする。
そして4画目の丸みを帯びる部分は丸ではなく、傾いたおにぎりをイメージしながら斜めに上がる。終点までの最後のラインは下がりすぎないように、横か、やや下り坂程度で下がっていく。
 
こうして、一つ一つの文字をロジカルな視点で分析しながら書いていくと、個性的だった文字が、美しい文字に近づいてくる。
 
文字がこんなにロジカルだったなんて、今までどこでも聞いたことがなかった。
小学校の硬筆でも、綺麗なお手本の文字を、ただ上から何度も書く練習か、正解もわからず、とにかく枚数をこなすことしか方法を知らなかった。勘の良い人ならそれでうまくなるのかもしれない。でも私はその方法ではダメだった。
 
今回知ったロジカルな方法なら、もしかしたら今度こそ、あこがれの美しい文字に近づけるかもしれない。
 
これまでの私は、レシピもわからず、がむしゃらに小麦粉と卵を混ぜてケーキを作っていたようなものだ。正解もコツもわからずに、どんなに頑張っても美味しいケーキにはならない。もしかしたら、改良を重ねるうちに美味しくなるかもしれないが、そこまでの道のりは長い。
 
文字だって同じだ。
何もわからず、とにかく書いているより、コツや上手になる方法を教えてもらった方が、はるかに上達が早くなる。
美しい文字のレシピを知った私は、文字を書くことが楽しくなってきた。
時々手紙を書いていた実家の祖母からも、文字が綺麗になってきたね! と褒めてもらえるようになってきた。
 
もし私のように美しい文字への憧れがある方がいたら、ロジカルな視点で文字を眺めてみてはいかがでしょうか。
 
 
 
 
***

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2021-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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