鬼ババアからの脱却アイテム
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:西元英恵(ライティング・日曜コース)
「な、なんだと。おれがおやぶんにきまっているだろ。それから、おれをイノシシさんってよぶな。よぶなら、イノシシさまとよべ。さま、と」
さっきからイノシシがイタチにケンカを売っている。
絵本の中の話だ。
夜8時。布団の中で絵本タイムが始まった。
子供たちに絵本を読み聞かせながら私はなんだか胸がスカッとする感覚を覚えた。
私自身の荒ぶる気持ちとイノシシの語気荒めのセリフがぴったりリンクしたのだ。
(この感覚、何かに似てる……)
あれだ、スマッシュが決まった時の爽快感だ!
スマッシュは打つタイミングとボールがラケットに当たる位置、相手コートへの落ちる位置すべてが揃わないと決まらない。私は部活動でテニスに励んだ遠い昔を思い出していた。
読み手の気持ち、読むタイミング、聞き手の反応……
イノシシのセリフはそれくらい条件が揃っていた。
それにしてもこんな悪態ついている嫌なヤツのセリフを言って、気持ちいいなんて私もどんだけ性格悪いんだろう。しかし、これにはちょっとした訳があるのだ。
次男2才はただいまイヤイヤ期のど真ん中だ。
この日も夕方にひと波乱あった。もともと何かにつけグズグズは言っていた。牛乳を飲みたいと言った彼のコップに牛乳を注いであげた、まではよかったのだが、何が気に入らなかったのかそのコップを持ったまま床を飛び跳ね地団駄を踏んで「やーだー!」と泣き叫んだ。
バッシャー! !
床いっぱいに広がる白い海。ひとつ大きくため息をつく私。
(きっと疲れてるのもあるんだろうな)
疲れている2才に本気で怒っても、と諦め床を拭く。するとまた牛乳の催促。
「ぎゅうにゅう、のみたい」
「飲んでもいいけどね、さっきみたいにこぼしたらダメよ」
こくん、と頷く2才。
こともあろうか念押しして注いだ牛乳がまた床にこぼれた時、さすがにイライラが込み上げてきた。
「もうっ! いい加減にしなさいっ! !」
心は大荒れだ。夕方はご飯の支度、風呂の準備、洗濯物の取り込み……一日の中でも一番忙しい時間帯であることが尚更ストレスを強く感じさせた。
聖母のように広い心で?
子供の成長はゆっくりと見守る?
本来のあるべき母の姿と言われそうなものから程遠い。どちらかというと私は鬼ババアだ。
ふんっ! 簡単に出来れば世話ないよ!
私の毒づきは収まりそうにない。
そんなこんなで迎えた夜8時の絵本タイム。
そこで登場した傍若無人ぶりが過ぎるイノシシの登場に救われたのだった。
他にも何かにつけ口が悪いイノシシとしてセリフを言うたびに気持ちがするするとほどかれていき、最終的に絵本を読み終わる時にはなんだかお風呂上りのようなスッキリした気分になっていた。ちなみに紆余曲折ありながらイノシシは他のお友達と仲直りし、みんなでワイワイ遊ぶシーンで幕は閉じた。
しかも子供たちが楽しめるお話とあって、途中子供たちはゲラゲラ笑ったりしていた。
おお、なんだWin-Winじゃないか!
私はこの日、この絵本をたまたま「読んで」と持ってきた長男に心の中で「ナイス!」と拍手を送った。そして聖母マリアまではいかずとも、鬼ババアからはしばし脱却して子供たちと安らかな眠りについたのだった。
絵本の読み聞かせは言わずもがな、幼少期の心の土台を作る重要なものである。しかし、この読み聞かせをしてあげる側、すなわち親の心の安定にも大変役立つという事が最近ではわかってきているようだ。
人気ゲームシリーズ「脳トレ」の監修でも有名な東北大学の川島教授もそれを研究で明らかにしている。約40組の幼児とその親に8週間の読み聞かせを行ってもらい、その活動を始める前と後ではどのような変化があったのかを調べるというものだ。
その結果、子供の情緒の安定はもちろん、親にもメリットがある事がわかった。
親の言うことを聞いてくれない、などから発生する子育てのストレスの軽減が見られたのだ。
(やっぱり!)
この記事を読んで私は頷いた。ストレス軽減にいたる直接的事由については書かれていなかったが思い当たる節があった。
子供は黙って聞いているが、大人は声を出して絵本を読む。
この「音読」がページをめくるにつれて、なんだかとっても気持ちよくなってくるのだ。
調べるとどうやら「音読」にはセロトニンを分泌する効果があるらしい。別名「幸せホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質だ。
どおりでストレスの多い日々の中でも絵本タイムが始まると、さっきまでプリプリしていた気持ちが薄らいでいくわけだ。嬉しい発見だった。
他の絵本でも母親の気持ちを代弁してくれるようなものが結構ある。
あるときはぶたのお母さんが「かあさんはいま、しずかにしていたいの。ひとりでいたいの」と突然のひとり時間を要求したり、イヤイヤ期の子供に向かって「それなら、ママもいやだっていうわ」と半ば脅してみたり……。
もちろんどの絵本もベースに子供に対する揺るぎない愛情があることが前提となっているが、こうしたセリフの数々に思わず「わかる、わかる」と首がもげそうなくらい縦に振りたくなるのだ。
こう考えてみると、絵本って子供の成長必須アイテムという表の顔をした大人のお助けアイテムという気がしてならない。イライラしたり、カリカリしたり、子育ては綺麗ごとだけでは済まない一面も持っている。そんなネガティブな気持ちを絵本たちが一気にふわっと別世界に連れて行ってくれるように感じさせられる。
これからもたくさんの絵本にお世話になりながら、鬼ババアから脱却するやさしい時間を持ちたいと切に願う。
***
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