父は偉かった 想像力は貯蓄額に比例する
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記事:橋本潔(ライティング・ゼミ集中コース)
「懐かしいな」
私は家族で昔住んでいた家の前にいた。
そこにいると当時の記憶が蘇ってくる。
ワクワクしながら玄関の鍵を差し込んだ。
その家は、父が若い頃に購入したもので、父の死後、私が相続した。
引っ越すまで家族で住んでいた。
庭には柿の木があった。
登って降りられなくなり父に助けられたこと。
今でも記憶している。
引っ越し後、父は家を売らなかった。
その理由は今もわからない。
父はその家を知人に貸した。
子供の私が何故貸したのか質問したことがあった。
父は、いつも、質問に対してすぐに答えを言わない。
「考えてごらん」
そういって、私に考えさせる。
私に考えさせ、想像させようとする。
私が答えられないところを見計らって、初めて父がその理由をいう。
それがいつもの父とのやりとりだった。
でも、子供の私はそのやりとりが嫌いだった。
小さい頃から考えるのが苦手で、せっかちだったからだ。
相続してしばらくの間、母から電話を受けた。
「たまには家を覗いておいたほうがいいんじゃない」
聞けば、借主は父がなくなる半年前に賃貸契約を解除していた。
相続してから半年が経っていたので、まる1年誰も住んでいないことになる。
「いつかはそこに住むのだから、ちょっと確認しとかないと」
私はそう思って、相続した家に向かった。
解錠し、玄関を開けた。
ボロボロになった床。
抜け落ちた天井。
歩くたびに舞う埃。
バサバサと天井を飛ぶ野鳥。
庭には、粗大ゴミ。
まるでゴミ屋敷だ。
懐かしい記憶が、一気に吹き飛んだ。
「これでは、住むのは無理だ」
私は工務店に連絡をとり、見積もりをとった。
「一千万円」
工務店が提示した金額に驚いた。
とてもすぐに用意できる金額ではなかった。
でも、このまま放置すれば、さらに老朽化し、費用がかさむのは明白。
貯金通帳には900万。
残り100万円足りない。
解体費用に相当する額だった。
「足りない分はなんとかしよう」
私は自分で家の解体をすることを決めた。
「リフォームが始まるまでに終わらせないと」
仕事が終わると、急いで家に駆けつけ、作業着に着替えた。
バールとハンマーで天井を剥がし、壁を壊し、解体する。
床をめくった時だった。
大きな水たまりがあった。
1平方メートル、深さが50センチぐらい。
「なんで、こんなところに水たまりが」
その原因を深くも考えず、解体を続けた。
これが後、大きな事件に結びつくとは、想像すらしなかった。
工務店のリフォームが終わり、新しくなった家に引っ越した。
住み始めて1ヶ月が経過した頃だった。
その年は台風の当たり年で、過去最高の降雨量を記録した年だった。
「バジャ、バジャ」
深夜の2時、その音で目が覚めた。
雨が屋根を叩きつける音かと思った。
「いや違う、何か音がおかしい」
メガネをかけて、起き上がり、音のする方に向かった。
音がするのは庭の方だった。
窓のカーテンを開けた。
急いで雨合羽を着込んで、庭に出た。
あまりの降雨で庭に水が溜まっていたのだ。
音は溜まった雨水が波打つ音だった。
溜まった雨水はもう少しで、床下の通風孔に侵入しようとしていた。
「もしかして、解体した時に見た床下の水溜りは、雨水だったのか」
そう想像するが、すぐ現実に戻った。
今は雨水を外に排出しないといけない。
雨水を桶で汲み、バケツに放り込む。
バケツが一杯になったら、道路の側溝に放り込んだ。
轟々と雨が降る。
雨水は一向に減らない。
今やめたら、床下浸水になり、家屋が損傷する。
雨が止むまで、作業を続けた。
後日、工務店に連絡し、雨水の排水処理工事を依頼した。
「見積額130万円」
もう、あんな体験はしたくなかったので、その金額で依頼した。
節約した100万円が消えた瞬間だった。
工事が始まり、柿の木がチェーンソウで伐採される。
遊んでいた柿の木が伐採された。
その木を見て、父とのやりとりを思い出し、考えた。
「父は『考えてごらん』ということで、想像力を育もうとしていたのかな」
「あの水溜りがなんで床下にあったのか、もっと想像力を働かせておけば。想像力を働かしていれば、100万円はまだ手元に残っていたかも」
100万円は手元から消えたが、父が残してくれたもの。
想像することの大切さ。
父へ。
この歳になって実感できたことに感謝しています。
***
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