アゲハの母になる
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記事:Hisanari Yonebayashi(ライティング・ゼミ平日コース)
9月に入り、時々冷たい雨が降ってくる季節になった。
朝、家を出る時、軒で羽根を休めているアゲハ蝶がいた。
アゲハ蝶の産卵シーズンは年に4回、1年で4世代も進む。
今の季節からいうと、このアゲハはきっと越冬した蛹から羽化した蝶の孫にあたる2021年の第3世代だろう。
卵で生まれてから約2か月で成虫になり、蝶になってからは2週間ほどの命だという。
卵から蝶になって羽ばたいていける個体数は1%にも満たないそうだ。
10年前の秋、僕はアゲハ蝶を卵から成虫、つまり蝶になるまで育てたことがある。
ベランダにあった観賞用の鉢植え山椒に黒い異物を見つけた。
良く見るとそれは何かの幼虫だった。
調べるとどうやらそれはアゲハ蝶の幼虫のようである。
チョウの幼虫は、まずは生まれてきた卵の殻を食べる。
それが終わると木の葉だ。
1㎜の卵から産まれた幼虫は1カ月半ほどで50㎜と50倍の大きさになる。
仕事は食べて大きくなって蝶になり子孫を繁栄させること。
とにかく食べること、その食欲は目を見張らんばかりの旺盛さだ。
卵を抱えた母は1つの場所にたくさん産むのではなく何度も移動しながら産んでいくそうである。
さらに、自分が食べて育った草木に産卵するのだ。
それは全て、生まれてくる子が食べるものに困らないようにという本能がそうさせているのだそうだ。
きっと山椒の木がなかなか見つからず、小さな観賞用の山椒だったがやむを得ずいくつも産んで行ってしまったのだろう。
「やっと、見つけた!! 後はお願いします」そうアゲハの母からの伝言が聞こえてきたような気がした。
予想はしていたとはいえ、観賞用の山椒の木はあっと言う間に数枚の葉を残し、ほぼ枝だけに! なってしまった。
困った僕はホームセンターを何軒も周り山椒の木を探した。
ようやく見つけたのは1鉢1500円で家にあったのよりも小さな観賞用の山椒が2鉢……。
こんな量では足りないけど他にないならしょうがない。
幼虫はもりもりと山椒の葉を食べる。
当然、1週間ともたない。
食欲旺盛な芋虫たちは山椒2鉢も枝を残し全てを食い尽くしてしまった。
唯一山椒が売っていたホームセンターに行ったが、「もう入荷はありません」とのこと。
困った。芋ちゃんたちがお腹を空かせて待っている!
調べると基本的に柑橘系の葉を食べるようなので、僕は庭植え用のみかんの木を買って帰ることにした。
何匹かは食べてくれたが、しかし、やはり食いつきが悪い。
ドンドン痩せていく幼虫……。
みかんの葉には全く興味を示さなかった芋ちゃんたちは残念ながら死んでいった。
僕は焦った。
ホームセンターはもう行きつくした。
もう山椒は売っていない……。
どこかに野生の山椒の木はないだろうか?
僕は朝から晩まで芋ちゃんたちと山椒のことで頭がいっぱいだった。
山椒……山椒……。
山椒の実とか粉はスーパーマーケットでも売ってるよなぁ……。
「はっ!」
「そういえば、山椒の葉は人だって食べるんだ!」
僕は期待を込めて野菜売り場へと行った。
「あった!!」
それは高級和食の煮物などに青の彩りと香りのために乗せられる「木の芽」といわれている山椒の葉だった。
スポンジに乗せられパックに入った少量の山椒の葉は一体芋ちゃんの食事の何日分だろう? しかも木の芽は春もので季節外れの秋では入荷量も少なく値段も高い。
1パック250円のをあるだけ全部!
その日からスーパーの山椒の葉は僕が毎日買い占めることになった。
いや、そのスーパーの入荷分では足りない! 別のスーパーをはしごして「木の芽」を買いに行った。
山椒で育った母の子はやはり山椒が大好き!
僕の食費をはるかに上回りながら、高級青菜を貪り食う芋ちゃんたち。
「もうないの?」と、スポンジの上で葉を探し回る芋ちゃんを見ていると可愛いやら、嬉しいやら、悲しいやら。
残念ながらすべての芋ちゃんを蛹にしてあげることはできなかったが、4匹の芋ちゃんが無事、蛹になった。
僕の財布を考慮してくれたのか、気温がそうさせたのか? 若干早めの蛹化であった。
そして、僕が育てた幼虫は4匹が蝶になって飛んで行った。
少し小さめの成虫だったが、ベランダの周りをクルリクルリと二周すると力強く秋の空へと。
きっと素敵なパートナーを見つけ、僕が必死になって探し回った山椒を僕と同じようにではないだろうが探して産卵するのだろう。
幼虫たちがおなかいっぱい食べられるような大きな、大きな木に産卵することを願った。
生態ピラミッドの低い方に類する生物の多くは子育てをしない。
それは、しないのではなくて、できないのである。
子育てなんて悠長な事を言っていると自分が食べられてしまうからだという。
僕は長く子育てに時間を費やす人間は弱い動物だなんて思っていた。
しかし、それは全くの逆で、とても強い動物だからこそ、じっくりと子育てする余裕があるのだということをアゲハの母になって知った。
今朝見たアゲハ、「あの時のアゲハの子孫だったらいいな」そう考えると、ふと心が温かくなった。
***
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