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エジプトは、ロマンと○○の国だった


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記事:久米 靖(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
みなさんは、「エジプト」と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべられるだろうか?
ピラミッド、ファラオ、ミイラなどなど、古代へのロマンを掻き立てられるものを想像されるのではないだろうか。
 
ボク自身もそうだった。
初めてエジプトを訪れたのは大学の卒業旅行の時。ほんの3日ほどの滞在で、パッケージツアーでお決まりの観光地を回った。
ギザのピラミッド、カイロの考古学博物館などだ。
 
エジプトに対して抱いていたイメージを損なわれることなく、憧れていた様々なものを見られたという感慨を持って帰国した。
だがそれは単に、「旅行者」として表面的なことに接していただけだったのだと、後年思い知ることになる。
 
ボクは旅行会社の法人旅行部門に勤めている。
数年前、某メーカーが販売店の方々を招待する旅行の行き先が、エジプトに決定した。
 
ツアーの催行は8月。真夏という気候面のリスクはあったが、メーカーの担当者の方も乗り気だった。
「普段なかなか行けるところじゃないですから。ピラミッドやスフィンクスなど、世界遺産をじかに観ていただくのはインパクトのあるツアーになっていいかもしれませんね」
 
招待旅行というのは、招待する側(メーカー側)の気の使い方が半端ではない。
観光、食事など全ての部分で通常のツアー以上の“特別感”が求められる。
 
“特別感”とは、「個人旅行では体験できない、サプライズ的な要素を持った何か」ということだ。
現地の手配業者との打ち合わせの結果、今回のツアーで提供できそうなのは以下の3つだった。
 
➀全員にピラミッドの中に入っていただく。
②スフィンクスの足の間に入る(通常は立ち入り禁止)。
③スエズ運河開通の際に建てられた迎賓館でパーティをする。
 
ぶっつけ本番では無理なので、様々な事前準備のため、約2ヶ月前にエジプトまで下見に行った。
そこで直面したのは、あまりにも理想とはかけ離れた現地のホスピタリティだった。

「ピラミッドの内部に入るチケットは、確実に手配できるんでしょうか?」
「いや、分かりませんね。政府が許可するものなので」
「スフィンクスの足元への入場許可は?」
「こちらも分かりません」
 
いずれも、全く目処が立たないという。
唯一、迎賓館でのパーティは開催できる見込みとなった。だが、こちらの意図を理解してもらうのも大変で、いたずらに時間が過ぎ、具体的な打ち合わせが全く進まない。
 
現地の担当者に言われた。
「久米さん、あなたの仕事のやり方はとても緻密でよいと思います。でも、エジプトでそれを求めるのは無理ですよ」
「……」
 
多くの課題を残したまま一旦帰国することになり、ボクはエジプトを提案したことを後悔し始めていた。
 
準備が遅々として進まないまま、7月を迎えた。
そんな中、さらに驚愕の事実を告げられた。
「今年のラマダンの日程が決まりました。ツアーの日程ともろに被っています。ラマダンの間は、レストランでお酒の提供が一切できません!」
「……!!」
 
ラマダンとは、イスラム教の断食月のこと。新月の観測によって行われるため、毎年日程が違うのだ。これがツアーの日程に被ってしまった。
ラマダン中、イスラム教徒は日の出から日没までの間、一切の食べ物を口にしない。せいぜい、
水で口を濡らす程度だ。そしてお酒は禁止である。
 
もちろん、イスラム教徒ではない旅行者はラマダン期間中も普通に食事ができる。ただ、その期間はレストランでの酒類の提供が一切停止されてしまうのだ。
これは大問題だった。招待旅行でお酒を提供できないなど、あり得ないことだ。
 
「一つだけ、方法があります。高級ホテルのレストランでは、旅行者に対し、ラマダン期間中もお酒の提供が認められているのです」
つまり、エジプト滞在中は昼食も夕食も全て、ホテルのレストランを渡り歩かなければならないということだ。
 
この問題と、未解決の様々な課題に対処するため、7月も半ばになってボクは再びエジプトへ飛んだ。
本番での食事場所は、なんとかカイロ市内のホテル数か所で設定し直すことができた。
 
ただ、“特別感”を出すために計画した二つのことは解決しないままだった。
「久米さん、一つ方法があると思います……」
現地の担当者は、少し言い出しづらそうだった。
「……一定の額を提示して交渉してみると、許可が降りるかもしれません」
「……つまり、賄賂っていうことですか? でもピラミッドやスフィンクスを管理しているのはエジプト政府なんじゃ……」
 
政府に賄賂を支払う……。
日本で普通に生活しているボクには、それは“犯罪”だという認識だった。
しかし、実は現地の業者との間を取り持ってくれている日本の手配会社からも、その可能性は示唆されていた。
 
もはや賭けるしかない。各関係者に働きかけて了承を得た。
追加で支払った金額は数十万程度。想像より安い。お金の価値が違うのだ。
 
8月。
ツアーは無事に出発し、ピラミッド内部への入場や、スフィンクスの足元への立ち入りも含めて順調に進行した。
 
そして迎えた最終日。
最後のパーティの直前、事件は起きた。
 
迎賓館でパーティの準備をしていた時、突如7名ほどの警官隊が踏み込んで来たのだ!
次の瞬間ボクたちに飛びかかり、使っていたトランシーバーを次々に没収していった。
 
あっという間の出来事で、何が何だかわからなかった。
「責任者は誰か? 警察まで来てもらう!」
 
トランシーバーを使うには許可が必要で、無断で使っていたことが問題だというのだ。
責任者といえば、ボクか上役のどちらかだ。
ただ、どちらかが勾留されるとパーティの運営に大きな支障をきたす。単なる会食ではなく、実はわざわざパリからオペラ歌手を呼び、エンターテイメントの段取りも組んでいた。
現場の仕切りを把握しているのは、ボクと上役の2名だけだったのだ。
 
上役の決断は、ある意味非情なものだった。スタッフとして同行し、パーティの運営に直接関わっていないH君を差し出したのだ。
「……わかりました」
全てを受け止めて、H君は警官に連れられて行った。通訳のため、ガイドも同行した。
 
トランシーバーは一切使えず、しかも建物内にいる警官に見張られながらも、パーティは何とか成功裏に終わった。
 
H君はその日の深夜になって、疲れ果てて戻ってきた。
現地の担当者に聞いた。
「どうやって、解放してもらったんですか?」
「……15万円ほど、支払いました」
(警察にまで……!?)
 
こういう国なのだ。日本人の尺度で計ってはいけない。これがある意味この国の常識なのだと思った。
あらためて驚きながらも、ボクは決してエジプトを嫌いになったわけではなかった。
街中で感じる混沌、市場でひっきりなしに声をかけてくる人々のエネルギー、そしてあらゆるところで通用するワイロ……。
これら全てがエジプトなのだと、納得した。
 
帰国の日。
ボクたちは複数個の大きな荷物を持っていた。ツアーで使った備品類だ。
航空会社の規定内に収まるよう数人で分担していたが、はたから見るとそこだけ目立っていたのだろう。
空港の荷物検査の管理官が声を荒げた!
「Wait! Wait!!」
ボクは手に握っていたエジプトルピーの紙幣をそっと手渡した。
「……Oh! Thankyu!」
管理官はニッコリ微笑んで、通してくれた。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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