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「なるべくステロイド外用薬って使いたくないんだけど」という人に読んでもらいたい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤瞳子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「なるべくステロイドでないもので処方してください」
患者さんから言われると、これは時間をかけて説明しないといけないぞ、と私は椅子に座り直して、ステロイドについて説明します。
 
私は医者になって14年目、皮膚科医になって12年目、クリニックを開業して5年目になります。1日100人ほどの患者さんを診ていますが、おひとりの診察にかけられる時間は3分から4分程度しかありません。それでも、ステロイドについてこのように言われた時には、他の患者さん達をお待たせしたとしても、しっかりと説明することが、大切だと思っています。
 
年に何回か、初めて当院を受診される方で、かなり状態の悪くなってしまったアトピー性皮膚炎の患者さんが来院されます。顔を含めた全身が真っ赤で、ところどころ皮膚が剥けて傷になり、黄色い汁がでて、肌着が汚れてしまっています。診察中もずっと体のどこかを掻いていて、相当痒そうです。ステロイドを塗りたくなくて、ワセリンだけ塗っていたけれど、どんどんひどくなってきた、と言います。全身真っ赤になるくらいひどく炎症を起こした状態を、「紅皮症」といいますが、全身やけどをしているのと同じような状態です。皮膚は汗をかくことで体温の調節をしていますが、その皮膚が機能しなくなると、体温調節ができなくなり、発熱してしまうことだってあります。
「どうしてステロイドを塗りたくないのですか?」
「ステロイドは体に良くないと聞いたので」
「どう良くないと思いますか?」
「それはよくわかりませんが、前の病院であまり塗りすぎないようにと言われました。」
ステロイドはあまり良くないものだ。
そう思われていることが多いようですが、上手に使えば悪いものではなく、短期間塗るだけで、症状をこじらせずに良くする事ができます。
 
ステロイドにはまず、内服(飲む薬)のステロイドと、外用(塗る薬)のステロイドがあり、それぞれで副作用は異なります。
 
飲み薬のステロイドの副作用は確かに沢山あります。高血糖、高血圧、胃潰瘍、抑うつ状態、食欲亢進、骨粗鬆症、緑内障、満月様顔貌(顔がお月さまの様にまん丸くなってしまう)などです。しかしこれらの副作用の多くは長期間(数ヶ月単位で)内服したときに起こるもので、短期間(数日、1ヶ月以内)であれば、このような副作用がでることは少ないです。炎症をスパッと早く治したい時や、必ず治るという見通しの立つ皮膚炎の時(例えば毛染めをして頭皮がかぶれてしまった時は、毛染めをしなければ再発せずによくなると見通しが立つ)には私も3日間から1週間ほど内服のステロイドを処方することがあります。よく効くからと言って、何ヶ月も漫然と内服していると、副作用は出てきてしまいます。ステロイドを長期間内服する必要のある病気もあります。その場合は副作用の予防のために、胃薬や骨粗鬆症の予防薬を一緒に処方し、眼科に定期的受診してもらったりします。
 
一方、塗るステロイドでは、皮膚萎縮(皮膚が薄くなる)と毛細血管拡張(細い血管がクモの巣のようにもやもやと目立ってくること)、細菌、ウイルス、カビなどが増えてしまう、という副作用がでることがあります。
お年寄りの腕に赤黒い内出血があるのを見たことがありますか?加齢によって皮膚は薄くなってきて、ぶつけた覚えがないくらい、ちょっと腕がぶつかっただけでも、簡単に内出血してしまうようになります。これは加齢により、血管の周りにあったクッションになる組織がなくなってしまったことで、ごく軽い刺激でも血管が破れやすくなってしまうためです。ステロイド外用薬を長く塗っていると、お年寄りの皮膚のように、皮膚が薄くなってきてしまいます。そして細かい血管が目立ってくるようになります。とくに頬に強めのステロイドを数ヶ月塗り続けていると、お子さん頬などでは特に出やすいです。このようにして目立ってしまった血管はなかなか消えません。これは皮膚の炎症に合った強さの薬を、適切な頻度で塗ることで予防することができます。
 
多くの方がステロイドに抵抗感があるのは、この飲むステロイドの副作用のことを心配されているのではないかと思われます。塗るステロイドと飲むステロイドの副作用は違うのです。また、妊娠中のお母さんがステロイドを外用しても、お腹の赤ちゃんには影響はありません。
塗るステロイド処方する時、選んでいるのは強さです。
ステロイド外用薬には強さが5種類あります。
①ストロンゲスト(1番強い)
②ベリーストロング(2番目に強い)
③ストロング(中くらい)
④ミディアム(やや弱い)
⑤ウィーク(弱い)の5段階です。
皮膚の炎症の強さがどの程度で、どれくらいの強さのものを、どれくらいの期間使うのかがポイントです。ドラッグストアで購入できるのはこの③から⑤になります。
では全身真っ赤になり、やけどのようになった患者さんに使うのはどの強さか。
私なら②の強さのステロイドをたっぷりと外用することを選びます。
 
患者さんのお薬手帳をみると、他院で処方された薬が書いてありますが、②の強さのステロイドが5gの小さなチューブで1本だけしか出ていないことがあります。全身に塗るにはとても足りません。私は患者さんに説明するとき、皮膚で起こっている炎症は火事のようなもので、ステロイドはその火を消すことができる水のようなものだと説明しています。全身真っ赤な患者さんの皮膚は、もう山火事の状態です。山火事に、消火器1本(5gの小さなチューブ)で立ち向かおうと思っても、無理がありますよね。消防車10台、ヘリコプターも動員しないと山火事は消すことはできないでしょう。なので、私は②の強さのステロイドを100gから200g処方して、1日2回塗るように伝え、1週間後にまた来て下さいとと伝えます。これに弱いステロイドの④を100g使ってもだめです。100人集まっても、その100人がひしゃくで水をかけても、山火事は消せませんよね。消防車からすごい勢いで水をかけないと効果はありません。
大事なのはステロイドの強さと量なのです。
山火事がおさまってきたら、部分的にまだ消えていないところに消火器を使ったり、消火できたようなところには、ひしゃくで水をまいて、見回りをするように変えていけばいいのです。つまり、皮膚の炎症が良くなってきたら、ステロイドの強さを弱くしたり、塗る回数を1日2回から1回に減らしたりしていきます。
皮膚で起きている炎症がどの程度の火事なのか、水はどれくらいの強さで、どれくらいの量をかければ鎮火するのか、そんなイメージで強さと量を選ぶとわかりやすいでしょう。
ステロイドの使い方についてイメージできたでしょうか。
 
適切な強さ、適切な量を塗れば、皮膚の炎症はよくなります。
よくなったら、もう強いステロイドは必要ありません。
ただ、良く効いたからと言って、ずっと漫然と使い続けてしまう患者さんがいます。
1週間後来てくださいね、と伝えても、良くなると来院されない患者さんがいます。でも処方したのは、最初に来院された時の、強い炎症の状態に合わせて処方した薬なのです。1週間後、良くなっていたら、続きの薬は弱くしたり、またはもう治ったので、塗らなくてもいいのか、判断するために来院してほしかったのに。患者さんはというと、良くなったので、すっかり病院に行くことを忘れて過ごされているのでしょう。でも塗らなくなって数日すると、また皮膚の炎症がぶり返してきます。実は火事をまだ鎮火できていないのに、水をかけるのを急にやめてしまった状態ということがあります。そうすると、くすぶっていた火がまた燃えてきて、火事が始まります。患者さんはこの前もらった残りの薬をまた塗るでしょう。良くなります。今度は塗るのをやめるとでてくるので、良くなっても塗り続けるようになります。そのうちに薬が底をついて、薬を取りにやっと来院されます。その時にはすでに2ヶ月が経過していることもあります。半年、一年塗り続けていた、なんていうこともあります。処方したのはかなり強い薬でした。患者さんはそれを顔にも塗ってしまっていました。よくみると頬にはクモの巣のような血管が出てきてしまっています。そう、副作用の毛細血管拡張です。こんな風に強すぎる薬を長期間、漫然と塗り続けていると、副作用がでてしまうことがあるのです。なので、再診にくるようにと言われたら、必ず受診して頂きたいのです。
 
何年も皮膚科に通っていると、沢山の種類の薬が処方されます。
これは足を虫に刺された時、これはあせもを掻き壊してジクジクしてしまった時、これは顔の虫刺され、これは体が乾燥して痒かった時。先発品だったり、ジェネリックだったり。容器だったり、チューブだったり。段々どれをどこに塗ったらいいのかわからなくなってしまうでしょう。患者さんには処方された薬が、一体①から⑤のどの強さの薬なのかを、知っておいて頂くといいなと思います。
 
私のクリニックには小さなお子さんも沢山いらっしゃいます。開業した当時赤ちゃんだった子が、今ではもう5歳になります。沢山のお子さん、親御さんと関わるうちに、思うことがあります。
お子さんの肌のコンディションは毎日変わります。暑くて汗をかいてあせもがでたと思ったら、今度は虫に刺されて水ぶくれができ、それを掻き壊してとびひになったり。保育園でオムツ替えが遅くなってしまい、お尻がかぶれてしまったり、それがただのかぶれと思っていたら、今度はカンジダ菌が原因のカンジダ皮膚炎になってしまったり。新しい症状が出るたびに、親御さんは仕事を休んでお子さんを病院に連れて来られます。月に3回も4回も来院されることだってあります。1ヶ月に1回程度、足りなくなった薬をもらいに行って、毎日皮膚の状態をみている親御さんが、お子さんの症状にあった薬を選んで塗れるようになってくれること。親御さんが、お子さんの肌トラブルの皮膚科医に(それも名医に!)なってくれることが、私の願いです。
 
ステロイドの塗り薬は上手に使うことができれば、決して悪いものでもコワイものでもありません。
あなたの持っている薬は何番目の強さの薬でしょうか。
今度皮膚科に行ったら聞いてみてくださいね。
 
 
 
 
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2021-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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