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父の小言に感謝する日


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記事:南部明子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「なんで、そんなん言われなあかんねん。お義父さんは子育てには絶対口出ししないのに」
 
父の孫への小言に正直ムカついていた。
 
私は実家に近くに住んで働いている。夫は単身赴任で不在という事もあり週に2回実家で夕食を食べる事が習慣になっている。
 
毎日会社を18時出る。18時30分に小2の長男を学童に迎えに行く。更に保育園に4歳の次男を迎えに行くと19時。残業しているわけではないが、仕事の後に男子2人を相手にしていると色々と面倒になってくる。
 
実家で夕飯の日は、配膳の手伝いはするが食べて食器を下げたらそのまま帰る日々が習慣になっていた。子供は実家に着くと手洗いだけしてタブレットに直行。ゲームの実況動画にくぎ付けだ。ご飯の準備をするときは静かなほうが良いので好きにみさせていた。食後も食器だけは下げさせてまた動画。
 
洗い物は最近父がやることが当たり前になっていた。父は4月から今までやっていた仕事から半ば引退し、夕飯の時間にいることが多かったからだ。母は最近認知症の一歩手前で家事がだんだん億劫になっている。というのもあった。
 
悪いなとは思っていた。その反面、半ば引退した父に「やる事」があるのはいいことだろう。何も言わないし、やりたいってことだろう。とも思っていた。
 
だがしかし、全然そんなことはなかったのだった。
 
ある時から父が目に見えてイライラとしだした。たまに子供のお迎えに車を出してくれるのだが、その時の子供の言葉遣い。態度も注意するようになった。
「じぃじにそんな言葉遣いしたら承知せえへんで」「車から降りてもらうよ」
「手伝いなさい」急にそんなこと言われても小2の息子はあまり理解できず「怒られてる」という事だけ伝わった。腹を立てて反抗的な態度を取り全然効果が無かった。
 
そして不機嫌な父は更にわたしにもこう言ったのだった。
 
「このままやったら、大人になったときに〇〇が困るで」
 
不機嫌が数日続いていたので、父の言い方も明らかにイライラしていた。私もムカついた。余計なお世話だ。
「うちの子の教育は親の責任やから口、出さんといて」って言い返そうか。これを老害というのではとも思った。
 
次は文句言われないようにやったるで。私は闘志を燃やした。
 
次の実家で夕食の日、上の子に「ばぁばはみんなのためにご飯を作ってくれてはる。じぃじは年がいってはるのだから、じぃじにだけ片付けしてもらうのは良くない。協力して出来ることはやろう」と言い聞かせた。
ゲームは全部後片付けが終わってから15分。と決めた。
 
できるんだろうか。と思っていたのだが、上の子は勿論、下の子も案外あっさりと言うことを聞いた。言えば出来るんだということに驚いた。
今まで言わなかった自分の至らなさを反省する。
 
食器の配膳準備、終わった後の食器を下げる作業。案外一生懸命やっている。そして私が食器を洗う。と言っても食洗器があるので、食洗器に入れる。入りきらないものは手で洗う程度だ。更にその日は床が汚れていた。上の子にお願いしてマキタの掃除機をかけてもらう。ハンディータイプなので簡単で楽しい様子だった。雑巾がけも言ってみたらこちらも問題なくやってくれる。ほめて、ほめて、ほめまくる。「すごいね。お掃除博士だね」と。そうすると下の子も「僕はお掃除博士の助手です」と釣られて手伝いだした。キッチンはピカピカ。床もピカピカ。よし、これで父から文句は言わせないぞ。私は結構な達成感を感じて実家を後にしたのだった。
 
翌朝に父からLINEが来た。
 
「台所ピッカピカ!専門の掃除屋さんより綺麗!気持ちいい。ありがとう」
 
そうでしょうとも。ホホホホホ。私たち親子はやれば出来るんです。
 
何となく調子に乗り、それ以降も後片付けを続けた。そうすると、最近は色々と意欲を無くしている母も後片付けに加わるようになった。
子供が食器を下げ、私が食洗器に。シンクだけでなくコンロも磨く。母が食器を拭いている。子供がご褒美のタブレットを15分見ている間に最後の仕上げをする。みんなで片付けして台所が綺麗になる。何とも言えない一体感と達成感が感じられる。
 
父は私たちが片付けを始めた当初は部屋に引っ込んでいた。しかし、最近はそれも手持無沙汰なのか、片付け部隊に加わるようになった。
私が忙しそうな時は「やっとくから帰っていいで」という気遣いも見せてくれる。
 
父の言葉にムカついて「やったるで」と思ってから2か月半がたった。子供はタブレットの誘惑に負けて最近「先に見せて」という事が増えてきたけれど片付けはみんなでやれている。
私は裏目標を「来た時より綺麗に」にしてコンロまで磨く日々だ。
 
父に言われるまで疲れているからと子供がタブレットばかり見ていても何も言わず、ご飯を食べて帰るだけだった。今のほうが断然達成感がある。子供たちもお手伝いのスキルが上がってきた。
 
当初ムカついた父の言葉に感謝。老害もいいね! この調子で元気で長生きして下さい。

 
 
 
 
***
 
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2021-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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