イケメンはいつどこで現れるかわからない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:川端彩香(ライティング・ゼミ10月コース)
人生、いつ何が起こるかわからない。
事故にあってしまうかもしれないし、好きな人に知らぬ間に彼女ができてしまっているかもしれないし、住んでいる家に親が急に襲来してくるかもしれない。
そしてたまたま帰省していた日曜、虫垂炎になり救急に駆け込むこともあるかもしれない。これは私の話である。
26歳秋、ある週末を実家で過ごしていた。特に用もない帰省だった気がする。ひたすらにゴロゴロし、当時存命だった愛犬を追いかけまわして、いい歳なのに母に怒られていた。そして愛犬には嫌がられていた。
翌日、胃が痛くて目が覚めた。私は高校生くらいから主にストレスで胃が痛くなることが多かったが、最近はマシになっていた。あー、久しぶりに胃が痛んでいるなー、と軽く考えていた。
胃薬を飲んで寝たら治るのがお決まりのパターンだったが、起きても痛みは治まらない。むしろ悪化している。母と妹たちには「大袈裟やな」と一蹴された。いま思い返しても冷たい人たちだ。
「頼むから病院に連れて行ってくれ……」と喋るのもつらい私が頼み込み、父が連れて行ってくれた。車の揺れもつらい。気を紛らわせてくれようとした父がやたらと喋りかけてくる。そして「聞いとるんか」と相槌を強要してくる。勘弁してくれ……。
別の意味での悪夢は病院に到着してからだった。
当直の先生が、私好みの塩顔イケメンだったのである。
「え、めっちゃイケメンやん」「あ、やばい。ムダ毛処理してない」と私が思ったのはほぼ同時だった。スキンケアもしていない、冷や汗と油でギトギトの顔面だったということも付け加えておく。
女性の皆さんには激しく共感していただけると思うのだが、ムダ毛処理というものは非常に面倒くさい。脱毛サロンに通ってはいたが、ムダ毛というものは本当にしぶとく私の身体に住み着いていた。当時は彼氏もいなかったし、秋ということで肌の見える範囲が狭くなっていたので完全に油断していた。だが時すでに遅し。「ちょっとお腹触りますねー」と、イケメン先生による触診が始まった。本当に帰りたかった。先生の視力がめちゃくちゃ悪くて、私のムダ毛やギトギト油の顔面があんまり見えていませんようにと願うしかなかった。
触診の間、後悔しかなかった。なぜ私はいつ何時起こるかもしれないイケメンとの遭遇に備えてムダ毛を処理していなかったのか。せめて病院に行く前に顔くらい洗えなかったのか。なぜ寝間着と化している高校時代の体操着のまま来てしまったのか。
そんなことをぐるぐると考えても仕方がないのだが、そんなことでも考えていないと「イケメン先生に触診されている清潔感のない汚い私」という悲しすぎる現実を真っ向から受け止めないといけなくなってしまうため、後悔、そして汚い私を触診しなければいけない先生に対する懺悔でひたすら頭をいっぱいにした。
点滴を打っていると、妹が来てくれた。彼女は「先生めっちゃイケメンやん」とテンションが上がっている。続けて私を見るなり「え、汚いな。なんでムダ毛処理してないん? 顔洗った? 先生イケメンやのに残念すぎるやろ」と言い放った。
正論でぐさぐさと私の心を刺してくる。だが私もまったく同感である。本当にそう思う。異論はない。だからもう私を傷つけないで……。
点滴で痛みが治まったので、手術はせず、薬で散らすという方法で虫垂炎を治すことになった。このイケメン先生と会うことは今後ないはずだ。少し悲しいのは、イケメン先生に「いい歳して汚い身なりの女の患者がやってきた」と思われたかもしれないということだった。いや、絶対思っているだろう。どうせなら可愛い女の子が来た方が良かったに決まっている。可愛い、可愛くない以前に、清潔感のない女が来てしまって、本当に申し訳ない。
イケメンはいつどこで現れるかわからない。神出鬼没である。私のように病院に駆け込んだら先生がイケメンだったということもあるかもしれないし、新規の取引先の担当者がイケメンかもしれないし、もしかしたら街中でイケメンが声をかけてくれるかもしれない。イケメンとどうこうならなくても、少しでも良い印象を与えたいと思ってしまうのは何故なんだろうか。ある種の本能なのかもしれない。
その日以降、私は身なりに気を付けるようになった。イケメン先生の時のように、汚い面で誰かに会いたくないという気持ちが大きい。
冬でもできるだけムダ毛処理を怠らないように心がけ、誰とも会わない休日でも顔を洗ってスキンケアだけは最低限するようにしている。一人暮らしなので家には誰もいないが、鏡で自分を見た時に「きったねぇ……」とテンションが下がらない程度には気を付けるようになった。
営業という職種柄、ある程度の綺麗な見た目を保つのも仕事の一つだと思い、メイクも研究した。会社の代表として取引先と接するので、最低限の清潔感は必須である。
イケメン先生の触診から3年ほど経った。あれ以降、予期せぬイケメンとの遭遇はない。だが今後、いつ何時、私の前にイケメンが現れるかはわからない。マスク生活が続いていることもあり、最近肌荒れがひどい。早急にどうにかしなければならない。
彼らは神出鬼没だ。私に気を緩める時間はない。
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