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もう会えなくても笑顔でいられる理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:須賀泉水(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
大人になってから、共通の趣味がきっかけでできた友人がいる。
私より一つ年上の彼女の名前は、ゆりこさん。
初めて会ったのは、表参道ヒルズにあるお洒落なレストランだった。
 
ゆりこさんとの共通の趣味は、スイーツお菓子全般。
当時、自宅でお菓子教室の講師をしていた私は、ケーキの世界大会で優勝した、尊敬する日本人パティシエのブログの読者だった。ある日、そのブログにこんな投稿があった。
 
「お菓子の学校を作るために、意見をお聞かせいただきたい。お菓子に関わるお仕事をしている方、一緒にお食事しながらお話しませんか?」
 
場所は、私が住んでいる大阪からは遠く離れた東京、表参道ヒルズ。
憧れのパティシエさんと、お菓子について話ができるチャンス! 絶対に行く!
迷わず参加を決めた。が、新幹線に乗って向かった東京では、道に迷いすぎた。
秋なのに、到着できた時は汗だくになっていたことをよく覚えている。
 
汗を拭きつつ、とても緊張しながら案内されたのは、全部で10席用意されている個室だった。参加者は全員が面識のない者同士。無言の気まずい空気が流れている。
 
息が詰まる……
こういう空気が苦手な私は、無駄に明るくその場にいた全員に向けて話しかけてみた。
 
「こんにちは。みなさん東京の方ですか? 私、大阪から来たんですけど、道に迷っちゃって大変でした~」
 
すると一人の女性が、授業中に発言をする小学生のようにまっすぐに右手を上げて。
「はい! わたし神戸から来ました! 私も道に迷いました!」と会話を繋げてくれた。
それがゆりこさんとの初対面だった。
 
初対面のシーンをこんなに鮮明に思い出せる知り合いは、ゆりこさんしか思いつかない。
気まずかった場の空気を明るくしてくれたゆりこさんは、私にはキラキラと光って見えた。長い黒髪のせいもあってか、突然目の前に現れたかぐや姫のようだった。
 
地元が同じ。好きな野球チームが同じ。血液型が同じ。など。
人はちょっとした共通点を見つけるだけで、初対面でも妙に親近感が湧くもので、私は表参道ヒルズのお洒落なレストランで出会った関西人のゆりこさんの存在にとても安心した。
 
楽しいお食事会を終え、ゆりこさんとは連絡先を交換してそこで別れた。帰宅後、「今日はありがとう」という内容のメールをお互い一往復して、その後しばらく連絡を取ることはなかった。
 
年が明けて一月。バレンタインのイベントで、ゆりこさんとの出会いのきっかけとなったパティシエさんが大阪へ来ることがブログで知らされた。ゆりこさんと再会できたのはそのイベント会場だった。
 
パティシエさんも、関西からわざわざ東京まで来ていた二人を覚えていてくれて、「今度ゆっくりご飯行こうよ!」と、連絡先を教えてくださった。
 
それ以降、お互いのSNSにコメントをしあうなどのやり取りをしながら、毎年バレンタインシーズンになるとイベント会場で会い、パティシエさんも一緒にお食事に行くというお付き合いを、10年以上続けていた。
 
ある年のバレンタインシーズン。一年ぶりに会ったゆりこさんは、「どうしたの?」と聞いてよいのかもわからないほどに痩せていた。聞けない私の気持ちを察してか、その日の別れ際、ゆりこさんから話をしてくれた。
 
「実は病気になってね、余命宣告されちゃった。あと半年だって。でもね、私死なないから来年もまたここで会おうね」
 
私は言葉が見つからず、「うん。また来年もここで会おうね」と、ゆりこさんと同じ言葉を繰り返すしかできなかった。
 
それ以降、ゆりこさんのSNSでの発信内容がガラッと変わった。
 
私は好きなことだけして生きていきます。
やりたいことは全部やります。
ミュージカルやってみたかったので、仕事辞めて劇団に入りました。
人のことをかまっている暇はないので、SNS発信はしますが人の投稿は見ません。
 
彼女の病気のことを知らなければ、かぐや姫がドキンちゃんになったのか? と思ったに違いないほどの変わりようだった。
 
病気になってからのゆりこさんは、自分の気持ちに正直に、命がけで毎日を充実させているように見えた。そのかいあってか、少しずつ元気になっているように思えたほど。
そしてその姿は、命は一人一人に与えられた大切な時間なのだ。それをどう使うのか? を私に考えさせてくれるものでもあった。
 
「来年もここで会おうね」と約束してから一年後。
私たちはまた同じ場所で再会することができた。
昨年よりもさらに痩せたゆりこさんは、それでも素敵な笑顔でこう話してくれた。
 
「この一年、めちゃくちゃわがままになって、やりたいことは全部やってきた。もう悔いはないわ。しいて言えば、再婚したかったな~」
 
「えー! ドキンちゃん、いやいやゆりこさん、バツイチだったの? 知らなかったわ!」などと話しながら駅まで一緒に歩き、そして改札を入った別れ際。ゆりこさんは私に右手を差し出した。
 
10年以上、また来年! と言ってバイバイを繰り返していたけれど、握手をするのはこれが初めてだった。
 
長いお付き合いなのに、初めて触れるその手を取り、「ゆりこさん、またね」と言ってみた。
するとゆりこさんはうなずくことなく、私の手を強く握り返してきた。
弱弱しくも力強い握力で、会えるのはこれが最後だよと、ゆりこさんが伝えている気がした。
 
何か気の利いたこと言わなきゃ。ゆりこさんの手を握ったまま考えるも、言葉が浮かばず。
あふれそうな涙を抑えるために、「かぐや姫はもうすぐ月に帰るのだ」と必死に思い込もうとした。
気が付けば、私は笑顔で「ありがとう」と言っていた。
 
するとゆりこさんはにっこり笑って、「ありがとね!」と言って手を放し、私に背を向け、振り返ることなくホームに続くエスカレーターを降りて行った。
見えなくなるまで見送った後ろ姿は、私が最後に見たゆりこさんだった。
 
しばらく、あれでよかったのか……と悩んだ、ゆりこさんにかけた最後の言葉。
「ありがとう」
のちに、あれでよかったのだと思えるのは、地球に残る私に残してくれた、「悔いはない」というゆりこさんの言葉と、最後の別れ際に見せてくれた笑顔のおかげだと思う。
あの日以来、今日一日に悔いを残さないよう、そして人との別れ際は必ず笑顔でいるよう心がけている。
 
あれから3年。1月になると変わらずバレンタインイベントでパティシエさんには会うことができる。昨年も今年も、パティシエさんと二人で、「ゆりこさん、ここにいるね」と、笑顔で彼女のことを思い出せている。本当に近くにいるのを感じる。
 
まるでおとぎ話のような出会いと別れで、私に強烈な印象を残してくれたゆりこ姫。
年に一度、こっそり月から遊びに来ているに違いない。
 
 
 
 
***
 
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