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“庶民の”懐石料理

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記事:飯田裕子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
さて、何の料理か当ててみてほしい。最初はそのまま味わう。次に好きな薬味をかけて食べる。たいがいは、わさびとか、ねぎ、三つ葉、海苔などが添えられることが多い。ここまでだと、そば? 鉄火丼? なんでもありそう。3杯目は、多くのお店では「お茶漬け」にする。熱々のお出汁をかけていただきます。最後のシメは、好きなお味で……。
 
この料理。名古屋であれば、答えは「ひつまぶし」。うなぎを腹から割いて串に刺し、炭火でよく焼きながら余分な脂を落とす。そしてちょっと焦げて外側がカリカリになった身を、その店秘伝のタレにつけながら、また焼く。出来上がったら、それを細かく刻んで、「おひつ(桶みたいな木の入れ物)」に入れたご飯の上に載せて、薬味を別に添えて出来上がり。
一皿で3度も4度もおいしい料理って、ひつまぶしだけではないか、と名古屋人は自負する。
 
ひつまぶしは、”庶民の”懐石料理だと思う。懐石料理とは、元は「お腹を温め、空腹をしのぐ程度に食べる軽い料理」のことだそうだが、現在では、日本料理店で供されるコース料理を思い浮かべる方も多いだろう。ここで言っている意味は、コース料理の方だ。ひつまぶしは、頼んだのは一皿なのに、いろいろな楽しみ方ができるので、まるでコース料理のようにして味わうことができる。
 
「薬味を添えたって、お出汁をかけたって何が違う?」と思った方。この少しの手間を加えただけで、また全く違う料理のようになるのだ。是非試してみてほしい。うな重だと、最初から最後まで同じ味なので、山椒のかけ具合や漬物などで、少し気分を変えながら食べる必要があるが、ひつまぶしの場合は、ちょっとくどく感じてきたところで、新鮮に、またあっさりといただく機会が最初から用意されているのである。あるフランス人シェフはテレビで、「味が濃かったものをだんだんと薄くしながら食べる料理はフランスにはないので、とても斬新だね」と言っていたっけ。
 
他には、日本料理店の懐石料理は、豪華なお食事というイメージもあるから、「豪華」「ごちそう」という意味も入っている。近年はうなぎは高い。ひつまぶし一杯の相場が、安くて2,500円ぐらいから、通常は3,500円ぐらいだから、そんなに頻繁には食べられない。もっとも、江戸時代は、庶民の食べ物だったようだけど……。
 
では改めて、なぜ“庶民の”と付けたのか。実はひつまぶしは、大人数で食べる時に効果を発揮する。そもそもが、大きな「おひつ」の中でご飯とうなぎを「混ぜる(まぶす)」ことから「ひつまぶし」という名前になったぐらいである。たとえ、うなぎが人数分そろわなくても、刻んで並べて、食べる頃には混ぜ込んでしまうから、うなぎがちょっと足りなかったなんて、分からなくなってしまう。これを「庶民の味方」と言わずして何と言おうか。
 
ひつまぶしは、わいわいとみんなで桶から取り分けて食べるのも楽しいものだ。ごちそうをみんなで分け合って食べている気分になる。おじいちゃん、おばあちゃん、おとうさん、おかあさん、子供数人といった家族のだんらんだったらなおのこと、仲間で集まった部活動後の打ち上げや、県外から来た方も含めた会合後の立食パーティなどでも、ひつまぶしの由来や食べ方、味の感想を話すうちに、すごく打ち解けた雰囲気になる。口の悪い人には、単なる名古屋流の節約の仕方だと言ってくる方もいるが、節約も出来るうえにごちそうも食べられて絆も強まるのだから、いいことずくめではないか。
 
ひつまぶしを考案したとされる老舗の一つによれば、大きなおひつに数人分のうな丼をまとめて入れたのが始まりだったそうだ。出前が多かったため、利便性を考えてのことである。またその時、うなぎだけ誰かにさらわれてご飯だけ残ってしまうのを避けるために、うなぎを刻んでご飯に混ぜてみたら、それが大好評だったのだとか。生活の知恵が、今の名古屋の代表的な料理を生んだのだから、何が幸いするか分からない。でも、薬味を添えたり、お茶漬けにしたりして食べる方法を考案した人は、きっともっとえらい。誰だか分からないけど、どうもありがとう!
 
ひつまぶしの一般的な食べ方は、最初に述べた通りだけれど、特に作法が決まっているわけでもないので、好きに食べればいいようだ。名古屋へ来た最初の旅行では、お店の人にうかがった通りに食べてみて、慣れてきた3回目ぐらいの旅行では、さも通の人のように、好きな食べ方から始めるのもいい。常連さんの中には、お出汁が熱いうちにお茶漬けにしてしまって、後からうなぎとご飯だけで楽しむ人もいるそうだ。
 
私たちが食べているうなぎのほとんどは、稚魚のシラスウナギを養殖で大きくしたものだが、現在は、シラスウナギ自体の漁獲量が減少し、それがうなぎ料理の価格を上げている。2014年には、国際自然保護連合(IUCN)がうなぎを野生での絶滅危険性が高い種に指定した。私たちは、いつまでうなぎを楽しめるだろうか。庶民の懐石料理が高級料亭の懐石料理にならないように切に願う。地球温暖化への取り組みが急務なように、うなぎをめぐる環境保全(漁獲規制や密輸取り締まり)にも目を向けた方が良さそうだ。
 
 
 
 
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2021-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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