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占いってどうなの? クリスマス会の日の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:秋野ゆみこ(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
ない!
グーグルマップに示された地図を頼りに歩いているはずなのに道がないのです。
どうしよう。遅刻しちゃう。私はスマホを片手に小走りに走っていました。
冷たい北風がセットした髪を乱しますが、そんな事は気にしていられません。今日は絶対に遅刻出来ない日なのです。
 
私は、オンラインのコーチングスクールでコーチングを学んでいます。大人になってから仲間を作る難しさを感じている中で、このスクールはとても雰囲気が良く楽しい仲間にたくさん巡り合えました。
今日はその仲間達とのクリスマス会の日です。
1年もオンライン上で話をしてきた仲間とリアルに会えるのは本当にワクワクします。
 
そして、浮かれた気分とは別にもう一つ目的がありました。
副代表の順子さんに謝りたかったのです。先日、順子さんとセッション練習の予定を組んでいたのですが、私が忘れてすっぽかしてしまったのです。順子さんは優しい人で、人望も厚くとても良い人なのですが、時間に厳しい事はスクール内でも有名でした。もちろんメールで謝りましたが、その後の関係が何となくギクシャクしている気がして、顔を合わせてもう一度謝りたい気持ちでいっぱいでした。
 
クリスマス会に参加する前に旅行代理店に向かいました。コロナが落ち着いて来ているみたいなので年始は友人と温泉にでも行こうかと思っています。予約はしてあるので支払いだけです。私は予約票を渡しました。ところが、
「少々お待ち下さい」
と言ってお姉さんはパソコンと睨めっこです。そして、別の人を呼んできて二人で相談が始まりました。どうやら私達の旅行がちゃんと予約になっていなかったらしいのです。
私は暗い気持ちになりました。
そして、最悪の事態が起こりました。
「申し訳ございません」
と言って、別の店員さんがお茶を持って来たのですが、なんと茶碗をひっくり返して私のスカートにお茶がこぼれたのです。
運の悪い事に私は白いスカートを選んでいました。
「ちょっと! いい加減にしてよ!」
私は声を荒げました。私は普段はどちらかと言うと温厚なのですが許せる限界を超えていました。
「もう結構です!」
私は店を飛び出しました。
 
歩きながら先月やった占いの事を思い出していました。
私は占いにまったく興味がなく、信じてもいないのですが、占い好きの友人が「特別割引・ペアで5000円」というチラシを持って来ました。そして一緒にやって欲しいと頼まれたのです。けっこう当たると評判なんだと言っていました。私は、手相と生年月日と名前の字画を合わせて占うその占いに、胡散臭さしか感じませんでした。その時に言われたのが、
「12月後半は凶の流れだから大事な事は別の月にしなさい。流れの悪さをひっくり返すには赤を味方につける事」
今は12月後半です。忘れていたはずの占いがついつい頭をよぎります。
 
もうスカートを履きかえている時間はありません。仕方なくそのまま会場に向かっていると、今度は足が痛くなって来ました。靴擦れです。今日の為に新しい靴を買ったのですが、それが仇になったようです。もう泣きたい気持ちでコンビニで絆創膏を買いました。このくらいついてないと、もう今日はダメなんじゃないかと思えます。順子さんとの関係がますますこじれたらどうしよう。そう思うと気が重くなりました。
 
そんな気持ちを引きずって会場の近くまで来たのですが、冒頭のように道に迷ってしまいました。
段々、開始時刻が近づいてきます。私は焦って本当に泣きそうでした。やっと指定のお店に着いたのは開始より20分過ぎでクリスマス会はもう始まっていました。
ただ、幸いだったのは店内が薄暗かったのでスカートのお茶の染みは誰にも気づかれそうになかった事です。
 
幹事さんに遅れた事を詫びて、見回すと30人くらい集まっていました。みんな笑顔で楽しそうです。私も自分の席に案内してもらいました。
案内された席はなんと順子さんの右隣でした。
「こんにちは」
私は笑顔で言ったつもりでしたが、顔はひきつっていたかもしれません。
「こんにちは」
順子さんも短く挨拶を返してくれました。
「道に迷っちゃって」
私は続けて言いました。
順子さんはもうこちらを見ません。私は時間にルーズな人間と思われているような気がして、気が気ではありませんでした。
順子さんに話かけようにも、顔を左隣の人の方に向けていて私が入り込む隙がないのです。
大皿に盛られたサラダが目の前に運ばれて来たのを良い機会と思い、
「どのくらいよそりましょうか?」
順子さんに尋ねますが、
「適当で大丈夫よ」
と、素気ない返事が返って来ただけで、取り付く島もありません。明らかに私を拒否しているように思えます。やっぱり嫌われちゃってるのかな。順子さんに嫌われたらスクールに居づらくなっちゃうな。このスクールが気に入っているだけに残念な気持ちでいっぱいになりました。
順子さんとの事を除けばクリスマス会はとても楽しいものでした。オンラインではしょっちゅう顔を合わせている仲間達とリアルに顔を合わせるのはとても新鮮でしたし、コーチングという共通の話題があるので、話が尽きる事もありませんでした。結局、順子さんに謝る事ができないまま、あとは最後のデザートを残すだけとなりました。
「デザートを食べる前に」
幹事さんが立ち上がって言いました。
「代表の洋子さんと副代表の順子さんに受講生からの感謝状を贈りたいと思います」
お二人に花束と感謝状が渡されました。みんな笑顔で拍手しました。
と、その時突然
「イタッ!」
順子さんが叫びました。見ると順子さんの親指から筋状の赤い血が見えました。渡された感謝状で指を切ってしまったのでした。
「大丈夫ですか?」
みんな心配して聞きます。
「大丈夫よ」
と、答えますが血は止まっていません。私は咄嗟にコンビニで買った絆創膏を差し出しました。
「これ使って下さい」
順子さんは受け取りました。そして、今日初めてきちんと私の方を見て
「ありがとう」
と、言ってくれました。
 
そこには先ほどまでとは違った空気が流れていました。少し前まで冷たかった空気が温められた感じです。それはとても自然なタイミングでした。
私は、
「先日は、約束をすっぽかしてしまってすみませんでした」
と、謝りました。
「本当にね。私との約束をすっぽかす人っていないのよ」
順子さんは笑いながら言いました。
「今度からは気を付けてね」
「ありがとうございます」
 
やっと心の重荷は取れました。最後に運ばれて来たデザートが格別だったのは言うまでもありません。
スクールもこのまま続けられそうです。
私の心には安堵の気持と共にあの占い師さんの言葉が蘇りました。
「12月後半は凶の流れだから大事な事は別の月にしなさい。運の悪さをひっくり返すには赤を味方につける事」
確かに順子さんの赤い血がその場の空気を変えた事は間違いありません。偶然持っていた絆創膏を渡した事が「赤を味方につけた事」になるのだろうか。
「占いなんかくだらない」「絶対に信じない」と思っていた私の信念が今はぐらぐらと揺れています。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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