がっかりで終わった婚活イベント
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:蒲生厚子(ライティング・ゼミ名古屋会場)
「結婚してよかった」
知人に結婚紹介所で出会った女性と60歳手前でめでたく再婚した男性がいる。毎日がとても幸せそうで、たっぷりとおのろけを聞かされた。
もう一人、60歳まで独身だった男性が婚活であっという間に結婚した。まさに電光石火の勢いで、ここまで人生180度変わるのかというのを目の前で見せられた。
そのほかにも、女性の友人が婚活成功で次々と結婚式を挙げた。恋愛はなかなか進まなくても、婚活は別物のようで、決心した後はみなさんとても幸せに人生を送っている。婚活を決心したことで人生がごろりと動いたのだろう。
そういった環境の中で、夫に先立たれた私も、婚活してみようと思い立った。
だって、独身なのだから資格はある。今後数十年も生きていくだろう中で、一人は淋しい。気の置けない茶飲み友達でもいれば、人生楽しいではないか……。はっきり言って結婚願望はなく、楽しみや悲しみを語り合える異性の存在を欲していたというのが正直な気持ちだった。
そして見つけた一枚のチラシ。「中高年の婚活イベント」
ホテルで15名くらいずつの男女が集まる、ねるとんパーティ形式のものだった。
はじめての経験にドキドキしながら、会場に入った。
大ホールに長テーブルが並んでいて、番号札が置かれている。受付でもらった番号札と同じ番号の席に座る。向かいには、同じく番号札で席を決められた男性が座っている。ひとりずつ向かい合うように、人数を合わせているようだ。
テーブルには一人ずつクリップボードにはさまれた、白紙の自己紹介カードが置いてある。
仕事、居住地、趣味、好きな音楽など、お互いを知るために有効な最低限の項目が並んでいた。セミナーの自己紹介にも近いものがあるなーと思いながら眺めていると、イベントが始まった。どんな展開になるんだろうとワクワクが止まらない。楽しそう! というのが第一の感想だった。
最初は自己紹介カードに記入して、向かいの異性とお互いにカードを交換する。そして5分ずつ質問をしながら会話するという流れだった。最初のお向かいの男性とは趣味が似かよっていて、話していて楽しく、あっという間に時間が過ぎた。もう少し話したいなと思うくらいが良いのだろう
一人終わったら、男性が席をひとつ左にずれる。すると女性の前に次の男性が現れるというシステムになっていた。なるほど、これで全員と対面できるわけか。これは面白い。こんなに大勢の男性と会話できる機会は滅多にない。もう楽しくてしかたなくなってきた。
前の男性に自己紹介カードをみながら、質問していくのはとても興味深い。自営業の方を前にして「最近、景気はどうですか?」と突っ込んでいる自分に「おいおい、ビジネスじゃないんだよ。婚活だぞ」とあきれながらも楽しさが止まらない。
もともと結婚願望がないのだから、気楽な人間観察の気分だった。
突然「黒がお似合いですね」と言われて「えっ?」と言葉に詰まった。
服を選ぶこともせずに、イベントだからとフォーマルとカジュアルの中間くらいの黒のレースのワンピースで臨んでいた私。周りの女性はというと、ほとんどがピンクや白系の淡いファッションだった。優しさ、かわいさ、慎ましさというイメージを高める服装だ。
そういうことか。この時点で、自分の意識の低さに愕然とした。
そうこうしているうちにあっという間に自己紹介タイムは終了。
さて、これからどうなるのか好奇心いっぱいに期待していただけに、次のアナウンスにとても驚いた。
「これから告白タイムが2回あります。みなさん立って、女性の方は部屋の真ん中に一列に並んでください」
え?私が知っているねるとんパーティは、会場に適当に散らばって、気になる人のところで好きに会話するのだけど、一列に並べってどういうこと?
女性の皆さんもとまどっているのがわかる。
会場の真ん中に一列に並べと言われて、のろのろと席を立ってうろうろしている。
「速やかにお願いします。男性の方は気になった女性の所に行って、お話ください」
男性の方たちも突然のことにとまどっていた。3~4人が真ん中に並んでいる女性の所にいって話しかけていたが、ほとんどの男性は部屋の隅の方に散らばり、無表情に戦況を見守っていた。まさに壁の花になろうとしているように思えた。
私は真ん中につっ立って、その様子を眺めながらすごく恥ずかしめを受けている気分になっていた。周りの女性も同じ様子で、所在なく立ちすくんでいた。
「時間がないですよ。気になった方の所に行って話さないと、告白タイムは終わりますよ。
もう一度最後の告白タイムはありますが、お話できるのは今だけですよ!」女性司会者のきんきん声が耳に響く。みんな動こうといていない状況を見て、何を焦って居るのだ?
上から目線の物言いにむかついて、先ほどまでのワクワク感は静かな怒りに形を変えていた。主催者は楽しませる、応援するという姿勢が大切なんじゃないの? 私たちは物ではない。いつまでここに立って見世物にならなければならないの?
おそらくわずかな時間だった1回目の告白タイムが終わって、私たちは席につくことができた。
「最後の告白タイムです。紙を配るので、気になった方がいれば、その番号を書いてください。いなければ白紙でけっこうです」
最後のチャンスペーパーが配られた。気になる人もいたが、番号を書いたらどんな仕打ちが待っているのか、暴露なぞされたらたまらんと思い白紙で提出した。
さすがに暴露大会はなく、結果発表で「3組のカップルが誕生しました。イベント終了後に1階のラウンジでゆっくりお話ください」と、あっけなくイベントは幕を閉じた。
途中まで楽しかっただけに、後味の悪い思いでロビーに出て、横にいた男性に「お疲れ様でした」と言うと「お疲れ様でした」という笑顔が返ってきた。
「気になる方いらっしゃいました?」「いや。白紙で出しました」「私もです」「若い方たちはマッチングできていたようですね」
その言葉ではじめてしっかりと男性の顔を見た。そんな年でもないじゃない?
この人、どんなプロフィールだっけ? はっきりとは覚えていないが、悪くない。
「駅まで一緒に行きませんか?」
「もちろん、いいですよ」
その男性といろんなことを話しながら駅まで歩いた。
「もしよかったら、お茶でも飲みませんか?」
30分後に友達の家で浴衣パーティが始まる。手持ちのバッグには浴衣一式が入っており、私の頭は次のスケジュールに飛んでいた。
「今から、友達のうちで浴衣パーティなんです。時間に遅れそうなので、またの機会に」
そう言って彼と別れた。
なぜ、次の機会なんて言ったのだろう。お茶を飲みながらもっと話せば楽しいだろうという期待感があったのは否めない。頭と心がミスマッチだった。
次の機会なんて当然現れるわけない。どこのだれかも定かでないのだから。
その後、浴衣パーティのみんなに「バカじゃないの? 遅れても構わないし、なんなら来なくてもよかったのに。なぜお茶しなかったの?」とあきれられたのは言うまでもない。
あとのまつりとは、祭りはもうやって来ないということだ。
***
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