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マイクが教えてくれたこと


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記事:Allie(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
忘れもしない、あれは2017年の夏。
いつものように起きて、ニュースを見ながら朝食を食べていた時のことだ。
 
「チェスター・ベニントンが死亡」
 
目に飛び込んできた1つのテロップ。
頭が真っ白になって、足元がグラグラして、言葉を失った。
 
チェスターが、死亡? どういうこと? ウソだよね?
 
あとにも先にも、テレビを見てあんなに動揺したことはない。
 
チェスター・ベニントン。
彼はアメリカを代表するロックバンド、リンキン・パークのフロントマンだ。
 
リンキン・パークは21世紀で最も売れた音楽バンドと言われ、彼らが今までにリリースしたアルバムの売上は全世界合計で1億枚以上。グラミー賞受賞歴もあり、人気・実力ともにトップクラスのロックバンドだ。
 
これまでに発表したスタジオアルバムは計6枚。日本にも幾度となく訪れてライヴを行っている。リンキン・パークは日本でも比較的人気のあるバンドなので取材の数も多い。普段、音楽関係の翻訳が多い私のところにもインタビュー翻訳の依頼が舞い込んできていた。
 
元々ファンだった私はいつも二つ返事で依頼を引き受け、彼らのインタビューに日本語字幕をつけるという、おいしすぎる機会を何度も頂いた。最新の来日は2017年4月。その時のインタビュー映像も、日本語字幕を担当させてもらった。
 
インタビューはドラマや映画とは違い、アーティストは考えながら話している場合が多い。アルバムの製作過程や作った時の心情などを語る時は、本当の顔が垣間見える。彼らの答えを日本語にするにあたり、言葉の裏側にある真意を汲み取るため、徹底的に情報を収集する作業は欠かせない。
 
2017年4月のリンキン・パークのインタビューもそうだった。取材を受けていたのはチェスターと、もう1人のメンバー、マイク・シノダ。約30分にわたるインタビューでは、最新アルバムに込めた思いや制作過程、日本のファンや日本に対する思い、最近の出来事など様々なことを2人は楽しそうに語っていた。
 
パフォーマンスだけでは見られない素顔が見られて、私はますます彼らが好きになったし、11月に行われるライヴがとても楽しみになっていた。当然ながら彼らのことを徹底的に調べたので、原稿が仕上がる頃には親近感がより一層増していた。
 
そんな時に飛び込んできた、チェスター死亡のニュース。
 
彼と直接話したことはない。でも、祖父が亡くなった時よりも、実家で飼っていた犬が死んでしまった時よりも、今までに経験した誰かの「死」よりも、はるかに衝撃が大きくて、目の前の現実を理解できない自分がいた。
 
インタビューで素顔を知ってしまったから、彼の言葉を飲み込んで日本語に訳したから、彼は私にとって誰よりも近い存在になっていたのだ。あまりにつらすぎて、それ以来リンキン・パークのアルバムは聴けなくなった。聴くと胸が苦しくなって、勝手に涙がこぼれて止まらなくなってしまう。
 
そして私はチェスターの死を境に、頭のネジが飛んでしまったかのように海外アーティストのライヴに行くようになった。それまでも頻繁に行く方ではあったが、2017年夏以降は多い時で月に4回はライヴに行っていたと思う。
 
怖くなったのだ。
 
この機会を逃したら、このバンドはもう来日しないかもしれない。
この機会を逃したら、誰かが脱退するかもしれない。
この機会を逃したら、誰かが、死んでしまうかもしれない。
 
そんな恐怖に駆られていた。
もうチェスターに会えないというつらさを紛らわせたかったのかもしれない。
 
そんな状態がしばらく続き、チェスターの死から約1年。
夏の風物詩とも言える野外音楽フェス、サマー・ソニックでマイク・シノダが来日した。
バンドとしてではなくソロで来日して音楽フェスに参加した彼を、もちろん見に行った。
ステージに登場したマイクはこう言った。
 
「この1年、僕の会うファンたちはみんな感傷的だった。今日会ったみんなも目に涙を浮かべていたよ。(中略)今回のツアーは悲しいものになるかと思っていたけど、僕はチェスターに対して一緒にやってくれてありがとう、という感謝の気持ちの方が強いんだ」
 
マイクは悲しみを乗り越えて、チェスターに出会えたことを、思い出を祝福したいと言っていた。誰よりも親しかったメンバーが亡くなったのだから、彼の衝撃は計り知れない。どんなに苦しかったことだろう。マイクや他のメンバーのこと、そしてチェスターのことを思い、涙が止まらなくなった。
 
いない悲しみよりも、出会えたことに感謝を。
マイクの言葉は私にとても深く響いた。
 
正直に言うと、私はチェスターの死から4年以上経った今でも、彼がこの世にいないという事実を受け止め切れていない。もう少し時間が必要だけど、いつかマイクのようにチェスターがこの世に残してくれた音楽に感謝できる日が来たら、彼のことを思いながら再びリンキン・パークのアルバムに耳を傾けたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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